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第十五話 国王様からの試練

遅くなりました!

十五話です!

 その時は突然やってきた。

 温かな日差しが入り込む教室内で、講義の片づけをしていると、いきなりディアナが俺の目の前へとやってきた。


 お気に入りの青いドレスを着た彼女は、妙に興奮した面持ちで俺の手をつかみとる。


「アレン様、急で悪いのですが、ちょっと来てもらえますか?」

「え? 急になに」


 ディアナは俺の返答を待たずに無理やりに立たせる。


「裏手の方に馬車を用意しておりますので、そこまで行きましょう」


 そう言って、彼女は細腕に似合わない力で、ぐいぐいと引っ張っていく。

 どれほど急いでいたとしても、その美貌は損なうことはない。

 俺と言う荷物を引っ張っていく姿はさながら決戦の地に赴く騎士のような迫力があり、道行く人々を釘付けにしていく。


 ディアナに見惚れる者たちを流し目でみつつ、置いて行かれないように、それでいて足を踏まないように歩幅を合わせていく。


 時折こちらを振り返る顔は、凛々しく、可愛らしさも同居していた。

 そんな彼女を見た者は、皆、うっとりとした表情を浮かべるのだが、その手の先にいる俺には射貫くような視線とコソコソとした小さな毒が飛んできた。


「はぁ……」


 まあ、こんな生活も日を重ねれば、慣れるというもの。

 気にしないように……、やっぱりちょっと気にしながらも、俺はついていく。いくら王女様の婚約者になっても根は小心者なのだ。


 俺は自らの胃に心の中で声を掛けながら、はははと乾いた笑みを浮かべた。



 *



 一週間ぶりの王城となった午後のこと。


 前は余裕なんてなく、まじまじと見ることのなかった王城だが、改めてよく見てみると、その完成度はとてつもなく高いものだった。


 まず、城門を飾る薔薇の花々。


 花の精霊様によって、季節によって色の変わる薔薇が植えられた門の両端は、ピンク色の花弁を綺麗に開いていた。

 春を感じさせる門をくぐり抜けると、目に入ってくるのは噴水広場。

 馬車の通り道とは別に、庭師の通り道をディアナが教えてくれ、自身も裏庭に、自ら手入れに行く小さな花壇があるのだと嬉しそうに話す。


 種類も植生もまるで違う植物が、ひとつの広場に集まっている。

 本来ならばこの環境で咲くはずのない花も美しく咲くのは、この国を祝福してくれる花の精霊様がいてこそ。

 そう話すディアナだったが、俺は人の力も存分にあると、見ていて思った。


 だが、花のことについて楽しそうに話す彼女の一面に、見直したのは事実。


 花を慈しむその横顔に、思わず「君が一番きれいだ」と言いかけた俺は、慌てて思考を横にずらした。


 また、ここに『表門の小さな花壇』があるかもしれないと、くまなく探してみたはいいが、そのような場所は残念ながら見つからなかった。


 そして、前回と同じ、豪華な装飾の扉の前に立たされる。


 前と違うのは、隣には緊張した様子の王女様と、その背後にピリッとした雰囲気で付き従うマリーがいるこということ。

 圧力の凄い扉からは、不思議なほど音がなく、俺もごくりと唾を飲み込んでしまう。


「どうぞお入りください」


 執事服を着た壮年の紳士が、扉を開き、中に入るように勧める。


「アレン様、行きましょうか」


 そして、俺の右腕をとり、腕を絡ませながらディアナが歩き出す。



 最初に目についたのは、王座にどっかりと座っている人物だった。

 かきあげた金髪に整えた顎ひげ。


 花の絵が描かれた白色のローブを身につけ、脇に剣を立て掛けた人物。鋭い目つきを浮かべ、むっつりとした表情で座っている壮年の男に、俺は嫌な予感がした。


 支配者の如雰囲気を持つ男性。


 ただ、そこに座っているだけで圧力を感じる人は、昔、遠くから見たことのある人だった。


 黄金の指輪を右手つけ、手すりに肘をつけた彼の名は――

 ルイ・ペルティエ・フローレンス。

 この国の王様だった。



 *



 嫌な予感が的中した俺は、内心で悲鳴をあげていた。


 ひやああああああ! なんかめっちゃ睨まれてる! 

 血走った眼で、すごい殺気を感じるんだけど!? 王女様と組んでる右腕をすごい見てるんだけど! え、後でその立て掛けた剣で切られたりとかしないよね? 大丈夫だよね!?



