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ちょっと待って

神棲世界シンセイセカイとか、神世カミヨとかって呼ばれてるこの世界に来て、早くも1週間。

あたしの世界は、とっても狭い。

知ってる人は、響さんに、馨ちゃん、そして縣陰さん。

そして亜純君、と言いたいところだが彼は最初の説明会以来全く音信不通で知り合いって言っていいのかわからない。


大きさ的には三人じゃあ雑事が難しいだろうに、どうしてこんなに少人数なのか、不思議に思ったりしたのだが。

この『心閉宮』って、王様がどうしても自分の感情を抑えられないときに閉じこもる、一種の逃避場所なんだそうだ。

歴代の多くの王様が最も苦心したのが、心の乱れが引き起こす災害。

そりゃ、もう、冬の最中に激昂すれば、吹雪が真夏日に。

逆に、夏の最中に悲しみに打ち震えれば、青々とした収穫前の作物に霜が降りて全部ダメになる。

まぁ、縣陰さん曰く、怒り悲しみあたりは、まだ何とかなるそうなのだ。

一番怖いのは、驚くこと、らしい。

何が起こるかわからないので、事前の対処のしようが無いから。

というわけで、あたしは、絶賛お篭り中だ。

今まで必死に政治をしてきた王様に迷惑をかけられるならともかく、新参のあたしが一般市民を苦しめるのは、どうよ?

そりゃあ、城下町とか、市場とか、未だ全然見てない王宮とか、見たいものは沢山あるが。

まず寿命自体からまるっきり違う世界に来て、驚かないでいられるわけが無いだろう。


「ふ、ふふふ、ふふ、うあぁぁん!!ひどいよう!!」

今日も今日とて、悲鳴上げまくり。

最近、悲鳴のバリエーションが増えた気がする。


どういう魔法なのか、幸いにして身体に蓄積された記憶があるからなのか、文字、言葉に不自由することは無かった。

「あ~、ちょっと、不細工ですねぇ」

馨ちゃんは響さんより順応が早く、あたしとは既に友人感覚で接してくれる。

時折、響さんに「気安すぎますよ?」と釘を刺されてぎくんと固まるくらいには。


今日の授業は、この世界の着物の着付けだが、ぶっちゃけ、着せ替えごっこになっているだ。

王様は、絢爛豪華な金糸銀糸の着物っぽいものを着るらしく、あたしは帯の結び方に四苦八苦していた。

袖も腕より長いから重く、たっぷりとした裾は地面に擦れてしまっている。

「でも、だいぶん上達なさってます」

お手本兼練習に、馨ちゃんが響きさんの腰に結んだものと、自分の物とを鏡で見比べてみる。

前で結んだらダメなのかと聞いてみたら、前で結ぶのは新婚の奥さんだけ、らしい。

よくある貴族とかって、自分じゃ何もしない感じがするが、ここの貴族は自分で出来たなら人にやってもらっていい、と言う考え方だそうだ。

「王はともかく、小王同士で領地の小競り合いなどはよくあることですから。

 いざ敵襲、と言うときに己で服も着られないのでは、格好がつきませんわ」

クローゼットにばばんっ、というわけではないが、高そうな箪笥にびっしりと詰まった和服の品定めは、結構楽しい。

ただ、一着一着が高そうな金粉の散りばめられた和紙にくるまれているのには、ビックリしたが。


「あ、ダメです、雪霧様。お肌は異性にさらしちゃダメなんです!!」


よっし、次、と帯を解いて、そろえた着物の前を開こうとした瞬間、馨ちゃんが悲鳴を上げた。

馨チャン今、何テ、オッシャイマシタ?

聞き間違いだと思ったあたしの耳に、更に聞こえた確かな言葉。

「雪霧様、どうか私たちが後ろを向くまで、衣を脱ぐのをお待ちください。

 その、お留守居様とはいえ、王の肌を見られるのは、妃様だけです、ので」

ヒ、響サンマデ!!

「でも、よろしゅうございました。

 神代様は、あまり煌びやかなご衣裳を好まれませんでしたから、一度も袖を通しておられなかったんですよ。

 特に、花の柄などは、女子供の着る物だと言い張って、ご用意するととても不機嫌になられるんです」

そりゃあ、向こうの世界でも若い女の子しか着なさそうな超絢爛豪華な大振袖だしね。


プルプルと震えるあたし。よもや、こういう勘違い?

じゃあ、最初の日に縣陰さんがお風呂に『お背中流します』ってやってきたのは、風習でもなんでもなく、あたしが男に見えたから?

てことは、あたし、ずっと、女言葉の、心は女、身体は男な人だと思われてたの?

