表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/61

しんぶの物語 耳かきの勇者は神舞を伝授される

陰の王は大きく息をついて、

神舞と神謡、魔王について話しだした。


魔王は地の果ての国に封印されている。

地の果ての国は、陰の国以上に光が届かない国。

闇の中であるという。

その国には魔族と呼ばれる者たちが住んでいて、

魔族の王が魔王というものだ。

魔族は地の果てに追いやられたと感じていたらしい。

地の果ての国でどのような文化があったかはわからないけれど、

地の果ての国の闇から、光ある国へと、

魔王を筆頭にして、魔族が侵攻を始めようとしたらしい。

闇の中にいた魔族にとって、

光は強烈な刺激に過ぎた。

魔族はその目があまりにも光に弱かった。

魔王はそれを、攻撃だと思った。

魔族を闇に追いやろうとする、

世界からの攻撃だと思った。

魔族は目が弱い。

闇の中、何で意思疎通を図っていたか、

それが耳だった。

魔族はあらゆる音を聞くのに長けていた。

光で目がつぶされてもなお、

その光を攻撃と思いこんで、

耳に聞こえるものをもとに魔族は攻撃をしてきた。

世界はその魔族に対抗した。

闇に追いやられたと思っていたのも魔族で、

光ある場所がふさわしいと侵攻を始めたのも魔族で、

光が攻撃だと思ったのも魔族だった。

魔族は、光の下にあるものすべてを敵と認識した。

光の下にある音すべてを、

攻撃の音と認識した。

そう、ちょうど耳が呪われている状態によく似ていた。


世界中が一致団結した。

魔族の侵攻を止めるべく、

あるべき国に帰すべく、

できれば光が攻撃でないことを説得したかった。

魔族に言葉は通じなかった。

同じ言語を使っていたというのに、

言っていることがまるで通じなかった。

地の果ての国から外に出ただけで、

お前たちは目をつぶす攻撃をしてきたというのが言い分だ。

何を言おうとも、話が通じなかった。

戦うしかなくなってしまった。

魔王は、その声で魔族たちを的確に指揮した。

この世界の戦う者たちも、

心をひとつにして立ち向かった。

国の区別もなかった。

種族の区別もなかった。

戦場は言葉が飛び交い、

敵味方問わず言葉が乱れ飛んでいた。

魔王は、魔族たちの耳を直接使い、

あらゆる音を聞いた。

国が違うのにどうして皆が一致団結できて戦えるのか、

言葉が通じるからだと思ったらしい。


連合部隊が魔族を押し戻そうとしている頃、

陰の国と陽の国の王族が戦場に出た。

陰の国の王族は、神舞を舞った。

陽の国の王族は、神謡を謡った。

神舞は大地を奮い立たせて、邪なものを追い出していった。

神謡は空を浄化していった。

世界中から怒りが消えていった。

神舞のステップが身体に響き、

神謡の旋律が心を揺らす。

悲しみが、争いが消えていく。

国を種族を越えて、神舞と神謡をまねた。

正確には伝わり切らなかったけれど、

心はその時ひとつになった。

争いを終わらせよう。

あるべき場所に戻ろう。

世界中がそれぞれ舞い謡った。


魔族は戦う気力を無くした。

耳に聞こえてくるのは心地いい音。

光は敵ではないと思えた。

光の下に出るべきではないと思い始めていた。

しかし、魔王は違った。

光の下にいる連中は、

魔族の声を聞いていない。

地の果ての国に追いやられている我々の声を聞いていない。

光がどれだけ力を持とうとも、

我らをないがしろにしてきた連中だ。

この侵攻は復讐だ。

正当な復讐だ。

我らの声を聞け。

闇に追いやられてきた我らの声を聞け。

魔王が雄たけびを上げた。

世界が一体となって神謡と神舞で雄たけびと対抗した。

浄化の力が魔王を地の果ての国に戻していく。

魔王は抗った。

魔王は言った。

お前たちの耳を呪い、

何も通じないようにしてくれるわ。

光の下にいるお前たちの耳を、

我らは呪い続けよう。