「アレンとか言ったか、そこの者」

「は、はい!」


 自己紹介無しの名前呼びに、思わず声が裏返ってしまう。

 とにかくピンと背筋を伸ばす俺に、王女様が落ち着かせようとしているのか、俺の腕をぐっと密着させてくる。


 いや、やわらかいな。


 おっぱいの柔らかさのドキドキに、緊張によるドキドキが合わさり、俺の心臓はバックンバックンとはち切れんばかりだ。

 そして何より、


「よし、殺す」


 国王様、殺意しか感じねええええぇ!


「お待ちくださいお父様」


 お……王女様――!

 剣を手に取ろうとする国王様を、手で静止させるディアナ。

 その彼女の責めるような目線を受けて、父親は――


「どうしたんだい、ディアちゃん。そんなに可愛らしい顔をして、あ、お菓子食べる?」


 脳がとろけるような声を出して、ディアナに話しかけてきた。 


「!? ……え? は?」


 俺の疑問が爆発した。

 先ほどの睨み殺さんとした態度からの急な落差に、腰を崩さなかっただけでも褒めてほしい。


 まるで猫を可愛がるような甘ったるい声を出した国王様に俺は、なぜだが寒気を覚える。


 そして、それは王女様も同じだったみたいで、珍しく顔をしかめていた。


「冗談はよしてくださいお父様。ここには未来の私の夫もいるのです」

「ふむ、儂はそんな小僧のことなど認めた覚えはないんだがな? おい、そこの……」


 王様はそう言って、俺を指さしてくる。


「貴様、あの手紙を読んでなおここに来たということは、覚悟は出来ているんだろうな?」

「手紙……?」


 俺は、そう言われて、一週間ほど前に貰った王家の手紙のことを思い出す。


「あ、あ――」


 そう言えば、国王様から手紙を貰っていた。

 手紙の存在をすっかり忘れていた俺は、まるで他人事のように、現状を理解した。


 通りで殺意しか感じないわけだ。

 そんな俺を見て、ほう? と目を細める国王様。図るかのような目線を俺に浴びせると、しばらくそのまま黙ってしまった。


(どうしよう。忘れていたなんて口が裂けても言えない……)


 急に静かになる国王様に、隣にいる王妃様も、俺の隣にいる王女様もなにも言わない。

 俺もまた、観察されていることを理解しつつ、ただ突っ立っている。


(……早く帰りたい)


 切実にそう思った。

 気まずい空気をどうにかこうにか耐えたところで、国王様が口を開く。

 その第一声は――


「やっぱり、気に入らん」

「――っ、お父様!」


 父親の言葉に反論を口にするディアナ。

 しかし、彼女の父はまあ待てと、手で制すると、俺に向かってこう言った。


「小僧、儂の目には、貴様がどうしても王族たり得る存在だとは思えない。ディアナを貰いたくば、まずは有能性を見せてみよ。無論ひとりでな。そして、その結果次第では、儂はお前たちの仲を引き裂かねばならない。なぜなら、無能を入れてやるほどこの国は、暇ではないからだ」


 国王様は威厳のある言葉でそう俺に告げる。



 彼は言っているのだ――!


「おまえは、王女様に相応しい男なのか?」と。


 俺の身体に雷が走った。なぜなら、国王様は『こうも』言っているのだ。




『婚約破棄したいなら、どんどん駄目な振りをしてくれたらいいよ。そしたら儂が()()()()()()()()』と。



 これは……とんでもないチャンスが舞い込んできた!


 俺は、全身から湧き上がってくる活力に、やるしかないと覚悟を決める。俺はある意味の恩人にきりっと目を向けると宣言する。



「必ずや、ご期待に応えて見せます」


 国王様と王女様は驚いた表情を見せ、王妃様は微笑みを浮かべた。


(任せてください! 国王様!)

 深々と礼をとり、顔を上げた俺は、国王様に一つ問うた。



「それで、私は一体なにを行えばよろしいのでしょうか?」


 さあ、なんでも言ってくれ! 全てを台無しにしてみせよう!!


「では、アレン・オーブリーに課す。この王城に一ヶ月住み、この城にいる使用人全員に認められること。そして、使用人たちと共に働き、この城をより良い空間にすること。これが貴様に課す試練だ」


「かしこまりました!」


 こうして、俺にビッグチャンスが訪れた。


 任せて下さい国王様! 必ずやあなた様の期待に応えてみせます!


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