復讐の一手目⑥
ドアを開けると、目の前のソファーにはライラが座っており、淑やかな微笑みで出迎えてくれた。
その微笑みはレベッカから見ると、自分が美しく見えるようによく研究された角度と間であり、ライラという人物の戦闘力の片鱗を見せつけられたようだった。
(ライラ・エヴァンス……さすが、高貴な家柄ですこと)
世間から見た彼女は頭が良く、社交界でも顔が効く品格と経済力を持ち合わせており羨望の眼差しを受ける反面、それに応え続ける事で承認欲求を満たしてきた。
ベルベルトに近づいたのも王太子妃になる事でより高みからの景色を見たかったのだろう。
つまり、ベルベルトへの愛などは無い。
ライラが欲しいのは王太子妃という称号だけだ。
己の名声を上げる為だけに全てを奪われたレベッカから言わせれば、愛がないからといって人の婚約者を奪い取るなど言語道断。永久追放。死刑爆散である。
(そんなことより、思い込むのよ。今の私はテイルズ・ジル・ウィラード。温和な性格の紳士。社交界の事は詳しくないため、ライラの事を親切な令嬢として、投資家としても尊敬する。ベルベルトからは無理難題を押し付けられ困り果てているが、健気に頑張る神秘的な魔法使い……)
ライラが好きそうな設定でいくと考えると、レベッカは少し緊張しつつも、あえてその緊張を表情に出して挨拶をした。
「初めまして、レディ・エヴァンス。お会いできて光栄です。申し遅れましたが、私はテイルズ・ジル・ウィラードと申します」
「初めまして、ウィラード伯爵。ハンカチをお返ししたかっただけなのにここまで来て頂いてごめんなさい。お菓子は好きでしょうか?よろしければ召し上がって行って下さい」
きゅるるんと目を丸め、厚めに塗られたリップは完全に全力を出してきている。
(このあざとさ、私が女じゃなかったら見逃しちゃうわね)
「そんな、こちらこそ、誘われるままに来てしまって申し訳ないです。言葉の意味を汲み取るのが得意ではなくて、返事をした後でもしかしたら違う意味だったのではないかと心配していたんです……」
裏表のない純粋で人と接し慣れていない孤高の魔法使い。
キャラ設定はそろそろ固まってきただろう。
「そんな、フフフ。社交界に決して顔を出さないウィラード伯爵がまさかこんなに素敵な方だったなんて、他の方が知ったらこぞってお誘いがくるでしょうね」
「そんな、からかうのはやめて下さい」
レベッカは自然と顔を赤らめた。
この復讐を遂げた暁には女優になるのも悪くないかもしれない。
そんなことを考えながらレベッカがチラリと視線を向けた先には窓があり、見覚えのある茶色い鳥が、ガラスに食い込みそうな勢いで張り付いていた。