地の果ての国の耳は闇に祝福された耳。

お前たちの呪われた耳では、次は対抗することもできまい。

光の世界は分断されてしまえ。

お前たち同士が争うのを、

我らは笑ってやろう。

我らは光のものを呪い続ける。

封印するならばするがいい。

ただし、その封印もいつまで持つかな。

再び我らが地の果てから出るとき、

お前たちはなすすべなどないのだ。


魔王と魔族は、地の果ての国に封印された。

魔王は封印の間際に、世界中の耳を呪っていった。

聞こえるものが正確に耳に届かなくなった。

世界中で意思疎通がおかしくなった。

耳の呪いで世界が分断された。


「そうして呼ばれたのが俺と言う訳か」

神様が俺を呼んだのは、

世界中の耳の呪いを解くためとは言っていたけれど、

多分、そこには、

魔王の耳の呪いも解いてほしいという願いもあるように思われた。

陰の王が語るには、

魔王も魔族も、闇の中にいて、耳がとても聞こえるのに、

正確に言葉が通じなくなってしまっていて、

まるで耳が呪われたようになってしまっている。

世界を落ち着けるには、

その耳もきれいにしないといけないと俺は思った。

耳かきの勇者として、

魔王はやっつけるものじゃない。

耳の呪いを解くべきものだ。

ただ、その前に、耳かきで乗り越えられる障害だけでないものが立ちはだかるだろう。

だから俺は神舞を伝授してもらわないといけない。


陰の王は俺の前に立った。

「今から、神舞を教える。これは口伝で伝わるものではない、見て、真似してほしい」

「わかった」

陰の王の神舞のステップを、

俺は食らいつくようにして真似た。

それは力強いステップ。

体幹が整っていないと倒れそうなほどだ。

ステップに力がないと、

邪なものを追い出すことができない。

四股をさらに複雑にしたようなステップを、

俺は必死になって覚えた。

言葉のない、神舞の伝承。

俺は身体で神舞を受け止めんとする。

何度も間違え、また繰り返す。

体力のある方の俺でも、なかなかにきつい。

これは体力だけでどうにかなることではない。

この身体が神舞を受け入れられるかどうか、

陰の王の神舞を真似ることにより、

俺は神舞に試されているような気がした。


繰り返しを続け、ある一定の時から、なぜか神舞のステップが、

俺の中にするすると入ってくるようになった。

神舞が俺を認めてくれているような気がした。

俺の身体に神舞が馴染んでいく。

俺の身体にしみこんでいって、

俺の足から邪なものを追い出す力が湧いてくる。

これが神舞の会得。

俺が神舞の力と神速の耳かきを併用すれば、

邪なものを追い出しつつの耳かきができる。

すごい力を手に入れた。


「神舞に認められたな」

陰の王はそう言って笑った。

「その神舞が、耳かきの勇者の力となろう」

「教えてくれて、感謝する」

「礼には及ばん」

陰の王は真面目な顔になった。

「この世界の争いを終わらせるには、勇者の力が必要なのだ」

「争いを、終わらせる」

「耳の呪いを解くだけでなく、地の果ての国も平和にする必要がある」

魔族が追いやられたと思っている闇の地。

光のものは敵だと思っている魔王。

彼らの誤解も解いて、その耳にちゃんとした言葉を届けられれば。

封印や争いなどなく、

今度こそ世界は平和になる。

耳かきの勇者に神舞を授けたのは、

すべての国に平和をもたらすため。

この世界のすべてに笑顔があふれるようにするため。

陰の王はそう言った。


俺は神舞という新たな力を手に入れた。

この力を持つということは、

力に見合った責任があるということ。

神舞に認められたということは、

その神舞を正しく使う責任があるということ。

俺は陰の王に約束する。

神舞を正しく使い、世界から耳の呪いを解くと。

それが耳かきの勇者の使命だ。


俺は気を引き締めなおした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