限界突破!!
ベッドが硬くなったなぁ、と思って目が覚めた。
でもまだ眠いし、閉じたままの目は開かない。
「あたま、ぼーーっとする」
ぽつり、とあたしが零した言葉に、頬に触れたものがあった。
「に~~」
閉じていた瞼をうっすら開くと、猫がいた。
ぺろぺろ、さりさり。
あたしのほっぺたを、必死に舐めている。
「うう、ありが、と」
ほにゃ、と思わず頬が緩む。抱っこしていいかな?
ゆっくりと、冷え切った身体を起こす。今日の分のご飯、取りに行かないといけないんだけどなぁ。
寒さと眩暈のダブルコンボ、厳しいなぁ。
頼んだら、風邪薬とかもらえるかな?
それより先に洗濯かな?絶対大惨事だよ、地面どろどろだから汚れたよ。
「にに、に~~」
ニャンコがたしたしとあたしの肩辺りを小さな足で叩く。
そっか。異世界だもんね、頭のいい猫でもおかしくは無いよね。
食材は無いことも無いし、この天候じゃあ明日取りに行っても凍ってるから問題無さそう。
今日は、暖かいところで大人しくしていようかなぁ。
やっぱり部屋へ帰ろう、と思ったんだけど。
「あ、にゃんこ」
起き上がると、猫は駆けていってしまった。
今日は寂しくないかな、と思ったのに。
結論から言うと。
あたしは助かった。
次に目覚めると、塔とは違う立派なあったかい部屋で、眠っていた。
「雪霧様、雪霧様、ふえええ、ごめんなさい、あたしがぁ、あたしが!!」
「馨のせいではありません、きちんとした事実を、亜純宰相筆頭にお伝えできなかった私にも咎が!!」
泣き出しそうな、というか、既に泣いている感じの二人のほっぺたに手を伸ばす。
「泣いちゃ、だめだよ?」
あったかいし、うん、きもちいいし、、さびしくないから、もういいや。
部屋の端っこに、見慣れない人と、あのときの猫がいる。
「あ、にゃんこ」
ててっ、と駆けてくる可愛らしい猫が、すりり、と頬に擦り寄ってきた。
「うん、ありがとうね?」
「に」
ふかふかの猫は、よく見るとちょっとふてぶてしい顔をしている。
大きさは子猫くらいなのになぁ。何か、異常に貫禄があるというか。
「しっかし、驚いたな。亜純の阿呆、そういえば一度も休去したことなかったっけな。
悪かったな、留守居役さん。今度、きちんと叱っておくから」
誰だろう。
「ごめんなさい、どなたですか?」
青緑の髪の男の人。見たこともないくらい、背が高くて体格がいい。
甘い、蜜みたいな色のあの猫が、その人の肩にとんっ、と飛び上がった。
「ああ、自己紹介な。俺は亜純と同じ、王の相談役である宰相群のジュウ役担当、清葉だ。
で、そっちが契約獣の葉。あんたが倒れてるのを見つけたのは、葉のお手柄」
亜純と同じ、という部分で、思わず眉間に皺がよる。
「あ~~、やっぱりアイツ、心証悪いのな。まぁ、俺らに相談の一つもしやがらねぇところからして、こっちも頭にくるけどよ。
王の代わりに執務のほとんどをまとめて、今現在国を動かしてるのはアイツなんだ。
いろいろあるってことで、まぁ、ちょっと考えてやってくれねぇかな?」
清葉さんに頭を下げられ、ビックリした。
「一応、上司だしな。あれ、頭はいいし、性格も悪くないんだ。
ただ、最近、イラついててどうしようもなくてな。王が親代わりだったし、寂しいってのもあるはずだが」
はぁ~~~、と清葉さんは大きくため息をついた。
「女性と男性の見分けもつかないボンクラだとは、思わなかったよ」
何度か、休去にあたっての説明もしたはずなんだが、と零す。
「最初に出会ったのが王の留守居役だから、色々分からないことも多かったんだろうが。
グダグダ言ってもしかたねぇ。アンタには、亜純をぶっ飛ばす資格があるからな」
にっこり笑った清葉さんに、ぐしゃぐしゃ、と頭を撫でられた。
「異世界にきて、ろくろく事情も説明されずに、よくがんばってたよ」
泣きそうだった。でも、ちょっと、じんわり不愉快。
『問題があるかもしれない』可能性の高い亜純君に、あたしを丸投げしたことが。
何も、あんなに人の世話に向いてなさそうな子に丸投げすること無いだろう。
はっきりと言って、八つ当たりだろう。
衣食住お世話になってるし、色々教えてもらってるし、身の危険も無い。
十分、十分よくしてもらっている、けれど。
何ともいえない顔のあたし。
「まあ、とりあえず、体調が落ち着くまで、その、養生してくれよ」
優しいお兄さんみたいな清葉さんは、葉ちゃんを置いて部屋から出て行った。
「亜純は、俺がとっちめとくから」
今度は王都で人気の甘い菓子を持ってくるよ、と言い残して。
「あの甘党宰相の菓子は、食べないほうが無難ですよ、雪霧様」
後日、その忠告を聞いておけばよかったと後悔する日が、来た。
続・ちょっと頑張ってみました。
少しはドキドキする展開になってるのかしらと自問自答してます。
誤字脱字とかも、あったらぜひ教えてほしいです(あつかましいかな?)