ゆがみの物語 リラの感じた陽の国は歪んでいた
陰の国の悪夢を払って、
今日はもう休もうとしたとき、
リラが話し出した。
陽の国は危険であると。
リラは言う、リラは陽の国の教会前に置き去りにされていて、
孤児として育ったと。
教会で聖職者の勉強をしながら育っていて、
ある時耳が覚醒して、神の声が聞こえるようになったと。
リラは陽の国で何を見てきたのだろうか。
リラの過去に何があったのだろうか。
「勇者様は、私の容姿をどう思われますか」
リラは話のとっかかりとして、その容姿を尋ねてきた。
リラの髪は白い。その目は赤い。
異世界でいろいろな容姿のものを見てきたけれど、
リラと同じものはいなかったように思う。
耳がいろいろな形をしていたり、
角が生えていたり、
水の中に住むのに特化したものもいたけれど、
白い髪と赤い目の、リラと同じような容姿のものはいなかった。
「見たことない容姿とは思ったいたが、そんなものかと思っていた」
「見たことない。それは私の置き去りにされていた陽の国でもそうでした」
リラは話し出した。
リラは赤子の頃に陽の国の教会前に置き去りにされていた。
親の顔は当然わからない。
拾った教会で、リラは育てられたけれど、
リラは気味悪がられて、いわゆるいじめに遭っていた。
神様の恩寵のない存在として、
どれだけひどく扱っても許される存在として、
陽の国の差別を一身に受けてきた。
陽の国は、魔王を封印してから、
陽の国に伝わる神謡の力があってこそと、
陽の国自体が増長してきた。
陽の国の聖職者の聖なる力と、
陽の国の神謡の力がなければ、
この世界は魔王と魔族によって滅ぼされていたはず。
それを止めたのは陽の国のおかげだ。
陽の国はすべての国よりも位が高いものであって当然だ。
陽の国にやってくる他の国のものには、
当然異国税があり、異国人は高い税を払わなければならない。
陽の国に他の国のものが住むには、
陽の国の下働きをさせられる。
陽の国では、異邦人は虐げられていて、
親のいない、変わった容姿をしていたリラは、
教会で、陽の国のものでないとして、
ひどい扱いを受けてきた。
リラはそれでも、真っすぐに生きた。
神というものが存在するのならば、
いつかその声を聞きたいと。
教会にある本を読み、勉強をした。
勉強したものを、びりびりに破られたこともあった。
選ばれた陽の国のものじゃないのに何してるんだと笑われたこともあった。
リラはそれでも信じた道を行った。
ある時、深夜の教会の礼拝室で、
リラはひとりで祈りを捧げていた。
まだ覚えたての神語を使い、
神に届けばいいと思いながら、
リラは祈りの言葉を唱えた。
『カミサマ コノ コトバヲ キイテ クダサイ ワタシハ ココニ イマス』
その瞬間、礼拝室が光に包まれて、
リラの耳に言葉が届いた。
「おまえは確かにここにいる。その言葉、神に届いた」
リラの耳が神と繋がる。
神の言葉が間違いなく届く。
「おまえの耳は、神の耳になる。神の耳の巫女として生きよ」
神の声は確かにリラに届き、
神の耳の巫女としてリラは選ばれた。
しかし、陽の国はリラを認めようとしなかった。
リラは陽の国のものではないとして、
魔王の手のものの悪意の象徴などとされた。
リラはそうでないと言おうとしたけれど、
陽の国の誰も、リラの声を聞こうとしなかった。
リラに石が投げられようとしたその時、
投げられた石が空中で止まった。
リラが光に包まれた。
「彼女は神の耳の巫女だ。神が選んだ巫女だ」
神の奇跡と神の声に、
陽の国はパニックになった。
「彼女ほど純粋な神語を扱えるものはいない」
神の声がする。
陽の国のものは、それを聞きながらも、
陽の国のものでない彼女がなぜと言っていた。
「陽の国はすでに聖なる国ではない」
陽の国のものが、神を罵り始めた。
お前のような神などいてたまるか。
