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復讐の一手目⑦

 べったりと窓に張り付いた鳥はどう見ても不審者、いや不審鳥(ふしんちょう)。完全にホラーである。

 何度死んでも地獄の果てまで追いかけてくるその姿は、後に不死鳥と呼ばれ……というところまで想像し、レベッカは我に返った。


 こんな大事な時に何を考えているんだと、レベッカは視線を自分の手元に戻したが、様子がおかしい事に気がついたのか、ライラはレベッカの顔を覗き込んだ。


「ウィラード伯爵……?どうかされました?」


「いえ、なんでもありません。ところで、ハンカチのお礼をしたいのですが、生憎このような事しか思い浮かばず……」


 そう言ってレベッカは両手を合わせ、マジックの如く手の中から花束を取り出した。もちろん、テイルズの仕込みである。


 そして、ライラの耳元に手を伸ばし、まるでライラに咲く花を摘むように手から出して見せると、ライラは素直に目を煌めかせて喜んだ。


「とても素敵だわ」


「よかった。喜んで貰えて」


 レベッカは敢えて砕けた口調とくしゃっと無邪気な笑顔を向ける。


 すると、ライラの中にあった僅かな警戒という壁が崩壊していく音が聞こえてくるようだった。


「……ウィラード伯爵って、どうして社交界に出てこられないのですか?」


 染まった頬を隠す様に花束を抱きしめ、ライラは問いかけた。


「単純に苦手なんです。興味がないというのもありますね。人と会話をするよりも、静かに魔法を研究していたいんです。実は、今日のお誘いも本当は少し嫌だったんです。ですが、今は来て良かったと思います」


 前半はテイルズが実際に言っていたことである。

 本音と嘘を混ぜ合わせるこのやり方は詐欺師もよく使う手だ。


「……私も本日はお会いできて良かったです」


 ライラが言ったこの一言は、心の底からそう思ったのだろう。作られた形跡の無い自然な微笑みだった。



 レベッカが話を続けよう(とどめをさそう)と思ったその時、部屋のドアがノックされた。

 少し慌ただしさを感じるそれにライラもただ事では無いと思ったのか、「どうぞ」と返事をすると、侍女らしき女性が焦りを含んで顔を覗かせた。



「お話中申し訳ございません。ライラお嬢様、王太子殿下が門の前までいらっしゃり、すぐにライラお嬢様に会いたいと仰っております」


 どうしましょうという侍女の表情に、一番狼狽えたのはライラだった。


「少しお待ち頂くように言ってちょうだい」


「はい、できる限りやってみます」


 そう言って侍女はレベッカにもペコリと頭を下げドアを閉めた。


(呆れた。ベルベルトがアポ無し訪問してきたわけね。こうやって第三者視点で見るとあいつ本当にとんでもない奴だわ)


 しかし、レベッカとしてもここでベルベルトと対面するのは避けたい所存。


「今、王太子殿下がいらっしゃったと言われましたか?」


 レベッカが聞くと、ライラはバツが悪そうな顔で「はい」と答え、どう言い繕おうかと必死に考えているようだった。


(ここは彼女の顔を立てて自ら引き下がるべきね)


「私がここにいたら殿下に王宮の仕事をサボっているのがバレてしまいますので、エヴァンス嬢、大変申し訳ございませんがそろそろ帰らせて頂きます」


 そう言ってレベッカはライラの手を取り、視線を送った後、手の甲に軽いキスをした。


「では、またお会いしましょう」


 そう言ってレベッカは窓を開け、張り付いていた鳥を手に取り、(くちばし)を広げた。


『え!どうしたの!?何があったの!?』


 鳥への接触に驚いたテイルズの声が脳内に響いたが、レベッカは直ぐに鳥の口の中に指を入れ、そのまま吸い込まれていった。


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