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切符持ってませんってば!

きわめて稀に微妙なボディータッチや流血描写が入ることもあります。ご了承ください。

 

 あまりにも儚い。あまりにも短い。

 私たちの娘が何をしたというの!!

 

 母親の嘆く声が、うわんうわんと無いはずの鼓膜から頭に響いてくる。

 こっちがびっくりだわ、と衝撃で止まった心臓が動き出さないか、本気で祈った。


 

あたし こと 御前みさき 雪霧ゆきりは、彼氏の十八の誕生日を目前に控えた半月前に振られてしまった。

友達にフラれたら髪を切るのだという古いよく聞く効果不明のアドバイスをもらったので活用し。

せっかくなら、とバイト代の誕生日プレゼント費用を使って有名な美容室を予約して、髪を切りに行った。気分転換がしたかったのだ。

美容室では、失恋したという話をしたら、担当のお兄さんがカッコイイお姉さんに代わって、色々話を聞いてくれた。

不細工に泣き出したあたしを子供のようにあやしながら、それでも髪を切る腕は止まらない。

「こっちのほうが似合うよ」って女も見惚れるカッコイイ美容師さんに言われるまま髪をベリーショートにして・・・・。

まるで髪の毛と一緒にヤツへの未練も不満も落とされたみたいに、すっきりして嬉しかったのを覚えている。

 

気分も晴れた帰り道、普段はほとんど車の来ない道で凄いエンジン音と、テレビでしか聞いたことの無いようなブレーキの音がして。

どんっ、て音がして、お腹に凄い衝撃が来て、視界がぐるりと回って、訳も分からないまま、目の前がぼやぼやと歪んで。

一度も止まることなく、黒い車が走り去っていく。

それから長いような短いようなふわふわした時間の後、意識も消える。

 

そうして、目が覚めたと思ったら。

 

 立ってるあたし↓

      寝てるあたし←家族&友人

 

なんて驚きの配置で、あたしは微妙な上空からの奇妙な視点で家族と友人を見下ろしていた。。

 

白いベッドの上、白い布で顔を覆われた、横たわった私と、すがりつくように泣き叫ぶ両親。

最初は、水の中から外の物音を聞いているように声のはずの音が不明瞭で、意味を理解できなかった。

 

 ドウシテ死んでシマッタノ!        死んで!?

 発見サレタ時ニハモウ、手遅れデ。      手遅れ!?

 轢き逃げデス                 轢き逃げ!?

 

嗚咽の中から聞こえた言葉に、ああ……ああ。

 

花の十七歳、これから、また頑張ろうと思ってたのに。

まだまだやりたいこともあった。

半月後にテストだから、って相談してたのに。

あ、昨日買ったお菓子も食べてないし、本日の愛犬の散歩はあたしの番だ。

似合う!!って、夢に新しい髪形を褒めてもらってないし。

人をフッてくれたヤツに、ヤツより格好良い彼氏を作って見せびらかしてやるつもりだったのに。

 

 あたし、死んじゃったんだ。

 

事実を理解して信じられなくて、泣き伏す両親や夢たちに手を伸ばして、触れられないことで自分も誤魔化せなくなった。

悲しくて、寂しくて、見えなくても両親や友達と同じように顔を覆って泣き出そうとした瞬間。

 

幽霊のはずのあたしの手を、痛いくらいの力で掴む褐色の肌の大きな手があった。

優雅な、天使のイメージそのままの白い衣を纏った、褐色の肌に金髪の美形。おまけに夏の空みたいに綺麗な碧眼。

あたし、キリスト教徒じゃないよ!?

