都市監視員逹と缶コーヒー。
第四回なろうラジオ大賞参加作品第十七弾!
「温かいコーヒーをどうぞ」
「温かいコーヒーをどうも」
俺は同僚から温かい缶コーヒーを笑顔で受け取った。
この仕事……監視員の、夜勤に就いてから缶コーヒーは欠かせない。
それも、普通の監視員じゃない。
いや、従来の監視員も重要な仕事かもしれないが、俺や同僚逹が就いている監視員の仕事については別格ではないかと俺は思う。
なぜならば、
「今夜も何事もなさそうだな」
「そうね。このまま主人公達の影響で何か起こらなければ良いんだけど」
俺達が監視しているのは主人公……と勝手に俺達政府関係者が呼んでいる存在。
ただその場にいるだけで、周囲で何らかの事件が発生してしまい、そして同時にそんな事件を解決するだけの特技を有している……そんな星の下に生まれし、物語の主人公のような謎の人達だ。
そしてその存在は、同じく主人公であった日本政府お抱えの霊媒師によって判明し、日本政府はただちに国内のそんな存在の中の、善性の存在を日本の某所に強制移住させる措置をとる事で、国内の事件を一気に減少させる事に成功。
ついでに言えば、主人公達でなければ解決できない事件が起こった際には適任の主人公を派遣する法律『護国英雄派遣法』なるモノを無理やり作る事で、より効率的に国内の事件を解決する事にも成功したとかなんとか。
ちなみに主人公が集結した、俺達が監視している都市……通称『主役都市』内においては滅多に事件が起こらない。寧ろ登場人物全員が善性の主人公な物語の中で事件が起こる方が難しいのであるが……例外はある。
まるで、磁石のS極とN極のように。
たとえ中央でぶった切っても、そのぶった切ったそれぞれの磁石の中で、S極とN極が生まれてしまうように。
世界自身の、善と悪の帳尻合わせのためなのか。
善性の主人公達の中から時折、義賊を始めとする悪性の主役……アンチヒーローと呼ぶべき存在が生まれてしまうのである。
「ッ! Bブロックで犯罪確認! アンチヒーローと思われます!」
「チクショウが! それで犯罪の種類は!?」
やれやれだ。思ってるそばから。
今夜もまた、騒がしくなりそうだ。
「至急、適任な主人公を割り出し派遣しろ! 寝てても叩き起こせ!」
「主役都市の外壁を上げて出入口を封鎖するのが先だ! アンチヒーローを逃がすな!」
まったく。
缶コーヒーを味わっている暇もない。
しかし、日本の一大事である事には変わりないため、俺は缶コーヒーを一気飲みすると担当のモニターを確認した。
俺達の本当の仕事はこれからだ!