復讐の三手目③
テイルズが指を鳴らすと、部屋の隅にあったテーブルが犬のように駆けてきて、テイルズがもう一度指を鳴らすとテイルズの前で大人しく動きを止める。
その上にテーブルクロスを広げ、持ってきた鞄から所狭しと自慢の魔道具を並べて行くと、ベルベルトも待ちきれなくなったのか、椅子から飛び降りて並べられた魔道具を物珍しそうに見始めた。
「これはなんだ?」
「そちらは好きな夢が見られる帽子でございます」
「これは?」
「そちらは排泄物がお花になる薬です。トイレに間に合わない時に重宝しますよ」
「じゃあこれは!?」
「お目が高い!そちらは未来を映す鏡でございます」
それを聞いたベルベルトは動きを止め、ゆっくりと鏡に触れた。
「未来とな?」
「ええ、未来です」
テイルズはベルベルトの横から手を伸ばし、鏡にゆっくりと魔力を注ぐとベルベルトが怒り狂っている映像が映し出された。
手には何やら紙を握っている。
「この紙は、この前大臣の勧めで買った金山の権利書だ」
「殿下は何を怒っておられるのでしょう?」
映像は切り替わり、金山内部へと移動する。どうやら、金山で事故が起こり、その賠償の責任と事故によって塞がれた穴はどうやっても取り除くことが出来ず、これ以上金山から採掘不可能であることが予想された。
「そんな……なんて事だ! おい、これは本当に未来を映すんだろうな!?」
ベルベルトがテイルズの胸ぐらを掴んだが、テイルズは抵抗する事なく目を閉じ、首を左右に振った。
「残念ながら……しかし、逆に言えば、今ならまだ間に合うと言う事です。さっさとこの金山を売ってしまいましょう!」
「しかし……まだ何も元を取れていないのに、これでは大損ではないか」
「目先の損を考えると映像のようになってしまいますよ!」
ベルベルトは唇を噛み締め声にならない声を上げてこの世の終わりかのように頭を掻きむしった。
それも当たり前である。あの金山を買うためにベルベルトは自身が自由に使えるお金だけではなく、国王陛下からも用立てをしてもらって文字通り全て注ぎ込んでいた。
「私は殿下の事を心配しているのです」
ベルベルトにとってテイルズは初めて会う胡散臭い魔法使いではあるが、ウィラード家は何世代にも渡って王宮に仕えてきた由緒ある家柄で、今では少なくなった貴重な魔法使いである。
その魔法使いが見せる道具が嘘であると証明する事は今この瞬間に誰も出来ないだろう。
「ッ……分かった、今すぐ売ろう……」
「ご英断で御座います!」
そう言ってテイルズはもう一度鏡に触れ、今度は笑っているベルベルトとアイリーンの姿を映し出した。
「おや、映像が変わりましたね。こちらの女性の事はご存知ですか?」
ベルベルトは少し顔を上げ、あぁと答える。
「私の今最も溺愛している恋人だよ。彼女がどうかしたのか?」
「ええ、この女性は殿下ととても相性が良いみたいです。この女性を愛し続ける事で幸運が訪れる事と思います」
先程まで死んだような顔をしていたベルベルトはそれを聞いた途端、急に元気になり、やっぱりか!とキレの良い声をあげた。
「やはり彼女は私の運命の人だったのだな―――」
感傷に浸るような表情に、テイルズは思わず怪訝な顔を露わにしてしまいそうになったが、レベッカの顔を思い出して何とか耐え凌ぎ「ところで」と言葉を発した。
「殿下の恋人にも私の魔道具を紹介したいのですが、後日改めてお取次頂けませんか?肌を綺麗にする薬草や、瞳に星を浮かべる道具などもあり、是非女性の意見が聞きたいのです」
ベルベルトは少し考えたが、アイリーンはそういった美容品に目がない事は分かりきっていた。
最近はプレゼントにもネタが尽きてきていたし、何よりお金がかからないところが助かるというのが本音だったが、小さなプライドからか「仕方ないな」とあえてめんどくさそうな表情で了承した。




