第八話 親の権力を使うとはなんと卑怯な!!
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読んでくださっている方々、ありがとうございます!
今日も今日とてアレンの焦りっぷりをどうぞ可哀想な目で見守ってやってください。
『――ぶっ殺す――王城にて待つ――
~国王より、真心をこめて~』
クソ女ことマリーに力づくで連行され、無理やり乗せられた馬車の中で、読みたくもない手紙を読んだ俺。
国王様より真心を込めた殺害予告を受け取った俺は、おそらく人生が詰んでいると思う。
ここは一つ、あえて元気よく現状を嘆いてみようと思う。
すごく、すごーく真心のこもったぶっ殺すを頂きました! どうもアレンです! これから王城に向かう、どうもアレンです!
…………。
…………、……………………。
「ふええええええええええええ!」
もはや悲鳴を越えた悲鳴だったと思う。
「ふはははは! ざまあみろ、アレン・オーブリー! 貴様の命運もここまでだ!」
俺の悲鳴を聞いたマリーが爆笑して中を覗いてくる。
こいつー、完全に他人事だと思いやがって! 大体お前が俺を強制連行なんてしなければ、気づかなかったことにして、押し通せたのに!
とはいえ、時は既に遅し。
何よりもまずいのは、俺が現在進行形で王城(処刑場)に連行されていること。
このままでは、自ら地獄に飛び込むようなものだ。
だが、
「くそっ。逃げ出そうにも、扉の付近にはマリーが控えているし、万が一逃げ出せたとしても俺は王家の命令に背いた罪で、指名手配される。どっちにしても俺の命が危険にさらされるだけじゃないか」
俺は絶望の中、馬車の天井を見上げる。
そこには国教である『花の精霊様』がアイリスの花を慈しむ絵画が描かれていた。
美しい銀髪の可愛らしい花の精霊様を見ているうちに、俺は、何故だか無性にあの絵の世界に飛び込みたくなった。
飛び込んで、あの絵のアイリスにでもなって、花の精霊様に癒してもらいたい。
俺は、瞳を閉じて想像を巡らす。
俺は、花畑の中に咲く一輪の青い花だ。
周囲には自然豊かなのどかな夕景が広がっている。
『あ~あ、花になったのはいいけど、毎日毎日暇だなぁ』
「お花のお兄ちゃん、何をしているの?」
そこに二枚の羽が生えた精霊様がやってくる。
『おや、これは珍しいな。もしかして花の精霊様?』
「うん! 私、お花の精霊だよ! えへへへ!」
『(……カワイイ)何をそんなに笑っているんだい?』
「だって、嬉しくて!」
「……嬉しい?」
『うん! だって、お花さんと話せるのとーっても久しぶりなんだもん! ねえ、お花のお兄ちゃん! 良かったらわたしと一緒にお話ししない?』
『あははは、良いよ。さあ、おいで、俺と一緒に日が暮れるまで話そうか!』
「わぁーい! ありがとう! お兄ちゃん、だーーいすき!!」
……なんだろうか、この、満たされていく思いは。
なぜだろう、こうも穏やかな気持ちになれるなんて、思いもしなかった。彼女のことを思い浮かべるだけで、こんなにも幸せになれるなんて……。
はっ! そうか! これが宗教というものなのか!
「……貴様、何をにやけている? 情緒不安定なのか?」
「ーーうわぁ!? なぜおまえがこの世界にいるぅ!?」
マリーがため息を吐く。
「はぁ……全くもって可哀想ではないが、これ以上、殿下を待たせる訳にもいかないからな。さっさと降りろ!」
「お前今、同情する雰囲気でこれっぽっちも同情していなかったよな?」
……どうやら妄想に耽っている間についたらしい。
俺は、イヤイヤ馬車から降りる。
馬車の扉から一歩、外に出ると、眩しい光が俺を照らした。
「……悲しくても、辛くても、人は陽の光を眩しいと感じることができるのだな」
「何を言っているんだ貴様。気持ち悪いし、キモいからさっさとおりろ。気持ち悪い」
マリーは階段の降りた先、俺を警備するために待ち構えていた。
なお、その表情は汚物を見るかのようにうげぇとしていた。
「うるせぇ! 少しは余生を楽しませろ!」
……。
「つか今、何回もおんなじこと言う必要があったか?」
馬車の着いたところは、王城にある噴水広場の近くだった。
ここは、数々の貴族または国外からの使者がくる場所として、様々な種類の花が咲いている場所として知られている。
両脇にある噴水が道と花壇の境界線を示し、左の花壇には春を代表するアイリス、ヤグルマギク、マーガレット、ヒナゲシ(ポピー)などが咲き誇り、右側の花壇には色味の違う近縁種の花が植えられていた。
暖色系から寒色系まで幅広くあり、品種改良された薔薇や百合の花なども植えられている。
流れるように広がる花畑は、その一本一本が見事に花開き、見る者に花の華麗さと美しさ、そして感動を留めることなく伝えてくる。
俺は、あまりの美しさに思わず立ち止まると、時間を忘れてぼうっと眺めていた。
マリーはその間、なにも言うことなく、ようやく俺が動き始めたころに「綺麗だろう」と言っていた。
案外、この光景に立ち止まってしまう人は多いのだろうか?
