復讐の二手目〜潰し合い〜①
サナ・スペルマン伯爵令嬢は恋多き女性と言われていた。
彼女の恵まれたルックスもその理由の一つだ。
出るとこは出ているが締まるところは締まっている豊満な身体。どこか儚げな哀愁と色気が漂う表情。気怠げな中にあるねっとりとした声。
彼女は苦労せずとも男性が寄ってくる―――所謂モテる女性なのだ。
「でも、レベッカ。まだエヴァンス嬢に復讐を終えたわけじゃないだろ?そんなに焦って次に移っていいのか?」
テイルズの質問に対し、レベッカは顔の前で人差し指を左右に振り、どこか得意げに答える。
「テイルズ、婚約者がいると分かってて恋仲になる人ってどういう人だと思う?」
「んー、自分が選ばれるって自身がある人とか?」
「なるほどね。確かにその自信がないと人に恨まれてまで付き合わないわよね」
そう言ってレベッカは自分の右手の甲を見つめた。
ベルベルトに婚約破棄された日、思い切り木に殴りかかった時にできた傷だ。
まだ治りきっておらず、ふとした時に痛みが走る。
レベッカにとって、この痛みが原動力の一つとなっているといっても間違いでは無かった。
「あのね、ああいう人たちは基本的に人の持ってる物が良く見えて、人の物程欲しくなるのよ。つまり……」
「つまり……?」
「ライラとサナ潰し合い作戦よ!!」
レベッカが強気な目で訴えかけると、テイルズは押され気味に「お、おう」と声を漏らした。
「なんとなーく買い物に行った時、すごく素敵な食器があったとするわ、でも、家に食器くらいあるし、別に無理して買う必要はありません、どうしますか!?」
「ま、まぁ買わないよね」
「では、貴方の後ろで見ている人もその食器を買いたそうに眺めています。はい、どうしますか?」
「その人が欲しいなら譲るよ」
「ちーがーうーのーよー!!」
求めている答えと違ったのかレベッカは両拳を握りしめながら声を上げた。
「あなたはそうかもしれないけど、あの人たちの思考は違うの!買われる前に買わなきゃって思うの!」
レベッカは自分を落ち着かせるようにフゥー、と息を吐き出しドカリとすぐ側にあったソファーに腰掛けた。
「とにかく!サナ・スペルマンとも接触して顔を覚えさせといて、その後にライラと接触しているところをサナに見せつけるのよ。そうしたらサナはどうするでしょうか!」
テイルズはようやく理解したのか、よくそんなことを思いつくもんだと一周回って感心した。
「女性たちはすごい世界で生きているんだね」
何気ない一言だったが、レベッカとテイルズとの間に引かれた絶対的な感覚の違いを見せつけられたようだった。
「……そうね、貴方からしたら馬鹿らしいかもしれないけど、女が生きていくにはこうやっていくしかないのよ」
レベッカは自分で言っておいて、自分の一番弱っている所にグサッとナイフを刺されたような気がした。
(もしも、私が男だったなら、家を継ぐことができたのかしら……)
自分のことを探している様子の無い王宮内。
実家は今のレベッカのことを知っているのか知らないのか。
レベッカは急に現実に突き戻されたようで、胸の奥がざわざわと不快になる気持ちが拭い取れなかった。