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浦島タロ子さん!?

「先生!! 説明の前に、メモを用意してもらっていいでしょうか!?」

亜純君(仮)が話を始める前に先手を取って提案した。

多分、一回じゃ理解できないだろう。あたしはそんなに頭が良くない。

「めも?」

きょとん、と理解できない単語に疑問を示した亜純君(仮)は、眉間の皺が完全に消えて年相応に見えた。

や、でも、その、眼光するどいっていうか、目つきが悪いって言うか。

「えっと、書く物が欲しいんだけど? 話を聞いて、教えてもらったことを書き留めておきたいの。

 後から考えたり整理したりできるようにね。その、亜純君?も忙しいでしょう?」

疑問符を着けつつ名前を聞いてみると、意外なほど素直にこくん、と一度だけ頷いた。

ふむ、やっぱり彼が亜純君で合っていたようだ。良かった、別の人だと失礼になるところだ。

腕につけた鈴のような丸い石のような物に触れると、引き戸が開いてさっきの女官さん達が一礼する。

「紙と筆記具を」

かしこまりましたと静かな声が了承し、女官さんの1人が背を向ける。

螺鈿細工が嵌っている美しい漆塗りの黒いお盆みたいなものに乗せられて、件のものが差し出された。

和紙らしい、金箔のようなものが散らされた美しい紙と、金属製でアイライナーみたいな形の筒に五色の細い金属の輪が嵌っている。

銀色の筒は渡されたタイミングからして筆記具なんだけど、使い方が分からない。

「輪を回せば、その色の染料が出る」

教えられたとおり、少しだけ回してみると細い穂先が出てきた。ちょんと端っこに穂先をつけると、マジックのように紙に染料が滲んだ。

何度か回してみると、線は太くなる。面白いが、遊ぶのは後でもできる。

うーーん、五色ボールペンとかみたいなもの、と思えばいいのか。

書き心地は細い筆ペンとかフェルトペンに酷似している。仕組みに興味が湧く筆記用具だが、使うのに不自由はしないので納得するか。

「では、説明をしてもよろしいですか?」

また難しい顔に戻った亜純君が語る、あたしがこの世界で、あの美形天使の身体で『お留守番』しなければならない理由。

それは、ふぁんたじーー? と悲鳴を上げたくなるものだった。あたしは、本は読む専門なのに。


神棲世界、もしくは、神世。

魂が命である、『界律』に支配された、神代王の存在する世界。

王が絶対であり、唯一であり、何よりも、権力を持つ。

その威光は、天候すら左右する。

怒り、悲しみ、苦しみ、喜び。それが、熱さとなり、寒さとなり、闇となり、光となり、嵐となる。

この世界に住む『生物』たちは、魂が命であり、力であり、存在である。

命を削って、という表現は重たすぎるがそれに近い生命力を礎にした魔法『心命術』に文明を支えられている。


そして、あたしがその絶対権力を持つ王様の身体で『お留守番』をしなければならない理由。

それが、『休去』。

大体1万年に1度巡ってくる、生命力枯渇による消滅を防ぐための1千年の休眠期間のためだった。


「い、いいい、1千年!?」

思わず、机に突っ伏してしまった。

鶴は千年、亀は万年っていうけど、人間はご長寿で百歳なんだよ!?

「はい。何か不都合が?」

けろっとした顔で言われて、口からいろいろなものが抜けていきそうだった。

1千年。元の世界に帰ったころには、精神的には仙人レベルだ。

「ちょっと、びっくりしただけ」

長すぎる、って訴えたとしても、そうですか、仕方ありませんとかで済まされそうだから黙っておこう。

視線で続きを促すと、再び咳払いして亜純君は続けた。


普通、一般市民の場合は、『休去』の時期が来れば1千年間専用の安全な場所で眠るだけだ。

しかし、一定以上の政に関わる人間の場合、1千年も休めば多大な問題が出てくる。

特に、王が『休去』で眠ったままになると、太陽が昇らなくなるというとてつもない弊害が起きる。

だからといって『休去』を行わないでいると、生命力を使いきって消滅してしまう。

そこで取られた措置が、『留守居』と呼ばれる異世界の酷似した魂と、一時的に立場を交換する特殊な術だ。

これにもいろいろな危険が付き纏うらしいが、今のところこれ以上有用な手段が無いと言うのが現状。

そのためある階級以上の『休去』には、『留守居』の術を使用して、代理を立てるのだ。

『留守居』役、特に、神代王の『留守居』役に求められるのは、『お心を乱さず、臣民を見守ること』

単刀直入に分かりやすくあたしなりに翻訳してみると、『出来るだけ感情を乱さず』に『大人しくしている』事だった。

簡単に言えば、良くあるファンタジー小説みたいに、何か成し遂げなければいけないことが、無いということだ。

ヒドイ表現だが、泣き喚いたり怒ったりするよりは、植物状態にでもなって息をするだけのほうがよっぽどありがたいのだそうだ。

『留守居』役の中には、1千年の間で元の王より良くこの世界を治めた者もいるという話だが、それは例外、むしろ珍例に近いらしい。

酒池肉林したりとか、税金上げまくって豪遊してみたりとか、感情を爆発させて世界に天変地異を巻き起こしたりだとか。

国を良くしようと法律を作ったら、逆に大混乱に陥ったりだとか、重用した人物に裏切られて国を乗っ取られかけたりだとか。

1万年に1度の王の『休去』期間は別名 《崩壊の時》と名付けられるほど、災厄の多い期間なのだ。

政に関してだけは、王が『留守居』の場合のみ、国の中枢の政治を担う人たちが勝手な法律を撤廃できるようにしたらしいが。

気分を害せば天候が荒れるという現実に、妥協せざるを得ない現状があり、あまり役に立っているとは言い難いようだ。


「生活に不自由はありません。文化の違いで多少ご苦労がお有りでしょうが、慣れていただくしか対処がございません。

 何か問題がありましたら、こちらに触れていただければ、先ほど姿を見せた侍従が来ますので。

 どうか、くれぐれも『お心を乱さず、臣民を見守って』やってください」


あたしって、どれだけ危険人物と思われてるんだろう、と少し情け無く思った。

さて、未だ下書きでも未来の見えない小説です。

そろそろ、だいぶ慣れてきたよと思いたい。

これからもよろしくお願いします。

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