すっかり花に見入ってしまった俺は、そのことをマリーに尋ねようとするが、このクソ女に教えられるのは癪にさわることを理解。
急激に腹が立ったのであった。
広場から王城までの道は、一直線だった。
石を積み上げて作られたアーチ状の入り口。俺は、マリーとそれから途中で合流した複数の騎士に連れられ、建物に入った。
赤いカーペットが敷かれた王城の中は、そのすべてが高級品で固められていた。廊下の隅に偶にある花瓶や壺、壁に掛けてある絵などはどれも一級品。素人目から見てもその価値が分かるほど、優れているものばかり。
下手をすると、それ一つでオーブリー家の一年分の税収と匹敵するかもしれない。
そして、俺たちはとある部屋に行き着いた。
豪華な装飾が施された扉だった。
見るだけで、圧力が襲い掛かってくるような扉だ。
黄金でできた細かい装飾の数々は、その先に待つ者を否が応でも思い知らせてくる。
この王城に住んでいるマリーですら唾を飲み込む所から、俺は、自身の嫌な予感が当たったことを思い知る。
逃げたい。だが、もはや逃げ道はどこにも存在しなかった。
俺は走り出したい衝動を抑え、扉の前に立つ。
マリーを含め、護衛騎士たちがその場から離れた。
どうやらここから先は、俺一人で進めということらしい。
ええい! もうどうにでもなれ!
俺は覚悟を決めて、扉をノックする。
「アレン・オーブリー只今参りました!」
「どうぞ、いらしてください」
……女性の声?
俺はちょっと予想外の声に驚いた。
女性の許可を得て、俺は扉を開く。
そうして、扉を開けた瞬間――目の前に現れたのは王女様だった。
「アレン様――!!」
ガバァ――っと両腕で、俺の身体をきつく抱きしめてくる王女様。
豊かな双丘が俺の胸に押し付けられる。
「ディ、ディアナ殿下!?」
や、やわらかい! 女の子の胸ってこんなにもやわらかいの? じゃなくて、なんでこんなところに王女様が!?
「ぐへへへへへ」
俺が理性と現実の戦いをしている間、ぐりぐりと頭をこすりつけてくる王女様。
金糸の髪から良い匂いが漂ってきて、俺の鼻腔をくすぐる。
しかし、その匂いを堪能する前に、
「すぅ、すぅ、スゥ―――、スンスン、すう―――」
という、王女様の緩急の凄まじい呼吸音が俺の思考を吹き飛ばしてきた。
呼吸が浅いし深い! どのタイミングで息を吐きだしているのか、気になる呼吸法をしている王女様は、さながら興奮をした犬のよう。彼女は言っている! 人の呼吸など、呼吸ではないのだと!
……何を言っているんだ、俺は……。
「ディアナ、彼なの?」
鈴が転がったような声が正面から聞こえた。
先ほど俺に許可をだした人とまったく同じ声質だった。
目線を向ける。
王女様をはさみ、正面に見えた女性の姿に、俺は、今度こそ身体が硬直した。
王女様とよく似た容姿をしているより色香を漂わせた女性。
流れるような栗色の長い髪。熟した林檎を思わせる赤い口紅。
少し垂れ目な、目の下にほくろのある優しげな女性。
座っているだけなのに、溢れる気品がはっきりと見て取れる絶世の美女。
その女性の声に、王女様が反応を示す。
「ご紹介します。『お母様』こちらはアレン・オーブリー」
身体を一旦離し、綺麗な姿勢で向き直る彼女は、目の前の女性に礼をとる。
王女様がお母様と呼ぶその人物は――
「将来の私の夫となるお方です」
「……はい?」
この王女様は今、何を言ったんだ?