復讐の一手目⑧
鳥の口からテイルズの職場である魔塔の水鏡へ転移したレベッカは、二回目ともなると足から着地する事ができ、それと同時に魔法が解けて元の姿に戻った。
レベッカが立ち眩みを堪えて水鏡の前まで歩き、追跡バードが映し出す映像を見ようとすると、先程まで脳内で響いていた声が、ほぼゼロ距離の真横から発せられる。
「ねぇ!何があったか教えてよ!」
吐息のかかる距離に動揺し、レベッカはテイルズを押し返した。
「あーもー近いってば!」
少し遠慮はしたものの、それなりに強く押したつもりだ。
だが、レベッカの身体で押すテイルズはびくともせず、涼しい顔のままレベッカを見つめている。
その時のレベッカは、ただテイルズの胸に手を当てただけの状態である事に気が付き、すぐに手を引き、顔を逸らして話を続けた。
「ライラの元にベルベルトが約束も無しに突撃訪問してきたのよ。流石に王太子の彼女と密会してるなんてやばいから逃げてきたの。とにかく、追跡バードを門の前まで移動して!」
早口で説明しつつテイルズを急かすと、テイルズも面白そうだと目を輝かせて水鏡を覗き込んだ。
門の前には馬車から降りたベルベルトが「どうしてすぐ中に入れないんだ!まさか他に男がいるんじゃないだろうな!?」と足踏みをしながらゴネており、例の有能そうな初老の使用人が「お嬢様に確認を取っておりますのでもう少々お待ち下さいませ」とライラに言われた通り時間稼ぎをしているようだ。
「自分が浮気してるから人の事もすーぐ疑っちゃうのよねぇ……アポ無し訪問も自分がされたらまずいくせに……」
レベッカがぼそりと呟くと、屋敷からライラが慌てて駆けてくる様子が映った。
『ベルベルト様!お待たせして申し訳ありませんわ!』
『ライラ遅かったじゃないか!』
ベルベルトがライラを抱き寄せるように触れた時、ライラの口元が一瞬だけヒクついたのをレベッカは見逃さなかった。
『申し訳ございません。綺麗だと言われる状態で出迎えたくて……こちらへどうぞ』
もちろん、慌てて出てきたのだから服装も化粧も先程会った時のままだ。
作り込んだ笑みのままベルベルトの腕に手を回して屋敷の中に入っていく所までを見届けてレベッカは勝利を確信したように微笑んだ。
「フフフ、ほんの数分前まで品のあるイケメン貴族と話して手にキスまでされたのに、何の夢から覚めたのか、マナーも何も無い、顔だって至って普通な男のご機嫌を必死に取らなければならない苦痛を知ってしまったようね」
レベッカが口角を上げ楽しそうにする様子を、テイルズは目を細めて嬉しそうに見つめるが、レベッカはそんなテイルズの表情を見る事なく前を見据えた。
「さて、そろそろ次のターゲットにも唾をつけとくかしらね」
 




