02
次の日私はロイズ伯爵邸へとやってきていました。
私の親友であるソフィアにお茶会に誘われていたからでした。
この日はもう一人の親友であるリーゼと共にレイス伯爵邸の庭園で美しい花々を眺めながら、雑談に花を咲かせていました。
二人とは貴族学院時代からの知り合いで嫁いでからも変わらずに仲良くしており、二人とはよくこうしてお茶会を催していました。
そして話題はあの人の事になりました。
リーゼが私に言います。
「やっぱりさ、アイツとは絶対に別れた方がいいよ。」
ソフィアもうんうんと頷きながら言いました。
「同感、アイツは本当にヤバいわよ。」
私は言葉を濁しながら二人に言います。
「うん、あの人は厳しいからね。」
リーゼが私に言います。
「厳しいとかそういうレベルじゃないでしょ?文字通り雷を落とされたんでしょ?」
私がリーゼに言います。
「うん、このまえまたそれで倒れちゃって。」
ソフィアも私に言います。
「電撃を妻に食らわせる男なんてヤバすぎるって。」
リーゼが私に言います。
「だってレイラ全然悪くないでしょ?」
ソフィアも私に言います。
「そうだよ、アイツがいきなりレイラを王宮に呼びつけておいて自分は呼びつけた事をすっかり忘れてそのまま屋敷に帰っちゃったんでしょ。それなのにアイツは屋敷で自分が帰った時になぜ出迎えをしないんだって激高してレイラに電撃食わされたんでしょ?」
リーゼが言いました。
「自分が命令を出してそれを忘れたうえに、逆上してレイラに電撃浴びせるとかヤバいとしか言えないわ。」
ソフィアが言いました。
「本当よね。なんであんなのが公爵やってるんだろう。」
私がソフィアに言いました。
「ユーゲルスの父親である前ルイホルム子爵であるマルタス様が魔道具の開発者だってのが大きいかな?ユーゲルスが子爵から公爵にあがれたのもマルタス様の功績があるからだと思うし。」
リーゼが私に言いました。
「昔は魔力を測ったり魔法を覚えたりするのはとても大変だったらしからね。今でこそ魔法はありふれたものになってるけど。」
ソフィアが私に尋ねました。
「だったらマルタス様の爵位を上げてあげれば良かったのに。」
私がソフィアに言いました。
「マルタス様は公爵の爵位を貰う前に亡くなってしまったのよ。それで代わりにユーゲルスを子爵から公爵に上げてもらったってわけ?」
リーゼが私に言いました。
「アイツの御父上であるマルタス様がすごいのであってアイツ自身はクズよクズ。私さアイツと3年の時にクラスが一緒だったじゃない、本当に最低の奴だったわよ。すぐにキレるし、ほぼ毎日大声で怒鳴り散らして暴れ回ってたわ。同じクラスだった1年間は本当に地獄としか言いようがなかったわ。」
ソフィアがリーゼに言いました。
「ああそう言えばよく愚痴を言ってたね。」
「よくレイラがあんなのと一緒にいられると思うのよね。」
私がリーゼに言いました。
「あの人から縁談の申し込みがあったの。」
リーゼが私に尋ねました。
「でも男爵様からは止められなかったの?」
リーゼの言う男爵様というのは我が父のボルス男爵の事です。
私はボルス男爵家の娘であり、あの人が私の18の時に縁談の申し込みをしてきてそのまま結婚したんです。
私がリーゼに言います。
「お父様からは止められたわ。ボルス男爵家の事なんて考えなくていいから。とにかくアイツだけはやめとけって。でもお父様のお役に立ちたかったし、あの人もみんなが言うほど悪い人だと思えなかったから。」
「でも違ったでしょ?」
「うん、リーゼが忠告してくれた通りだった。」
リーゼが私に言いました。
「だから言ったでしょ。アイツだけはやめとけって。」
私がリーゼに返します。
「うん、ごめんね。再三忠告してくれたのに。」
リーゼが私に言いました。
「いやそんな事は別にいいのよ。問題はこれからどうするかよ。あんな奴のそばにいたらレイラあいつに何されるか分かったもんじゃないでしょ。今晩にでも逃げた方がいいと思うわ。」
私がリーゼに言いました。
「ちょっとオーバーじゃない?」
リーゼが私に言いました。
「もう電撃を食らわされている時点で正気の沙汰じゃないから。とにかくアイツは本当にヤバいわ。」
ソフィアも首を縦に振ります。
「同感。」
私は二人に尋ねました。
「どこでもこういうものじゃないの?」
リーゼが私に言いました。
「ブリムハルト様から電撃を浴びせられた事なんてないから。」
ソフィアが私に言いました。
「私もリドル様からそんな事された事ないわ。」
ソフィアが私に尋ねました。
「おまけにアイツは四六時中所構わず暴言を吐くんでしょ?」
私がソフィアに言いました。
「うん、ほぼ毎日言われるね。でも喧嘩ぐらいは夫婦ならする時もあるでしょ。」
