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第六話 そういうことは本人のいないところでお願いします

今回はちょいと短めです。

 


「――一体なにをしているの? マリー?」


 いよいよ俺の命もここまでかと思ったとき、王女様が現れた。

 王女様は見たことのない、激情に駆られた微笑みを浮かべ、マリーに向かって問う。


「ねえ、マリー? (わたくし)の目には、あなたがアレン様に突き刺そうとしているように見えるのだけれど、これは私の見間違いかしら?」


 それは、矛先を向けられていない俺ですら、逃げ出したくなってしまうほど恐ろしいものだった。

 顔は微笑みそのもの。

 だが、その瞳にはっきりと映る怒りは、今にも彼女を睨み殺さんとしていた。


「あ、あぁ……」


 その怒りを一身に受けたマリーが絶望の表情を浮かべる。

 飛ぶように立ち上がり、よろよろと後ずさっていくマリー。

 細かくふるえる両手から、短剣を地面にカランと落とした彼女は、はっきりと青ざめていた。


「さぁマリー、これはどういうこと訳か説明してくれますか? ()()アレン様をどうするつもりだったのか、詳しく、詳しく聞かせてくれるのですよね?」


「……王女様」


 俺は感極まった声で、彼女の名前を呼んだ。

 おお、ありがとう!

 あなたのおかげで俺の命はたった今、救われました。

 いや、まじで死ぬかと……。


「……っ」


 一方、問い詰められているマリーは言葉が出てこないのか、時折、「うっ……」とうめき声を上げるだけで、口をパクパクさせている。

 それなりに可愛い女子が追い詰められているのは可哀想に思えるが、こいつは俺の命を狙った女だ、甘んじて罰を受けるがいい!

 何はともあれ、これにて俺の任務は終了。

 さらには自分の命を守りきっーー


「マリー? (わたくし)、言いましたよね? 万が一、アレン様が命を落とすようなことがあるとするならば、それは私が()()()()はあり得ませんと」


 ――と、思っていた時期が俺にもありました。


「アレン様が私の物にならないくらいならいっそのこと……。そう、あなたにもお話したことをお忘れですか?」

「い、いえ! 忘れてなど!」


 え!? 何それ初耳なんだけど!?


 俺って王女様の物にならないと殺される運命にあるの!? ということは、現在進行形で婚約破棄を企んでいる俺って、王女様の殺害対象だった!?


 ……あれ、というか、今「にも」って言った? にもってなんだ? 他の人にもこの話してるってことなのか?


 ん?? あれ?? ということは俺が殺されそうになっていることに対してスルーしてる人間がいるってことか?? なんなの? 結局、俺は殺される予定だったの? あまりに理不尽すぎて泣くぞこの野郎!!


「そうですか、では先ほどのことはどういうつもりだったのか、教えてもらっても?」


「あ、あれは……そう! 訓練、訓練でございます! この先、殿下の伴侶となるお方ならば、命の危険がついて回ります。実際に事が起きてからでは遅いので、こうして先に訓練さしあげてあげようと……実力を把握しておきたかったのです! 本当ですよ!」


 ……いや、さすがにそれは苦しいんじゃないの?

 いくらなんでもこんな苦し紛れの言葉に納得するほど、王女様も馬鹿じゃないでしょ。


「は、ハンリョ……! そうですか」


 そして王女様はぽっと頬を染めた。

 まて、なぜ頬を赤くした。


「アレン様と私、本当に伴侶に見えますか?」


 ……え、嘘だろ?


「は、はい! もちろんでございます! 殿下の見た目麗しいお姿はまさに、日の光に照らされた花のように可憐で、そちらのアレン・オーブリーは、今もなんかこう……。……こう……、そこはかとなく、良い感じです!」


 しどろもどろだな! 特に言葉が思い浮かべなかったパターンじゃねーか!


「お似合いでしょうか?」

「とてもお似合いの二人だと思います!」


「――いいでしょう。不問といたします」


 うええええええ! 許された――! うええええええええええええええええええ!?


 あまりにチョロすぎる王女様に、心の中で絶叫する俺。ピンチを切り抜け、ほっと胸を胸を撫でおろしているマリーとは対照的に、俺は軽くパニックである。

 全てを見たいたのにもかかわらず、何が起こったのか理解できないのだ。

 指先をモジモジをいじり、俺をちらっ、ちらっ、と見る王女様。


「キャ!」


 気になって目を合わせると、顔を真っ赤にして照れられた。

 そして、そんな主を見て、再び俺に憎しみの目を飛ばしてくマリーだった。

 いや、ほんとになんで許されてんだよ!


 納得いかない。

 しかしながら、勝手に罰するわけにも行かない。

 彼女は王女様の侍女であり、その立場は決して軽いものではないからだ。

 くそ! これがじれったいってやつか!


「それで、アレン様はどうだったのですか?」


 気づけば二人は、すでに別の話し合いを始めていた。


「はっ! 正面からの奇襲はなかなか難しいかと。こやつ、思っていたよりも反射神経は良いみたいです。もしも仮に殿下が手を下す場合は、死角からがいいでしょう」


「……」


 んーと、話の流れどこいったんだっけ? さっきまでなんで俺を殺そうとしたのかの内容だったのに、最終的に王女様が俺を殺したいって話になってる気が……。


「なるほど。よくわかりました。参考にさせてもらいますわ」


 王女様は懐からメモらしきものを取り出して、熱心にマリーのアドバイスを書き込んでいる様子。

 今の言葉のどこにメモをする必要があるのかなー?


「ディ、ディアナ殿下……?」

「…… 死角だけじゃまだ弱そうですわね。避けられた場合でもかすりさえすれば効果のある毒も塗っておくべきでしょうか? 後でサンプルとしていくつかの草を……」


 とうとう俺の呼びかけも無視する彼女であった。

 ……これってさ、王女様俺の命本気で狙ってない?

 もしもの時に備えて確実に殺そうとしてない?


 え、王女様ってヤバくね?

 万が一でも夫婦になりでもしたら、俺の命は三日ももたないぞ。未来が見える。


「貴重な意見ありがとうございます。マリー」


これは、何がなんでも婚約破棄をしなくてはならないと、そう誓った俺なのであった。


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