黒と白のオセロニア
ここんとこコロナになったせいで体調悪くて。
連載再開する前のウォーミングアップ作品。
お☆さまとブクマをいただければシリーズ作るかもです。たぶん
他にも書きかけがたくさん(ヲイ)あるので覗いて行ってもらえたら励みになります。
世の中には二種類の魔女が存在する。
清廉潔白を重んじ処女性を失わないことで精霊に愛されその力を借りて行使する魔法を持つ【高潔の魔女】と快楽を好み男の性を取り込み燃料とすることで魔法を行使する【堕落の魔女】
人々は彼女たちの力を借りて平穏を守っている。彼女たちがなぜ誕生したかも知らないくせに。
王都から遠く離れた辺境にその姉妹は住んでいる。
辺境といえども領主お膝元の街ともあれば他国への窓口ともあってそこそこな発展をしていて特別な不自由は感じない。
その魔女姉妹は5年前にやってきた。
王の勅命を持った【堕落の魔女】ローレライは白銀とも思えるほどの長く美しい白髪に褐色の肌、挑発的な鮮血の瞳を輝かし、漆黒のドレスを身に纏い水平に浮かぶ黒檀の長杖に立ち辺境騎士たちの前に降り立った姿は今でも語り草である。
そう、【堕落の魔女】ローレライは国王と契約を交わす数少ない魔女である。彼女が住み着く前にも何度か辺境に魔獣討伐や結界修復などで派遣されてきたことはあった。それは彼女が国から依頼されてやってきた【渡りの魔女】であることを示していた。
【渡りの魔女】とは誰とも契約をせず縛られることのないフリーランスな魔女のことである。
それが王命を持って定住をしたということは彼女が国王と何らかの契約をしたとこを示している。今日も彼女は契約の名のもとに魔獣を屠り辺境の結界を強化する。その代償は辺境騎士団に身を置く男たちの性である。
「うあ~今日もよく働いたぁ~。」
路地裏に構える小さな家、裏の木戸から帰った妹に室内からは明るい「おかえり」が声かけられた。
「れーちゃん、ごはんは?たべる?」
「ありがとう、せーちゃん、でも外で食べてきたからいらない。」
アフターも仕事のうちなんだよぉ~。と言いながらソファにドカリと座った妹をたしなめることもなく、せーちゃんと呼ばれた姉は台所にとって返した。
「じゃぁ、お茶入れてあげるね。」
【高潔の魔女】セイレーン。漆黒の長い髪に透けるような白い肌、澄み渡る空とも海とも思える蒼い瞳の魔女、それがローレライの姉である。
セイレーンは妹に請われるまま共にこの町に移住してからといういもの病気の者がいれば薬を作り、ケガをしたものがいればそれを癒し、孤独の年寄りがいればそれを訪問し、打ち捨てられた子供がいれば教会の孤児院へ保護を求める。
彼女の献身に町の者はすっかり懐き、今では町の人気者である。それはローレライの誇りであり自慢であり大好きな姉の姿。
「はいどうぞ。最近忙しいみたいだけどあんまり無茶しちゃだめよ?」
「そうなのよねぇ〜。お呼び出し多すぎてさぁ〜なかなか帰れなくてごめんねぇ〜。あ、レモングラスとアキナセアのお茶好き~さすがせーちゃんわかってるぅ。」
「おでこケガしてる。……これは石ね?だれ?」
いつもはポケポケと柔らかな姉の声が珍しく低められた。普段穏やかなこの姉が自分に何かあるたびに怒りをあらわにするのを見ると愛されてるな、とゆがんだことを思うローレライである。
「エキドナよ。」
「またあの子なの?前はなんだっけ?友達の恋人をたぶらかすなだっけ?その前は妹の婚約者候補だっけ?」
誑かすもなにも、ローレライは自分から選んでてなど出したことは一度もない。
仕事終わりに魔力を補填するため男たちと交わる。それは紛れもない事実であるからそれに対してふしだらだというのなら甘んじて受ける。しかし、それに対する人選は騎士団に条件を受けたうえで任せている。
ひとつ、特定のパートナーがいないこと
ひとつ、既婚者は相手に同意書を求めること
ひとつ、これを原因として勘違いを起こさないこと
これらが守れる者だけがローレライのそばに侍ることを許されるのだ。
だがまぁ、往々にして【堕落の魔女】というだけで毛嫌いするものは多い。特に女性や年配からは差別されることはあるのである。
「自分たちが誰に守られているかもちゃんとわかってないくせによくそんな文句が言えたもんだわ。あの子だけが出禁で懲りないなら私はあの子の関係者をもう相手にしない。」
「その辺は任せるよ。私じゃわからないし。……そういえば最近ヘンドリクセンくんは元気にしてる?今日給料出たからまた寄付持っていってよ。」
懐から出した皮袋を机に置くと残りのお茶をぐっと飲み込む。
