婚約破棄と魔塔の男④
「そんなことより、身体が入れ替わったわけだけど、何か感想とかない?」
テイルズは自らの足元の高いヒールに戸惑いながらも、根っからの研究者なのか、わくわくとした表情でレベッカに聞く。
その様子にレベッカも調子が狂うのか、「そうねぇ」と口を尖らせたまま答えた。
「もっと難しい儀式的な事を想像していたから、あまりにもあっさり入れ替わり過ぎて、ちょっと気持ちが追いつかないわ」
「なるほどね。ちなみに、その身体でしてみたいことって何?」
レベッカは言う事に少し躊躇いがあったが、王太子に嫌がらせをするために使うのに、テイルズのように騙し討ちをするのは気が引け、正直に言うことにした。
「私、王太子殿下の婚約者だったの」
「だったって?」
「さっき婚約破棄されたのよ。婚約者がいると女遊びをするのに不都合なんですって。だから、私がその女遊びをする相手を全部奪い取ってやろうと思ったのよ」
どう?私を止める?とレベッカはテイルズに視線を送った。
しかし、テイルズはレベッカの予想に反する反応をした。
「なんだよそれ……最高じゃないか!最高に有意義な使い方だよ!いいね!面白い!僕にもそれ協力させてくれよ!」
そう言ってテイルズは立ち上がり部屋の隅にある大きな箱を開けて何かをゴソゴソと探し始めた。
「まずは相手の女を知ることが先決だよね!」
そう言って何か見つけたのか、あったあった、と箱から人の頭ほどの大きさをした水瓶を取り出した。
「ちょっと待って、テイルズ。あなた、王家お抱えの魔法使いなわけでしょ?そんな王家を裏切るような事に手を貸していいわけ?」
レベッカがそう言うと、テイルズはキラキラとした瞳で舌を出し、ぶりっ子のポーズで答える。
「なに言ってるのよ、今はあなたがテイルズでしょ?私は王太子殿下に裏切られたレベッカよ!あんな男地獄に堕ちればいいわ!」
テイルズの清々しいまでの裏切りに、レベッカは思わず声を出して笑ってしまった。
「ぷっ、あははははははは!!」
「ははっ!まあ、そういうことで。僕たちは一心同体ならぬ一心異体。流石にどちらの身体でも断頭台には上がりたくないからね」
そう言うと、テイルズは何処かから持って来たフラスコを手に取り、先ほど取り出してきた水瓶に左手を入れ、フラスコの中身を全て水瓶に注いだ。
試薬に浸かった手が僅かに光り、手を取り出すと水瓶の水面はまるで鏡のように銀色を纏った。
「映せよ水鏡。ベルベルトに近づく女人は何処にいる」
テイルズが水瓶に問いかけると、水瓶に映像が映し出された。