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そざいの物語 陰の国にはいろいろな素材があった

俺に神舞を伝授した陰の王は、

さすがに疲れたらしく、膝をついてしまった。

王のお付きのものなどが駆け寄って、

水を飲ませたり、汗を拭いたり、

寝床に行くのに肩を貸していたりする。

神舞を会得するのに、俺も相当しんどい思いをしたが、

それを伝える陰の王もしんどかっただろう。

また、陰の王は悪夢から覚めて間もない。

心身ともに極限だっただろう。

しかし、それでも俺に神舞を伝えようとしたのは、

魔王が封印を解いて、再び世界を攻撃してくる可能性があるのと、

それを止めるには、俺に神舞を伝授しておく必要があると思ったのだろう。

おそらく、時間があまりないんだ。

魔王は光を敵だと思っている。

光がある場所を破壊しつくすかもしれない。

今まで出会ってきたたくさんの人々が暮らしているこの世界が、

瓦礫と焦土になるかもしれない。

それを止めるために、陰の王は無理をして俺に神舞を伝授してくれた。

お付きのものに肩を貸してもらう陰の王が、振り返った。

「耳かきの勇者よ。そなたに陰の国の素材を使う権利を授けよう」

「ありがとう」

「陰の国にも耳かきが必要になるやもしれん」

「それならば、陰の国の素材でたくさん耳かきを作っておこう」

「耳かきは国で買い上げる。素材については、大臣に聞いてほしい」

「わかった。ありがとう、陰の王」

陰の王は、満足そうにうなずくと、

寝床に向けてよたよたと歩いていった。

俺並みかそれ以上にガタイのいい陰の王だが、

一連のことは相当堪えたと見える。

しっかり休んで、元気になってもらいたいものだ。


陰の王を見送って部屋を出ると、

大臣と思われるものが俺のもとにやってきた。

「陰の国には、この国にしかない特殊な素材があります」

そういえば、黒の国で、シリコンがあったと俺は思い出した。

確かそのシリコンのような素材は、

陰の国から取り寄せているようなことも聞いた。

俺の感覚だと、シリコンは工業製品という印象だが、

この異世界でどうやってシリコンを得ているのだろうか。

金属や鉱石などは感覚としてなんとなくわかるが、

陰の国にそれだけの工場があるとも思えない。

いや、俺の偏見だろうか。

俺が考え込んでいると、大臣は説明を始めた。


陰の国の崖に彫られた坑道の奥には、

陰の国特有の石、通称陰石がある。

いんせきなどと言うらしい。

陰の国の陰の石ということらしい。

陰石は、音を聞かせると、素材を生成するという性質を持っている。

坑道を掘っていって、陰石を見つけて、

音を聞かせて素材を作り出して、

ある程度素材を作り終えると、

陰石は休眠状態になるらしい。

休眠状態になった陰石を、

穴の中に戻して、休ませておいて、

再び別の穴を掘るらしい。

作り出される素材は、

陰石と音の組み合わせによってさまざまで、

陰の国が力強いステップや太鼓の音の文化であるから、

それらの音をある種の陰石に聞かせると、

シリコンのようなものが産出されるとのことだ。

他の種類の陰石にも、

いろいろな音を聞かせることによって、

よその国にない特別な素材ができるらしい。


陰の国の坑道の奥には、

陰の国の要となっている、

極陰石があるらしい。

陰の極めにあたる石であるらしく、

陰の国の陰石はここから生まれてあちこちに埋まっているらしい。

なるほど、他の国で聞いた国の要のようなものらしい。

極陰石は、何を聞かせても素材を作ることはないが、

もしかしたら、特別な音を聞かせれば、

極陰石からものすごい素材が生成されるかもしれないとのことだ。

そのひとつの可能性が、

神舞であるかもしれないと、

大臣は語ってくれた。


俺は、陰の国にどんな素材があるかを聞くことにした。

陰石などと言う俺の常識を飛び越えたものが作る素材だ。

この世界では珍しいものであったり、

俺の世界では工場で作られるようなものまで、

いろいろなものがあるだろうと思った。

大臣が合図をすると、

従者らしいものが、何やら持ってきた。

箱の上に布が掛けられていて、

布の上にいろいろなものが乗っている。

大臣が言うには、今まで作られた素材の一部であるらしい。

つまりはサンプルと言うことか。

俺はひとつひとつ鑑定してみた。

シリコンがあることは聞いていた。

こっちはゴム素材。

こっちはプラスチック。

セラミックもある。

いわゆるアクリル板に使われるアクリルもある。

炭素を強化した素材もある。

糸のような素材もある。

なんとかファイバーと呼ばれるようなものも作られているらしい。

かなりいろいろな素材があるようだ。


ただ、これらの素材は、

陰石から大量に作ることはできずに、

どれも貴重なものであるらしい。

陰石と音の組み合わせを探るのもあるし、

ひとつ陰石が休眠状態になると、

次の陰石を探すのもあるし、

その陰石でまた音の組み合わせを探すらしい。

陰石では、同じものを作り続けることが難しいらしい。

比較的作れるのがシリコンであるらしく、

シリコンは黒の国に輸出しているらしい。

また、陰の国ならではの貴重な素材ができるため、

耳の呪いがひどくなる前は、

各国に素材を輸出して、

各国の食べ物などを輸入して、

陰の国は潤っていたらしい。

陰の国は谷間の国だけど食べ物に事欠かないのは、

陰石の素材が支えているということらしい。


俺は、あまりに貴重な素材であると、

耳かきが大量にできない旨を伝えた。

大臣は了承して、

比較的量産できる、シリコンで耳かきを作って欲しいと頼んできた。

まだ元気な陰石が、

シリコンを活発に生成しているらしい。

陰の国の皆に行き届くくらい、耳かきがあるとありがたいと言われた。

俺は了承した。

また、極陰石のもとへの立ち入りも許可された。

神舞を会得した今ならば、

その足の音から、何かが生成されるかもしれない、

それが魔王に立ち向かう力になるかもしれないとのことだ。

何から何までありがたい話だ。

俺は大臣に礼を言った。

大臣は、この世界を救ってくださいと俺に言った。

俺はうなずいた。


俺たちはひとまず陰の城を出た。

そろそろ休もうと思った。

陰の城は洞窟の泉の真ん中の島にある。

俺は洞窟の中を見回して、

陰の城から程近くに、いいスペースを見つけた。

そこに時空の箱から俺の小屋を出す。

風呂を焚き、寝床を作る。

リラに先に風呂に入ってもらって、

その後で俺が風呂に入り、

衣類を洗濯乾燥させておく。

慣れた布団が心地いい。

「勇者様」

リラが声をかけてきた。

「どうした」

「おそらく、陽の国は危険です」

「なんでだ」

「陽の国はこれまでの国とは違うのです」

リラが言うには、

陽の国は聖職者の国であるけれど、

リラが感じるには、危険な国であったらしい。

「私は陽の国で育ちました」

「そうか、故郷か」

「いえ、私の故郷はわかりません」

「どういうことだ」

「私は陽の国の教会の前に置き去りにされていたようです」

だから、父も母もわからない。

陽の国の教会で孤児として育ったらしい。

教会の教えを聞き、勉学に励んでいたある日、

リラの耳が覚醒したらしい。

神の声を聞くことができるようになったらしい。

それから神の耳の巫女として、リラは特別な存在になった。

しかしそれは、陽の国の歪みが見えるようになった物でもあったらしい。


陽の国は危険。

陽の国で育ったという、リラはそう言う。

一体何があったというのだろう。

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