「こんなに?」
「せーちゃんがお世話になってるからねぇ〜この地はまだ力のある神がいるんだから神官殿には頑張ってもらわないとさぁ〜。」
いかにも他力本願と言わんばかりの態度であるが、セイレーンもローレライも魔力を纏う者だからかこの地がよく神に守護されているとわかる。
神の守護が強いということはそれに祈りを捧げる者の力が強いことを意味する。今時珍しいことだが。
この地の神殿に仕えるかの神官の名はヘンドリクセン。その灌漑の神官が中央より遣わされたのは5年前。
これは神殿の上層と一部の魔女しか知らないことだが、神官は処女の甘露を啜ることでその力が増すという。
また【高潔の魔女】は清廉なるものに愛されることでより精霊の力が増すという。
つまり二人は以前からそういう関係なのである。寄付届けるついでに睦み愛し合う二人。
もちろんローレライはそれを知っている。寧ろ知っているからこそ王と契約し中央こらヘンドリクセンをこの地に縛り、姉とともに移り住んだのだから。
全ては姉の幸せのため。
「よろしくね〜。」
後ろ手にひらひらと振って自室に引き上げたローレライは部屋の半分を選挙するベッドへと飛び込んだ。
「そろそろこの部屋出てもいいんだけどなぁ。せーちゃん心配するかなぁ〜?」
未来の兄上にこの部屋を譲るのも吝かではない。それくらいにはあの男に最愛の姉を預けてもいいかとは思ってる。少なくとも人間の手垢がついた魔女を精霊は連れて行かない。互いに高め合うカップルの邪魔をするのは馬に蹴られたい人間だけだろう。
あれほどの器を作り上げた男なら魔女の寿命とも渡り合えるようになるだろうから姉が寂しい思いをすることもないだろう。
「ごめんね、せーちゃん。」
誰に聞かせるでもなくローレライはポツリと呟いて眠りに落ちていく。
ローレライが【堕落の魔女】として覚醒したのは10年前。それに呼応して【高潔の魔女】となったのはセイレーン。
魔女は対となって生まれる。それはオセロの白と黒のように互いを背負い対となり特別なつながりを持つ魂が片方の覚醒とともに目を覚ます。
もともとセイレーンは妖精を見る力を持った子供だった。はては神殿に侍る乙女となるか魔女になるか、理を知らぬ両親は長女の行く末を楽しみにしたものである。
そして覚醒した日、セイレーンは【高潔の魔女】となった。それは両親自慢の娘の誕生である。
「魔女さまはなぜ魔女に?」
今日も今日とて仕事終わりから騎士団に備えられた自室のベッドの上で一糸まとわぬ姿で後ろから抱きしめる男に問われてローレライは回したくない頭を回す。
「なんでだろうねぇ〜。それより最近魔獣多くない?」
「そう……ですね。今騎士団でも調査してますが……。」
「多いわよ。結界あるのに突っ込んでくるなんて異常でしょ私がここに関わり始めてから初めての珍事じゃない。」
ここのところ結界外の魔獣の動きが活発でこれまでなら週に1、2度軽い討伐だったのが日に何度もある。
あまりの頻度の多さに姉のもとに変えれたのは先日久々だったもののすぐまた呼び戻された。
「魔女使いが荒いぞぉ〜契約違反だぁ〜訴えてやるぅ〜。」
などと軽口を叩いてる今さえも外で強襲の鐘が鳴っている。
「時間外手当を要求するぅ〜団長食っちまうぞぉ〜。」
「魔女さま、それは……。」
「知ってるわよ冗談よ。第三王女が拗ねるからやめろって言うんでしょ。私だってあんなおこちゃまの癇癪相手してらんないわよ。……サイラスくんもさっさとこんなとこ卒業しちゃったほうがいいわよ。私は助かるけどぉ〜。じゃ、先に行くわね。」
黒檀の長杖をひとふりすると黒のドレスが一瞬で着付けられるとそのまま杖に座り窓から飛び出す。
「どぉ〜も変な魔力があるのよねぇ〜。知らんやつだわ〜。」
そもそもローレライは魔女として顔が広いわけではない。【堕落の魔女】が集まるサバトは趣味じゃないし、魔女の集会は隠れ人見知りなのでめんどくさいと参加しない。知ってるのは同僚でもある国王の契約魔女か師匠たちぐらいのものである。
「私の仕事増やしてくれるとかいい度胸じゃないのよ。」
城門の外に広がる森でいくつかの部隊に別れすでに戦いは始まっている。しかし数こそ多いものの魔物一つ一つは小物で大したことはない。しかしいかんせん数が多い。
あちこちにドカドカと魔法を落として魔物の数を殲滅していく。
「こりゃぁ、きりないわ。」
戦いから離脱して上空から意識を集中させて根源たる悪意を探す。
「あいつか。不可視をかけてるからって油断してるわね。」
