復讐の三手目④
後日、テイルズと入れ替わったレベッカはアイリーンの家を訪れた。
ベルベルトと婚約する前はよく訪れていたため、見慣れた門構えに懐かしさを感じるくらいだ。
レベッカはベルベルトに謁見した時同様に顔全体を隠したマスクを付け、家の扉をノックすると、待ち構えていたかのようにアイリーンがすぐに顔を出した。
「こんにちはっ!魔法使いさんですか?」
長いブランドの髪の毛を二つに括り、鼻に抜けるような高い声の幼い顔。レベッカはそんな彼女の事を昔は可愛いと思っていたが、いざ目の前にするとこんなに痛々しかったっけ?と、まるで魔法が解けたように別人のように感じた。
「初めまして、テイルズ・ジル・ウィラードと申します。アイリーン・シュヴァイツ男爵令嬢でいらっしゃいますか?」
(ていうか、あんたが先に名乗りなさいよ)
痛々しい上に五年前から変わらない振る舞いにレベッカはどんどんと冷静になっていく。
「はいっ!殿下から話は伺っておりますわ!とても楽しみにしていたんですの!」
両手を合わせて顔の横に添える仕草をするが、今時そんな振る舞いを可愛いと言う男はベルベルトくらいだろう。
ふわふわと歩くアイリーンに案内され、レベッカは愛想笑いを浮かべながら座り慣れた応接室の椅子に座った。
「ところで魔法使いさん、魔法使いさんは仮面をいつも着けていますの?」
アイリーンはニコニコと笑い唐突に質問を投げかける。
「ええ、理由がありまして」
「えー!すごく気になりますわ!美容品を扱うくらいですもの、絶対に綺麗なお肌をしていると思いますの!」
無邪気な言葉と表情に今まで騙されていたがレベッカは確信した。
(この子、かなり性格悪いわね。ベルベルトから顔の事を聞いていてこの質問してるわけね。話の半分も理解できない子だからおそらく醜い顔を隠しているくらいの認識でいるんでしょうけど)
「お嬢様の美しさには敵いませんよ。ベルベルト殿下も鼻が高いことでしょう」
「まぁー!そうかしらーフフッ」
レベッカは適当に言葉を返しつつ、テイルズに習った通りに机の上に発明品を並べていくと、アイリーンも興味深々とい―う表情をする。
「では、こちらから肌ツヤを良くする煎じ薬、日焼けから肌を守る塗り薬、好きな髪色に変えられる絵の具となっております。あと―――殿下にご内密にしていただけるなら……真実が見えるレンズなんてものもございます」
レベッカは仮面で隠れた口角を弧の様に描き、青い瞳をキラリと鈍く光らせた。