思わずがっくりと膝をつき、Orzな体勢だ。……よ、嫁入り前の玉の肌を、勘違いで晒してしまいましたか。

そりゃ、広いお風呂でちょっと脱衣所が寒かったし、二枚バスタオルみたいの(さわり心地は手ぬぐい)があったので、巻いてましたが。

もう何も聞きたくないと耳を塞いだので、Qrzな体勢に進化しながら、乾いた笑いが唇からこぼれた。


「ふ、ふふふ、ふふ、うあぁぁん!!ひどいよう!!」


え、ここ、ブラ無いの?と思ったけど、着物は着けないって聞いたことが有ったせいで、勝手に納得していたが。

着物は煌びやかなのに、アクセサリの類が全く用意してもらってなかったことは髪が短いからだと考えていたが。

よもや、隠そうともせず女言葉で喋り、縣陰さんより馨ちゃん、響さんと仲良くしていたのに。


「ひどいひどいひどい!!あたし女の子だもん~~~!!」


後で話を聞くと、あまりの感情の発露に結界をぶち壊し、後もう少しでこの世界が大惨事になるかもしれないところだったらしい。

突っ伏して泣くあたしがちらっ、と視線を上げると、馨ちゃんがぽかーーんとしていて、響さんがひくっ、と口元を引き攣らせている。

「あ、亜純様から、男性の方だとお聞きしましたが」

響さんに宥めるように肩を撫でられ、確認される。目が怖いくらい真剣だ。

「っ!!あたし、男ですなんて、一回も言ってない~~~」

「……でも、雪霧様は、お名前が」

馨ちゃんが、イマイチ信じられない、と言う顔で見ている。

「……あの、雪霧様の世界では、雪霧様のような名の女性は多いのですか?」

「へ?」

「その、二文字、と言う意味です」

どうやら、勘違いに拍車をかけたのは、この世界の文化らしい。

「文字数、男も女も関係ないよ?あたしの妹は、日光ひかりっていうの」

当て字だが、みんなにニコちゃんと呼ばれている。


ふえ、ぐす、とあたしの嗚咽が部屋中に響いている。

「ゆ、ゆきりさま、今日は少し、お昼寝でもいたしませんか?」

本当はこの後、楽しいけど怖いスパルタ気味のお勉強の時間だ。

「お菓子作りでもいいですよ!!私も頑張ってお手伝いします!!」

やわらかいものに着替えましょうね、とまるでお母さんみたいに響さんが着物を脱がせた。

何とも扱い粗く、ぽいっ、と投げ捨てる。

「でも、何故男性物の衣装に異議を唱えなかったのです?」

「あたしの世界の、特に若い女の子しか着れない晴れ着が、あれにそっくりで、きれいだったから」

男物だなんて、知らなかった。

「じゃあ、私たちの服に似たようなものもあるのですか?」

「着物と袴?よく卒業式とかで着てるよ。でも、二人のは白に赤だし、巫女さんっぽいかな。

 今じゃ古くて、儀式とか行事とかでしか着ないよ。

 あたしのとこの普段の服は、洋服で、和服…ここで着てるのに似てる服は、普段着で着てる人はほとんどいない」

お茶です、お菓子です、と馨ちゃんがちょこまかと働くのが可愛い。

そういえば、身長はどうなんだろう。

「あたしが男だと思われた理由、名前と、あと、身長?」

「………はい。あの、馨くらいの子がほとんどで、私は背が高いほうです」

ちなみに、あたし目測で馨ちゃんは140センチ代。

響さんは155センチくらいだと思う。

そりゃ、170を越えたあたしが男だと思われても仕方ない。

「あと、女性は子が産めるようになってからは、髪は年に一度、決まった長さ以外切ることは許されないという風潮があったのです。

 一般ならばそれほど厳しくは無い、廃れた風習ですが、長い髪が美しいと思うものがほとんどですので」

つまり、女性=髪の長いもの。このベリーショートも勘違いを助長させる一因、とな?

「それと」

ちらり、とあたしの胸に視線が投げかけられた。

あ~、やっぱり?ちっちゃいもんね、あたしの胸。Bにぎりぎり引っかかるか否かくらいだもんね?

「うう、努力はしたんだよ?でも、お母さんもお婆ちゃんもちっちゃかったし、従姉の香枝かえだお姉ちゃんなんか、28でAなんだよ!」

努力は実を結んだほうだと思いたい。

「亜純様には、私から苦情を申し付けておきます。許されざる行為です」

「あたしも!!あたしも抗議します!!」

可愛いなぁ、馨ちゃん。響さんは凛々しいし。

思わずぎゅ、と馨ちゃんを抱きしめたら、わぷぷ、と慌てていた。

「ちゃ、ちゃんと女の人です!」


はい、これでやっときちんとお友達になれた感じです。

話の進行が遅いなぁ、と自分でも困惑気味ですが。


つらつら書いてるだけで、ストーリーとか大まかにしか決めてないのですが、これからもよろしくお願いします。

少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

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