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婚約破棄と魔塔の男⑤

 鏡に映ったのはレベッカよりも若い三人の女性だった。


「レベッカ、この人達誰かわかる?僕、ちょっと人の顔と名前覚えるの苦手でさ」


「確か、この人はライラ・エヴァンズ侯爵令嬢、こっちはサナ・スペルマン伯爵令嬢、そして、こっちは…………」


 レベッカは水鏡に映った最後の女性の顔を見て絶句した。


 テイルズは目を見開いて止まったレベッカの顔を、どうした?といって覗き込む。


「ええと、ごめんなさい。この人はアイリーン。アイリーン・シュヴァイツ男爵令嬢よ」


「この人のこと知っているのか?」


「えぇ、私の親友よ……。ねぇ、テイルズ。この鏡に映っているのはベルベルトの彼女って事で本当に間違いないの?」


 レベッカは何かの間違いだと言わんばかりに口元を押さえた。


「どういう目的かまではわからないけど、少なくとも自らの意思で近づこうとしているのは確かだね。まだ彼女は君が婚約破棄されたって知らないんだよね?」


「えぇ……知らないはずよ……」


「じゃあ何か事業をしていて、その支援を受けたいとかっていう金銭的な目的とか」


「彼女はそういうタイプではないわ」


 レベッカがそう言うと、テイルズは口を(すぼ)めて視線を逸らした。


 これ以上アイリーンを親友と認定しているレベッカをフォローできないという事だろう。


 レベッカは椅子に勢いよく座り込んで頭を抱えた。


「はぁー……本当に今日は人生最悪の日よ……私が何かした?今まで愛想良くしてきたし、王太子妃になるための教育だって頑張ったし、強いて言うなら、ちょっと性格に裏表があるけど誰かに迷惑かけるようなことでもないし……」


「……なんか、そういうそつなくこなすところが気に食わないとか、いい子ぶってるとか、本当は性格悪いくせに王子に媚びて婚約者になったとか、女の人ってそういうところから仲違いすることよくあるよね」


 項垂れるレベッカの背中にテイルズがぼそりと言葉を吐くと、レベッカは涙目でテイルズを睨みつけた。


「じゃあ私はどうすればよかったのよー!」


「まぁまぁ。とにかくさ、今からする復讐って隠してきた本音を実行に移して自分の思いを解き放つ良い機会じゃないか!」


 そう言ってテイルズは励ますようにレベッカの背中をポンポンと叩いた。


「彼女達を自分に惚れて惚れて惚れさせて、最後にこっぴどく振ってやるっていう復讐と、王太子殿下に近づこうとする女の子達を排除することで殿下はレベッカとよりを戻そうと擦り寄ってきたところをこれまたこっぴどく振ってやるという復讐。できる限りこいつら全員の財産も奪い取ってやりたいよな!あとは僕が楽しくなる何かも付け加えて」


 レベッカはテイルズの言った一番最後の言葉が小さすぎてよく聞き取れなかったが、レベッカの姿で清々しいくらい楽しそうに笑うテイルズを見て、自分はこんな風に笑えるんだと思い出した。


(少なくともこの五年は、こんなに大口開けて笑うような事絶対になかったものね)


 もともと帰る場所はない。


 復讐をしたからといって帰る場所ができるわけでもない。


 しかし、少なくとも、復讐が終わった時には目の前の自分のような顔をして笑えるのではないか。


 レベッカはそう考えると自然と背筋が伸びる気持ちがした。

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