一応、お迎えは川と渡し守な仏教徒なはず。

きっちり信心してるかってのはまたちょっと微妙だけど。

安心しろと言うようにふんわりと微笑まれて、頭が髑髏の死神よりは、カッコイイ美形天使のほうがいいよね、何て思ったのも束の間。

横たわったあたしのおでこに美形天使が触れると、そいつはあたしの身体と重なって、一つになってしまった。

「え?」

 息を吹き返した。顔に被せられた白い布が、ちらちらと呼吸で浮き沈みして。

 ゆっくりと、起き上がるあたしの身体。

「奇跡だ!!」

「い、生き返った!!」

わたわたと慌てる視界の中の、家族や医師や友人たち。

騒動の真ん中でありながらまるで別世界の住人のようにふんわりとあたしが、あたしに向けて微笑んだ。

も、もしかして、さっきの美形さんは、天使でなくて悪魔だったとか?

あたしの身体、貰われちゃった? 里子に出した覚えはない!!

大混乱のあたしの頭に、低い声が聞こえた。

『君の両親や友達を悲しませない代わりに、すまない、少しの間、身体を借りる』

断定だ。もう決定事項らしい。あたしの意思は無視なの!?

無料レンタルされるほど、花の乙女の身体は安くないのよ!?

『向こうに行ったら、亜純あじゅんがきちんと説明するはずだ。

ただ、一つだけ単刀直入に言うとね、取引したいんだ。』

人の身体を勝手に持っていって、何が、と思ったがそのあまりにも真剣な声音に戸惑ってしまう。

それに、あたしの身体をどうやったらあたしのものに戻せるかも分からないし。

 『君が、僕の用事が済むまで向こうで僕の体の留守番をしてくれたら、僕の用事が済んだ後、今、この瞬間。

  今、この瞬間に君が本当に甦ったことにしてあげる。僕にはその力がある。そう誓う。』

意味がわからない。勝手に誓われても困るし。

『つまり、今から君は僕が暮らしていた世界に行くことになる。

 そして、僕の身体に入る。 ある一定期間の間のことだ。

 その望みを聞いてくれたら、僕の用事が済んだと、事故直後に復活した状態で、君を甦らせてあげると、言っているんだ。

 僕の望みを叶えて、そうしたら、今、この瞬間に起き上がるのは、君、ということになるんだ』

声だけがもどかしげに、必死に説明する。

要するに、つまりは。いろいろ問題は山積みでついでに半分も理解していないが。

『あたし、死ななかったことになるの?』

『そう。この取引、どうかな?何なら、辛いリハビリだけは僕がやって、健康に戻ったときに元に戻すことも出来るけど』

ふるふる、と横に頭を振って答えた。

それは嫌だ。辛いことだけ押し付けるのは嫌だって言うのもあるけど。

花の十七歳の女子高校生の青春、1日たりとて他人に渡してなるものか。

『いいよ。死ぬより死なないほうがいいもん。取引、する』

ここで取引しなければ、次の瞬間にあたしは死んでしまうのだから。

了承すると、あたし……今は彼かな?がふんわりと微笑んだ。

ぐるぐるとひどい睡魔が襲ってきて、あたしの瞼は必死の抵抗をものともせずに落ちた。

 

目を閉じたはずなのに、見えた光景。

あたしが死んだときより、皆わぁわぁ声を上げて泣いている。

笑い声が混じってるから、大きな声になるのかな?

あたしが、あたしのいる方を見て笑った。

天使って、笑い方も綺麗なんだね。

まるであたしじゃないみたいに、慈悲深く、まるで聖母のように微笑む彼に、あたしも笑った。

あんなに綺麗じゃないけど、まぁ、いっか。

 

『君の死因になったくるま?のなんばーぷれーと?の番号?だけど、きちんと伝えておくからね?』

 

悪戯っぽい声が反響したのを最後に、あたしはふわふわとどこかへ運ばれていった。

浮き輪に捕まって、流水のプールでぷかぷか浮かんでいるような、心地よい浮遊感と共に。



長編小説初投稿。

至らない部分だらけでしょうが、よろしかったらこれからも暇なときに読んでくれたら嬉しいなと思っています。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

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