復讐の一手目④
いつもと雰囲気の違うテイルズに対して、レベッカは何とか話をそらそうと「そ、そういうセリフを使うのもいいかもしれないわね!」と言って顔を背けた。
「とにかく、私は行くところがないの。私をここに置く条件がそれなら私は拒否できないわ」
レベッカは、襲わない自信はないと言われたその言葉が、嫌か嫌では無いかと言われたら正直よくわからなかった。
少なくともこの五年間は自分を押し殺して暮らしてきたため、礼儀も何も無いズバズバと言い返せるこの関係性が心地良くもあったのだ。
どこかの汚い中年の貴族に襲われる事を思えば全然嫌ではない。
テイルズはレベッカの反応を見て少し動揺するように否定した。
「……冗談だよ!好きなだけ居てくれたらいいよ。荷物が届くかもしれないのなら、今日は僕はここに泊まらず家に帰るしさ」
この塔はあくまでテイルズの職場であって、伯爵家と言うくらいだから屋敷は別にあるのだろう。
「別に居てくれてもいいんだけど……」
レベッカの言葉を聞いているのか聞いていないのか、テイルズは部屋を魔法で片付け始め、「シャワールームはこっちで、キッチンはこっち、夜には何か食べる物を届けるよ」と慌ただしく説明すると、窓から消えるように出て行ってしまった。
翌朝、テイルズは何事も無かったかのようにやってきて、王室の仕事をし、その横でレベッカは水鏡を使って三人の浮気相手の動向を見確認し、人物像と行動パターンを把握していった。
その日も夜になるとテイルズは家に帰り、更に翌日、テイルズは嬉しそうに手紙を持ってレベッカの元へ訪れた。
「レベッカ!来たよ!ライラ・エヴァンスからの手紙!」
生活に慣れ始めたレベッカは、窓から現れたテイルズに驚く事もなく、ソファーから起き上がった。
「本当!?開けてみましょう!」
テイルズがナイフで封を開けると、ほんのりと花の香りに包まれた手紙が一通入っていた。
つらつらと書かれた挨拶文を除いて書かれていた内容は、ハンカチを拾ったけれど貴方のではありませんか?もし違うならいいが、そうなら直接お返ししたいので返事が欲しいとのことだ。
(よし、かかった!!)
レベッカは思わずニンマリと頬が上がる。
「落とした本人だとほぼ確信があるにもかかわらず、直接会って返したいだなんて、向こうも釣られてる事を知らずに釣り針垂らしてるわね」
「どうする?なんて返事するんだ?」
「プレゼントで貰ったハンカチを無くして困っていたんです。ありがとうございます。是非拾ってくれたお礼をさせて下さい、尋ねても良い日程を教えて欲しいって感じで書いてもらえないかしら?さすがに私が書くと女性の書体が出ちゃうから」
「はいはい、かしこまりましたっと」
そう言ってテイルズはサラサラと文字を書き、手紙を窓から息を吹きかけて飛ばすと、魔力を帯びたそれは白い鳥のようになって空を羽ばたいた。
五時間後、ライラ宛で飛ばした手紙はテイルズの白い鳥が仲介したからか早々に返ってきた。
(まぁ、魔法使いからの手紙の送り方って少しロマンチックではあるものね)
レベッカは、三日後はどうかというライラの手紙を冷ややかな目で読んだ。
(ベルベルトから早々に乗り換えようとしてない?それとも堂々と二股?自分が選べる立場にあると思ってんのかしら。ベルベルト自体が三股、四股とかけているくらいだから、特に罪悪感は感じないんでしょうね。でもあの男は自分の事棚に上げるの得意だからバレた時どうなっても知らないけど)
「三日後に向けて準備しなくっちゃ」
この時のレベッカの満面の笑みを見たテイルズは、珍しく余計な事を喋らず、ただただ、震え上がるばかりだった。