陽の国が全ての一番上に立つのだ。
それは神すら超えるだろう。
陽の国の神謡は、その力で魔王すら封じたのだと。
神は陽の国を見限ったらしい。
「歪んだ陽の国は、正確な神謡を謡えなくなるだろう」
陽の国も、神を罵倒した。
こんなものを神の耳の巫女にするなんて、
我々が信じてきた神は間違っている。
陽の国は神を超える。
陽の国は、新しい神を作ると言い出した。
「では、神の耳の巫女は、こちらで引き取ろう」
リラは光に包まれ、
空の果ての国に導かれた。
導かれていくその時、
陽の国が歪んでいるのが見えた。
聖なる国と言っていたのに、
そこには暗いものがドロドロに歪んで蔓延っていた。
この国はおかしかった。
空の果ての国に導かれながら、
リラは陽の国のおかしさをようやく感じた。
リラが陽の国のものでないから虐待されていたのではなく、
陽の国の価値観そのものが歪んでいた。
それはおそらく、
「おそらく神謡を使わせないためではないかと、思いました」
リラはその生い立ちを語り終えると、
陽の国の歪みについて、そんなことを言った。
「魔王を封印した力を、使えないようにする、と」
「はい、おそらく陽の国は、魔王の放った邪なものが蔓延っています」
「話を聞いている限りでは、その可能性もある」
「神謡は正確に歌わないと、効果が薄れると聞きます」
「それが使えなくなるということか」
「魔王が再び現れたとき、神謡が使えなくなっているかもしれません」
俺は考える。
魔王の放った邪なもの。
あるいは、耳の呪い。
あるいは、心に作用する邪なもの。
リラはそれを歪みととらえた。
陽の国は歪んでいる。
世界が一致団結できないように、
おそらく魔王は早くから、陽の国に邪なものを放っていて、
陽の国を歪ませていた。
ここでひとつ疑問が出てきた。
そもそもリラは何者なのだろうか。
どこにも存在しない珍しい容姿をしたリラ。
今まで訪れた国にもそのような容姿のものはいなかった。
何かしらの特別な存在として生を受けたのだろうか。
神の耳の巫女になるのは、
もしかしたら宿命だったのだろうか。
「リラ」
「はい」
「つらい思いをしてきたんだな」
「わたし、は」
リラは何か言おうとして、そこから涙があふれ、
嗚咽が止まらなくなった。
きっと今までこらえていたんだ。
宿命などと言う言葉で片付けるには、
リラはあまりにも繊細に過ぎた。
一緒に旅をしてきて、俺についてきたけれど、
俺のように身体が鍛えられている訳でもない、
神語を使えるけれど、
心は優しく繊細で、
人々の幸せを望んでいる。
誰かを貶めようとも考えていないし、
生い立ちを語ったリラは、
陽の国をめちゃくちゃにしたいなどとも語っていない。
リラは泣きじゃくっている。
つらいことを全部思い出して、こらえきれなくなったのだろう。
俺はリラの頭をポンポンと叩く。
「いくらでも泣いていいんだ。よくがんばった」
リラは子どものように泣いた。
しばらくして、リラは泣き疲れて眠った。
おそらくあの生い立ちのあと、
陽の国から空の果ての国に引き取られて、
神様から神語の正確な手ほどきを受けて、
リラはこうして神の耳の巫女として生きている。
たしか、俺のところに来た時は、
そんなリラでも、耳に呪いが来はじめていると聞いた。
あの時も神語から始まった。
俺とリラを繋いだ言葉。
リラが生きていてよかったと思う。
そして、リラが語った歪んだ陽の国。
これまでの国とは違うようだと感じる。
おそらく魔王が、さらにゆがめる何かをさせている可能性もある。
神謡は正しく伝わっているだろうか。
それすらも怪しい。
まずは、陰の国の素材を譲ってもらって、
耳かきを作ろう。
耳かきが世界を救うならば、俺はそれをするだけだ。
俺は耳かきの勇者だ。
世界を耳の呪いから助ける勇者だ。
それだけはゆるぎない。




