やっと平穏な異世界、生活?
その日から、あたしと馨ちゃんと響さんは、本当に仲良くなれたと思う。
いくら縣陰さんが怪しげな風貌でも、仲良くなるならそっちと思っていたのに追い掛け回され、二人はちょっと困っていたのだという。
そして、現実を知って納得。
「申し訳ございませんでした」
事実を知ってしまえば、理解は容易かったらしい。
あたし念願のパジャマパーティもほどなく実行された。
久々だから思い知ったけど、人肌って、暖かい。
一人だと寒々しいベッドは、三人寝ても全然余裕。
普段の服装が和服だからパジャマはどんなのだろうと思ったら。
女の子のパジャマは、ネグリジェでした。
スケスケとかそういうセクシー路線ではない、丈の長いワンピースみたいな感じだ。
響さんが可愛らしいピンクで、馨ちゃんが大人っぽい緑だった。
すぐにあたしのも用意してくれる、とのことで、嬉しかった。
あたしが今着てるのは男女共用のもので、あっちだと浴衣そのままだ。
お客さん用とかに置いておく寝間着なのだそうだ。
「そういえば、トギって、何?」
「あわわわ!!」
「はい?」
馨~~っ、と響さんのお怒りの声が上がり、馨ちゃんがあぎゃーーと悲鳴を上げていた。
お仕置きは、某幼稚園児がよくされる、こめかみを両拳でぐりぐりされるやつでした。
最近見てないけど、今もやってるよね?
トギの意味?あの、うん。
え、えええっと、時代劇とかだとよいではないかーーーのお相手をさせられることでした。
あたしの立場、男だと思ってたら悪代官っぽいな、何て、思ってないもん!!(涙)
でも、帯って、解くときあんなにくるくる回らないよね?
二人が本当の姉妹みたいに思えて、寒さも緩んできた日。
「貴様、二人も女をはべらせて、何をしている!!」
亜純君に、怒鳴り込まれた。
「しかも、っ、つつ、恥ずかしくないのか、ふ、ふふたり、どうじ、など!!ええい、このケダモノめ!!
神代王のお身体なのだぞ、恥を知れ~~~~~!」
見た目どうり、純情少年だったらしい。
そして、口調が変わっている。こっちが素らしいが、朝だし、あたし朝が弱いし、何が何だか。
あふ、とあくびを噛み殺し、思わず首を傾げていた。
その様子も、亜純君にはかっちーーん、ときたらしい。
「縣陰、縣陰、この者には、謹慎用の館すら上等すぎるものだったらしい。
すぐに退去の準備をしろ。狂王の塔へと住処を変える!!」
びりびりと痺れるような大声で怒鳴り、偉そうに腕組すると、馨ちゃんと響さんをにらみつけた。
「王に忠誠が篤いと聞いたから、側付きの名誉を与えてやったというのに。
貴様らは、王宮の下女に降格する。縣陰、お前がついていながら、何と言う有様だ!!」
縣陰さんの目も丸くなっていた。あれ?何で驚いてるかな?