ソフィアが私に言いました。
「アイツのはそもそも喧嘩じゃないから。」
リーゼが私に言います。
「うんそうだね、アイツが暴言をはきまくってレイラが何も悪くないのにひたすら謝り続けるだけなんでしょ?だったらそれはアイツがレイラをイジメてるだけだから。」
ソフィアが私に言いました。
「喧嘩という事すらおこがましいよね。」
「そうだソフィアこの前は穏便に済ませてありがとね。あの人の顔を立ててくれて。」
「アイツなんざどうでもいいわ。レイラが心配で何も言わなかっただけ?」
「ソフィア?アイツになんかされたの?」
「ほらこの前のルイホルム家の主催のパーティーがあったでしょ?その時にあいつに絡まれたのよ。」
「絡まれたって??」
「あの日ちゃんと届いた招待状を持ってパティーに行ったのよ。ルイホルム公爵邸ではちゃんと招待状を見せて公爵家のスタッフに確認してもらって会場に入ったのよ。それで他の招待客の人達と談笑してたら突然アイツがやってきて、私にこう言ったの。『なんで貴様みたいな女がここにいるんだ?さては勝手に潜り込んだな??ルイホルム公爵を舐めるとはいい度胸だ。』そう言って私に水をかけてきたのよ。」
「はあ何それ??ちゃんと招待状を持ってたんでしょ?」
「うん、それアイツに言ったんだけど、そんなもの偽物だろう。うまく偽の招待状を偽造したようだがこの公爵の目は欺けんぞとか意味不明な事を言われたのよ。それでそのまま追い出されたの。おまけに10回以上足蹴りをされたわ。」
「それであの時いなかったの??」
「リドル様に言わなきゃとも思ったんだけど、アイツがレイラに当たらないか心配で心配で何もリドル様には言わなかったのよ。」
「ごめんね、本当に。」
「いいよ、体調も悪かったんだし。全部アイツのせいなんだから。」
するとリーゼが私に尋ねてきました。
「ねえ一度聞いてみたかったんだけど、あいつに何かをしてもらった事ある?」
私はリーゼに聞き返します。
「何かって?」
「何かプレゼントしてくれたりとか?」
「ううん一度もないかな。」
すると今度はソフィアが尋ねてきました。
「それじゃあどこか一緒に旅行とかに連れってってもらったことは?」
「一度もないかな。あっでもこのまえ王宮に勲章を持ってこいってあの人から使いがきて大急ぎで王宮に持っていた事はあるけど。」
「それは旅行とは言わないから。ただのお使いだから。」
またリーゼが尋ねてきました。
「ねえ?結婚してからアイツがレイラに謝った事ってあるの?」
「あ~、そういえば一度もないかも。」
ソフィーが呆れた様子で私に言いました。
「三年一緒に過ごしてて一度も謝らないってありえるの?」
リーゼがソフィーに言いました。
「ありえないでしょ。」
リーゼがソフィーに言いました。
「とにかくすぐに逃げなさい。このままルイホルム公爵邸に戻ってはダメ。」
私はソフィーに答えます。
「それはできるだけしたくないかな。」
するとリーゼも私に言いました。
「私からもおねがいよ、アイツから逃げて。レイラあなたには元気でいてほしいのよ。」
私は二人に言いました。
「でも私はあの人の事を諦められないでいるのよ。きっとあの人の事を愛しているだと思う。」
ソフィーが私に言いました。
「たぶんそれは違うわ、レイラあなたはアイツを愛しているんじゃない。アイツに怯えているの。アイツを恐れているのよ。」
リーゼが私に言います。
「うん怯えて何されるかわからないと思ってるから帰ろうとしてるんだと思うよ。」
ソフィーが私に尋ねました。
「ねえ?レイラ?アイツを愛しいと思える?これからもずっと一緒に歩んでいきたいと思える?」
私はソフィーの質問に自分でも驚くほどはやく回答を出す事ができました。
「全然思えない、あの人とはもう歩んでいきたくないわ。」
私はそう声に出してようやく気が付きました。
私はもうあの人の事を愛していない事を。あの人にこだわっているのはあの人を恐れているからだという事に。
私はセリスの首飾りを外してみる事にしました。
これは結婚式のときに相手のセリスの首飾りと交換して愛を誓いあうというしきたりがあり、結婚式の時は政略結婚であってもまず例外なく行われます。
このセリスの首飾りには結婚した相手と愛し合っている間は外す事ができないといわれています。
私はあの人との交換したセリスの首飾りを外してみる事にしました。
するとセリスの首飾りは簡単に外せました。
そして私は二人に言いました。
「そうね、私はあの人に怯えているだけで、あの人への愛はとっくに枯れ果てていたのね。分かった。私今晩逃げるわ。」
私はユーゲルスから離れる決意をしました。
私は公爵邸にもどり最低限の物を取りに行ったあとで公爵邸より逃げだしました。