到着したのは花畑
目が覚めたのは、花畑の真ん中でした。
最初は、あんまり綺麗な花畑の真ん中だったので、やっぱり死んだ!?とか思ったのは内緒だ。
だって、小さいけど小川まで流れられたら、三途の川!?と誰だって驚愕するはずだ。
何だか良く分からない場所。花畑が綺麗に途切れているように見えるから、部屋、なのだろうか?
大きく土が盛られた斜面に寝転がるのにぴったりな小山に、足の指がやっと浸るか浸らないか、立った一歩で跨げるような幅の小さな小川。
そして、一本だけ、敷石できれいに整えられた道がある以外は、全部花畑。
じっとしてても仕方が無い。首を捻っても分からない。
1つ大きく伸びをして立ち上がり、花畑の側を流れる小川で顔でも洗おうと移動する。
身だしなみは大切だし、遅かれ早かれ、きっと誰かが来るはずだ。
あの美形天使は『亜純が説明する』と言っていた。
嘘をつかれていなければ、うん、説明してくれる人が来てくれるだろう。
水面に映ったいつもどうりのあたしに、うん、やっぱりベリーショート以外と似合う、と行儀悪く服で顔を拭いて、はた、となった。
ずるずるの天使みたいな白い長い服=彼が着てたのと同じヤツ。
でも、顔も、身体も、全部、あたしだ。 後は分からないけど、前から見たら、全部あたしなのだ。
あのちょっとワイルドな褐色の肌も、宝石より綺麗だった碧眼も、金髪も、まったく見当たらない。
そんなに大きくないけどちゃんと胸もあるし、その、股座に異物があるようにも感じない、って、下着つけてないの!?
この身体は、あの、美形な男性っぽい天使さんのもののはずだよね?あの天使さんは、実は女性とか?
ひとしきり確認した後、途方にくれる。
やっぱり、あたし、騙された?
ぶちぶちとそこらの罪の無い花を引っこ抜き、現実逃避に走る。
あ、きっと失恋のショックで夢を見てるんだ。あたし、ファンタジー好きだしね~。
キィ、とぶちぶちと言う音以外無い空間に擦れるような音がして、道の突き当たりの白い場所に四角い線が入る。
真っ白すぎて疑問だったが、やっぱりここは部屋の中らしい。
扉が開き、ひどく不機嫌そうな少年と目線が交差する。
すっごい目つきが悪い。睨まれているようで、思わず身構えてしまう。あたしよりちっちゃいのに。
「ようこそ、留守居様」
歓迎の意思なんか欠片も見えないウエルカムに、胸の中にあった不安が氷塊を投げ込まれたかのように震えた。
慇懃無礼を体現したような馬鹿丁寧な扱いはともかくとして、与えられるものは素晴らしかった。
毛足の長い、沈み込むような絨毯に覆われた廊下を進み、歴史か美術の教科書にぱっと紹介されるような豪奢な部屋にたどり着く。
キンキラだが華美ではなく、素人目にもその質の高さが分かるオーラを放つ、セレブ臭がぷんぷんする部屋だった。
うちのリビング(八畳だったかな?)より、全然広い。
振り返りもせず進む少年は、更に奥の部屋の前に立ち止まると、ゆっくりと扉を開けた。
意外なことに……引き戸だった。
部屋の中には同じ服の女性が二人並んでいて、椅子も引いてくれた。
少年とは正反対の、にこやかな笑顔にホッとする。歓迎されていない、というわけではないと思いたい。
営業スマイルでないことを祈るばかりだ。
差し出された椅子にあたしがそこに座ると、一礼してしずしずと引き戸から出て行った。
服装が和服っぽいが、メイドさんだろうか。
いや、長い結い上げた髪とか和服とかのせいか、女官とか、女御というほうがぴったりなんだけど。
ぽけーーっと優雅な所作を見ていると、いつの間にか対面に座った少年がコホンと咳払いした。
「留守居様、まず、貴方様のご協力に、篤く御礼申し上げます」
「いや、あの、頭上げて。あた、私も、助けられたから」
びっくりだよ。しょっぱなから慇懃無礼だったのに、頭下げられたよ!!
あたし、は微妙かな、と一人称を改めてみる。だって、身体はあの彼のだよ?
「……そうですか。では、こちらから問うても良いでしょうか?」
「はい」
うわ、緊張する。
「我らが王であらせられる神代様は、貴方様にどれだけ事情を説明なさったのでしょう?」
早速難題が、降りかかってきた。 まず、神代様、というのが誰か分からない。
あの天使(仮)さん以外思い当たらないから彼のことなのだろうけど。
こっちで説明してくれるんじゃないの、ちょっと、天使(仮)さん!!
話が違うにも、ほどがあるでしょう!!
一人頭の中でパニックを起こしながらも、あたしは天使(仮)さんに言われた言葉を反復し、意味がわからないと正直に伝えた。
《向こうに行ったら、亜純がきちんと説明するはずだ》
迎えに来たこの人が、きっと、亜純さんだと思われるんだけど、亜純さんっていうより、亜純君だよね。
ぴくぴくっ、と器用にこめかみを引きつらせ、亜純君(仮)は小さくため息をついた。
「説明の前に、貴方様にお聞きしたいことがあります。
貴方様の世界には、魔法、もしくはそれに類する類の術は存在しましたか?」
「いえ、御伽噺や物語の中でしかないです」
まあ、あんな不思議現象を起こす世界に、魔法のひとつも無いほうがびっくりだから、この世界には魔法があるのだろう。
あたしも使えるかな、とちょっとドキドキだ。
元に戻れる保障はあるのだから、こうなればこの物語みたいな世界を堪能するべきだろう。
「この世界……神棲世界や神世と呼ばれている世界では、それが存在します。覚えておいてください」
「うん。魔法があるんだね」
素直な態度は好感触だったようだ。
すこしだけ、眉間の間の皺の数が目に見えて減った。
まぁ、この期に及んで魔法なんか信じない!!と言うのはその恩恵にあずかっているのだから失礼すぎるだろう。
「魔法、というのは一般的な呼称で、正式には心命術といいます。おいおい、仕組みは説明しましょう。
貴方様に理解してほしいのは、その身体の元の持ち主がこの世界の王である方のものであること。
貴方様の一挙一動で、この世界が動くことです。
この世界の成り立ちから、説明いたします。まずは聞いてください」
こうして、亜純君(仮)の異世界講座が始まったのだった。うう、スパルタっぽい匂いがする。
設定だけはいっぱい、でも、文章力が追いつかない。
拙いばかりの小説ですが、二話目更新しました。
行き当たりばったり感がいっぱい。
呆れないでお付き合いください。
また、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。