婚約破棄と魔塔の男②
男はレベッカと同じか少し年上くらいだろう。
ブロンドの髪は少しウェーブがかかっており、クッキリとした二重で整った容姿をしている。
このような出会い方でなければ印象は大きく違ったはずだ。
「まあ、詳しい話は中でどうだい?」
そう言って男は塔の古びたドアに手を当てた。
すると、扉は薄らと光りを放ち、その光が消えると共にドアという存在も消えていた。
「あなた、魔法使いなの?」
「え?知ってて来たんじゃないの?」
男は塔の中に入り、指を鳴らすと目の前にテーブルセットが用意され、宙に浮いたティーポットからカップにお茶が注がれた。
レベッカは怪しみながら塔の中に足を踏み入れると入り口は消え、男に促されるままに椅子に腰掛けた。
「それで、さっきの提案のことだけど、君はどう考えてる?」
男はレベッカの前の椅子に座り問いかけた。
「私とあなたが入れ替わるって、貴方は何故そんなことしたいの?」
「興味本位だよ。人の魂を入れ替える薬を作ってはみたけど、どうせなら綺麗な女性になってみたいって思ったから。あと、君ならこの提案を了承してくれそうだと思ったから?」
語尾を上げて男は答えた。
「その提案を受けて、私にはなんのメリットがあるわけ?」
レベッカも負けじと語尾を上げて答え、腕を組んだ。
「そうだなぁ。僕、こう見えても結構偉いんだよ。それなりに好きなことしていけると思うけど?あと、こう見えて僕はモテる」
口角をあげてドヤ顔をする男の顔を引っ叩きたくなる衝動を抑え、レベッカは冷静に考えた。
(確かに、この男のルックスでまともに振る舞えば女性は恋に落ちても不思議じゃないわ。あのクソ王子の彼女達を全員奪い取るってのも悪くないわね……ふふ……想像しただけで面白い事になりそうだわ)
「ちなみに、入れ替わった後は元に戻れるの?」
「もちろん。毒を作る時は解毒剤も必ず作るってのが魔法学者の基礎基本だからね」
「じゃあ、契約として話を詰めましょ。入れ替わっている間の報酬と元に戻るタイミング。これは私の自由にさせてもらってもいいかしら?」
「報酬に関しては常識の範囲内なら好きにしてもらって良いよ。研究の経費は王室から落ちるし、特に僕にとって必要の無いものだからね」
「分かったわ。私の名前はレベッカよ。レベッカ・アンダーソン」
「僕はテイルズ・ジル・ウィラード」
レベッカは男の名前を聞いてピクリと反応した。
(ウィラードって、あのウィラード伯爵家のこと?確かに私と同じくらいの歳って聞いていたけど、王宮内で魔法の研究をしていたなんて……)
「よろしく、レベッカ。僕のことはテイルズって呼んでくれよ!」
レベッカは身分差に一瞬たじろぎはしたものの、悪意のない笑顔と握手を求める手を向けられ、覚悟を決めた。
(なるようになればいいわ!どうせもう私には何も無いんだから!)
「よろしく、テイルズ」
レベッカがテイルズの手を握り返すと、テイルズは優しくニコリと笑い
「じゃあ、さっそく!」
と、テーブルのカップに入ったお茶を一気に口に含み、そのままレベッカに噛み付くようなキスをしてお茶をレベッカの口内に流し込んだ。