これほどの数を動かす相手だ。さぞかし力量があるのだろう。
「でも相手が悪かったわね。」
「捕縛。……殲滅!」
右手を小指から握り込んで対象を魔力で縛る。同時に相手の手繰る魔力を辿ってすべてを爆破すればあちこちから破裂音と爆炎が立ち上る。
作った拳を潰さぬ様に気を付けて手首を返すとそれは森の中から悲鳴とともに飛び出してきた。
「このバケモノ!なんつー魔力してんのよ!」
上空で飛び出した甲高い罵倒に戦いを終えた騎士たちが集まってきた。
「ここ最近の魔物暴走はあんたね。どこの誰で誰の支持でこんなことしたの。正直に話しなさい」
身動き一つ取ることもできず、杖も箒もないのに黒のローブをまとった女はギクリと身をこわばらせた。
灰褐色の髪に焼けた肌と赤い瞳は紛れもない同業者の証。
魔力とともに見開かれた目から逸らすことができず、口がペラペラと勝手に動く。
「私は西に住まう【堕落の魔女】ソープ。第三王女、キャリーとの契約で辺境砦歌唄いの堕落魔女を失墜させる為に……!」
「失墜ねぇ〜。求める結果が曖昧ねぇ。まぁだからこんな弱い魔女としか契約しなかったんだろうけど。」
「誰が弱いよ!失礼ね!私は5等級なのよ!?その私を捩じ伏せるなんてあんた一体何なのよこのバケモノ!」
「キャンキャン煩いのよ。」
言葉と同時に人差し指と親指をつけて水平に動かすと、ソープと名乗った魔女はモゴモゴと口を動かすだけで唇が離れない。
ピンと立てた人差し指を素早く下に向ければ魔女は下に集まった騎士へと真っ逆さまに落ちていった。
「だんちょー聞こえてたでしょ。あとはそっちの仕事ですからね!」
「は!?まさかこのまま投げんのかよ!」
「これ以上は時間界報酬請求するわよ。」
「じゃぁ、俺の体やろうか。」
「いらないわよ。これ以上の厄介事なんてゴメンだわぁ〜。ちゃんと、おこちゃま躾けてから出直してちょうだい。」
ふん、とそっぽを向くとそのまま降りることなくローレライは一つの窓を目指す。
そこにはもう先程いたはずの騎士の姿はなく、月明かりの差し込む窓を締めると備え付けのベッドに倒れ込んだ。
魔力にはまだ余裕がある。体力だってある。しかしこの気怠さの原因はたった一つ。
『バケモノ』
「うっせぇ〜知ってるっつぅの。」
呟かれた言葉は枕へと吸い込まれる。
【高潔の魔女】の魔力量はその身の清らかさと高潔な精神で決まる。それと同じように【堕落の魔女】の魔力量はいかにして魔女となったかが重要なのだ。
【堕落の魔女】は魔力を持った生娘がどれだけの絶望を持って何人の男に抱かれたかで決まる。その数が多く絶望が深いほど巨大な魔力が操れる。
ローレライが魔女となったその日、彼女は近所の少年に誘われて村はずれの小屋近くの木の実を取りに行った。
はずだった。
小屋に道具がおいてあるから寄っていこう。と言われなんの疑いもなくついていくと、後ろから布を噛まされて引き倒された。何事かと思ったときには薄暗い小屋の天井に、近所や教会で一緒に文字を習っている男の子ばかり9人か10人いたろうか。もう細かな数は覚えていない。
両手両足を捕まえられ服をはぎ取られた。無我夢中で叫ぶが布に吸い込まれるだけで音にならない。何やら好き勝手言っているが何を言ってるかわからないし理解したくもない。
ただ痛くて怖くて!昨日までの友達になぜこんなことされてるのかも意味がわからなかった。
ガンガンと揺さぶられる頭に知らない声が響く
『恨みを晴らせ。苦痛を快楽に絶望を復讐に。落ちたる魔女には昇りたる魔女を。』
気がつけば吹き飛んび燃えたであろう小屋の残骸が煙を上げていて、目の前には黒衣の魔女がいた。
ポニーテールの白い髪に焼けた肌と赤い瞳は【堕落の魔女】の象徴。
「ここに一人の魔女が生まれたことを祝福申し上げる。私は言の葉の堕落魔女。今日から一年あなたの師匠です。」
それから一年は師匠について修行が始まった。
独り立ちしてもしばらくはフリーで仕事を楽しみ今に至る。
「ま、これで暫くはおとなしくなるだろうし。あとは騎士団に任せて一件落着っと……。」
そこにノックの音が三回響く。
『魔女さま、魔力の補給に来ました!』
「はいは〜い。……たまにはランコーも悪くないか。」
【堕落の魔女】はそう呟くと今日もシーツの波間にその身を沈めた。
思ったこと綴っただけだったのでなんのまとまりもなかった……。
ただのネタになっただけだった……。何方か奇特な方がこの設定を使って何かの作品になったら嬉しいなぁ。喜んで読みに行きますのでぜひよろしくお願いしますm(_ _)m