自分はほったらかしの癖に、と寝ぼけが覚めた頭にふつふつと怒りが湧き起こってきた。
「亜純様、違います、雪霧さまは」
「留守居役とはいえ、王の名を慣れ慣れしく呼ぶな!!」
響さんの声も聞こえていない。
あたしたちは、必死に話を聞いてもらおうとしたのだが。
その日のうちに、この心閉宮から追い出され、狂王の塔、と言う場所へと移された。
そこはここよりも結界の強い、回りに影響を出さないための場所らしいが。
切り立った崖の端に聳える、ぶっちゃけ、周りが海なら灯台?と思えるような塔だった。
灯台と違うのは、内部がきちんと部屋になっていること。
「貴様も一応成人した男なのだから、家事くらいこなせよう。
食料は結界の際まで運んでやるから、後は自力で何とかしろ」
早く積もった大雪のせいで、交通機関の麻痺、行われるはずだった秋祭りの中止とかなり影響が出てしまったようだ。
それにはあたしも悪いな、と思ったが。
「………成人した男って………」
あたしは女の子だぁ!!って叫びたかったけど、叫ぶ前にさっさと帰ってしまった。
相変わらず、自分勝手って言うか、人の事軽んじてるって言うか。
何か、すっごい嫌な感じなんだけど。
あれなら、鬘はげの黒ちゃん先生のほうが、まだきちんと話を聞いてくれる分マシだ。
まぁ、アノ先生は、話を聞いても何故か九十度くらい別な感じに理解するから意味無いけど。
さっさと運び出されていく荷物に呆然とする。
響さんや馨ちゃんがひどい目に合わないか心配だった。
そりゃ、ここで生活できるようにしてくれたのは亜純君だけど、性別間違えてたとはいえ親身になってくれたのはアノ二人と縣陰さんだ。
そういえば、縣陰さんにあたし女の子ですって、伝えたっけ?ビックリしてたけど。
取り合えず今週分だ、と箱に入った食料を投げ込まれ、あたしは途方にくれた。
見慣れた野菜も(中身が大いに違いそうだが)あるにはあるが。
茶色い林檎。黄色い玉葱。桃色の人参。犬がくわえそうな骨みたいな形の大根。
白い粉が三種類(小麦粉・塩・砂糖あたり)、束になった藁にしか見えないもの。そして、一応、米。
拳大の謎の肉の塊が三種ほど。蛙のように足の生えた魚の、新巻鮭みたいな大きさの干物。
毛の生えたジャガイモ。一口サイズの葡萄のように房になったキャベツ。
葉牡丹にしか見えない、中身が三原色の白菜。先端が真っ赤なブロッコリー。
全部最後に(っぽいもの)という言葉がつく。異世界には謎の物体ばかりだ。
どうやら調味料らしい瓶に、油の瓶も数本。御酒?赤ワインみたいな色合いのものもあった。
そのほかにも、服などの最低限の物資が箱ごと投げ込まれる。
出来合いの品(と言ってもお菓子とかパンとか)もあるにはあるが、それだけで食べ繋ぐにはちょっと辛い。
この中に入ると特殊な許可がないと出られないらしいので、後は勝手にしろ、と言う感じだった。
「どうしろっていうのよ」
あたしは、ギンガムチェック柄の卵っぽいものを手に取り、途方にくれた。
ちなみに、チェックは赤・青・緑の三種類。無駄にクオリティ高いわ。
運べない量ではないだろうが、うーー。重い。こんなに詰め込まなくてもいいじゃない。
塔の中は一階に一つの部屋で、風呂場とお手洗いや台所などの水周りと玄関の一階。
ほんと、用途が謎な何故か武器や楽器が置いてある暇つぶし用らしい部屋が二階。
大きな窓がある展望室の用になった寝室の三階という構造だった。
広さは結構広く、丸いから分かり辛いが四十人入れる学校の教室よりは広い感じがする。
一階が一番ごちゃごちゃしていて、地下に小さな倉庫があったから、そこに食料を入れる。
掃除は行き届いているのか、埃は無いのが救いだ。
「景色がよくても、無駄じゃない」
荷物を運び終えて寝室へ上ってみたら、ちょうど、夕日が沈むところだった。
だけど、高くて見晴らしがいいのに人が来ないのだろう、もったいない。
落葉樹らしい森の木々には雪が少し積もって真っ白で、夕日の赤が映える。
「暖房器具って、どれ?」
部屋をガシャガシャ弄くってみたが、分からなかった。
あたし、まず最初に凍死しそう。
だいぶん間が空きましたが、再び投稿。
主人公には事件が待っている。
これからもよろしくお願いします。
恋愛要素が足りてない感じなので、それを投入を目標に!!
未熟な作ですけど、楽しんでいただけたら幸いです。