復讐の一手目⑤
「じゃあいい?」
「ちょ、ちょっと待って!えーっと、着替えもしたし、トイレも行ったし、あと、あと……」
「あとは入れ替わるだけだって」
「分かってるわよ!」
ライラに会いに行く当日、レベッカは再度テイルズと入れ替わらなければならないわけだが、前回と違って入れ替わり方を知っているからこそ、じゃあはい、というわけにはいかなかった。
「レベッカの気持ちの準備待ってたらライラ・エヴァンスとの約束の時間に遅れるんだけど」
「もういっそのこと前みたいに不意打ちで来てくれない!?」
「やだよ、レベッカ絶対殴るじゃん」
「私が脊髄反射する前にちゅってしてサッと逃げて!」
「えぇ、注文多すぎ」
テイルズはやれやれと呆れたように口に薬を含んでレベッカの両手を握ると、そのままゆっくりと迫り、口を交わせた。
ある意味不意打ちといえる躊躇いの無さに、レベッカは目を瞑ることすら忘れていた。
そして、二人の視界が入れ替わると同時に、レベッカの身体に入ったテイルズは素早く後ろに退いたが、テイルズの身体こと、レベッカは呆然と立ち尽くしている。
テイルズが心配そうにレベッカ?と喉元まで声が出てきたところで、レベッカは突然目を見開くと、我に返っているのか、返っていないのか、ヨロヨロとした足取りで水鏡の前まで歩き出した。
「じゃあ私行くから、早く飛ばして頂戴」
「レ、レベッカ?大丈夫?」
「視点の切り替わりに酔っただけよ」
レベッカは気恥ずかしさを隠したい時程、高圧的な言葉を吐くが、テイルズはそんなレベッカの習性をすでに把握済みだ。寧ろそんなところが可愛らしいとすら感じていた。
「はいはい、いくよ〜」
テイルズがクスッと笑い、前回同様に試薬を振り撒くと、レベッカはすぐさま水鏡に手を入れ、体は吸い込まれていった。
レベッカが着地したところはエヴァンス侯爵家の門の前だった。
白いブラウスに黒のスーツ、ダイヤのブローチを付けて太陽の光を反射するブロンドの髪は出迎えた使用人の目を惹きつけた。
惚けたような表情で固まる使用人達の中で、初老の男性だけが目を伏せ、丁寧に出迎えてくれる。
「……ウィラード伯爵ですね、ライラお嬢様がお待ちです。どうぞこちらへ」
突然現れた事にあまり驚く様子はなかったが、テイルズが王室遣えの魔法使いである事は調査済みなのだろう。
(ふーん、まぁ、さすがエヴァンス侯爵家ね。使用人の人数も躾の度合いもしっかりしてるわ)
レベッカは使用人についていくと、一室の前に案内された。
使用人がノックをすると、中からライラのものだろう返事が聞こえてくる。
「どうぞ」
レベッカは少し息を吸い込み、ゆっくりと静かに吐き出しドアノブに手をかけた。
明日は投稿をお休みします。
月曜日に続きを上げますので読んで頂けると嬉しいです。