復讐の三手目②
レベッカの作戦の初手としてテイルズは新しい魔道具を紹介したいという名目でベルベルト王太子との謁見の約束をこぎつけた。
テイルズは王宮仕えの魔法使いとはいえ今まで一度もベルベルトと顔を合わせた事は無かった――というのも、ベルベルトは自分の仕事は全て他人任せな上に毎日のように遊び出歩いているため、魔塔に引きこもっているテイルズと出会う事など起こり得なかったからだ。
今回の接触の口実である魔道具の紹介となると、作動に魔力が必要となってくるため、レベッカではなくテイルズ本人に謁見してもらう必要があった。
「ねぇ、頼んでおいてこんな事言うのもなんだけど、本当に大丈夫?」
「大丈夫だって!レベッカがやってたみたいにやればいいんでしょ?」
「とにかく余計なことは言わない!私の指示をよく聞く事!わかった!?」
「わかった!」
良い返事をしたテイルズのやる気に反比例して信頼度が下がっていくのは何故だろうかと、レベッカはじっとりとした目を向けた。普段の言動からどれだけ不安があろうとも、魔法においては目の前の男程優秀な者はいないというのもまた事実である。
「そんな心配しなくても大丈夫だって!じゃあ行ってくるねー!あ!……それでは、行ってきますね」
いつもより声をワントーン下げ、わざわざクールに言い直してウインクをするテイルズ。ふざけてはいるが破壊力は抜群である。
「はいはい、それではお願いします」
レベッカは照れた顔がバレないように顔を背けたが、ニヤリと笑ったテイルズがレベッカの顎に手を添えた。
「レディ、少し顔が赤いようですがどうしました?寝室まで運びましょうか?それとも医者を呼びましょうか?どなたか!この中にイケメンはいらっしゃいませんか!」
「もう!わかった!わかったから!早く行ってちょうだい!」
追い出される形で魔塔を出て来たテイルズは、レベッカの指示で美男であることがバレないように顔全体を覆う仮面と魔法使いの正装である漆黒のマントを身につけベルベルトの待つ一室へと向かった――――
***
「ほう、其方がウィラード伯爵か。正体不明の天才魔法使いだという噂は聞いているが、王太子である私の前でも素顔を見せぬとは、どういう了見か聞いてもよろしいかな?」
ベルベルトの前で片膝をついたテイルズは想定通りの小言が飛んできたため、準備しておいた言葉を返した。
「ベルベルト王太子殿下、お初にお目にかかり光栄です。
恥ずかしながらまだ魔法使いとして未熟だった頃、黒魔術の解析を行った際にその呪いを受け、またその呪いは私の素顔に刻印された呪符より人に伝染するものでございます。
皆様の生活を脅かさぬために私は人より隠れ、素顔を隠して研究を続けておりますゆえ、多大なお心にてご無礼をお許し下さい」
「ふむ。なるほど、それ故に私への謁見も遅れたというわけか。ならば仕方あるまい」
『なーにが、ならば仕方あるまいよ!偉そうな喋り方して馬鹿なのどーせすぐバレるんだから取り繕うだけ無駄よ無駄!』
ベルベルトの発言に被せるようにしてレベッカの声が脳内に響き渡る。
(もう〜レベッカ、うるさいし王太子の声聞こえ難いってば!あ、僕も今まで同じ事してたのか!)
自らの行為を思い出して反省するテイルズに対して「それで……」とベルベルトは続けた。
「私に見せたい発明品とやらは一体何かな?」
「はい、本日は色々とお持ちしましたので一通りご紹介させて頂きます」
今まで水鏡越しに見ていただけのテイルズは今この瞬間が楽しくて仕方が無いとでもいうように仮面の下で乾いた上唇を舌でぺろりと一撫でした。
(さて、僕もやればできるってところをレベッカに見せないとな)