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第十四話 ヒント

 調査しようにもなかなかうまくいかない日が続いていた。

 俺はこれまでの反省点を活かし、あからさまに不自然な行動をとらないように注意していた。

 というのも、王女様を尾行するように動いた結果、あの変態護衛マリーにことごとく邪魔をされたのだ。

 そのたびにマリーは勝ち誇った顔をして、


「人間、誰にでも失敗はある。そんなに落ち込む必要はないぞ! ファハハハ!」


 と言ってきたので正直腹がたった。

 完全に共通テストの仕返しともいえる所業に、思わず「変態マッチョ女め!」と言い返したのは当然だと言える。まあ、切れられたが。

 また、王女様もこちらに気づくことが意外と多かった。

 やはり王族は、他人からの視線を気にする質なのか、これでは調査にならないと判断した俺は、試行錯誤を重ね、待ち伏せに切り替えることに。

 学園の中心にある中央広場や、よく見かけるという蔵書塔の一室。生徒塔の前にある庭園や食堂などに張り込みし、じっと彼女たちが来るのを待っていたが……。

 結果は惨敗だった。

 いや、予想していたルートをことごとく外し、逆に待ち伏せを仕掛けられたこともあったので完敗とも言える。


「はぁ……」


 生徒塔の中を歩きながら、疲れを表に出していると、ふと他の生徒の会話が聞こえてくる。


「凄いよなぁ、問題が起きた領地に自ら乗り込んで、それを解決してくるんだぜ」

「ああ、不正を働いた貴族は没落、それでいて、有能だった人材はしっかりと引き抜いてくるんだから、あの方以上に国王に向いている方はいないよ」

「だな、風潮に惑わされることなく、自らの目で確かめてくれるのは、俺たちのように爵位の低い家にとっても有難い」


 ――問題が解決したならば、もうそろそろ国王様も王都に帰ってくるだろう。


 最後にそう締めくくった彼らは、そのままどこかへと行ってしまった。

 俺は何故か、その話題が引っ掛かっていた。

 これも王女様と色々合ったせいだろうか、何か大事なことを忘れている気がする。


「まあ、今は考えても仕方ないか」


 その時が来たら、いずれ会う日があるだろう。

 それに、聡明な国王様のことだ、もしかすると俺が娘さんと結婚したくないということを察して、助け舟を出してくれるかも知れない。

 そう思うと、ちょっと気持ちが楽になった。


「よし、今日こそ成功させるぞ」

「――なにを頑張るんだい?」

「うわ、って……なんだシェルか」


 突然死角から声を掛けられ、俺は軽く身体をひく。


「そのそっけない態度。嬉しいなぁ!」

「いや、なんで喜んでいるんだよ」


 性格をこじらせ、喜ぶ変態王子であった。

 いや正確には次期侯爵で王子ではないのだが……というか今思いついたけど、こいつが王女様と結婚すればいいのに。

 思えばいつかの日、仲良く会話をしていたし付き合いもそれなりにあるみたいだった。

 美男美女で、家格的にもまったく問題もない。

 むしろ、なぜシェルではなく俺なのか? 家柄を考えれば……いや、なじられて喜ぶのはどうなんだろうか? 次期国王が()()というのはちょっと……。

 俺を選んだのは、案外まともな気がしてきた。


「なんだか言われのない被害を受けている気がするよ」

「そう思うなら自分の胸に聞いてみろ」

「うーん、なんだろうねぇ」


 途中でくふふと笑いが漏れているあたり、絶対に違うことを考えていた。


「そんなことより、ディアナちゃんとはどうなのさ、未来の旦那様?」

「ばっ……! おまえ、こんな公衆の面前で」


 人の多い廊下でそんな話をする馬鹿がいるか!

 俺は、慌ててシェルを注意する。しかし、シェルは朗らかに笑うだけで、余裕だ。


「ああ、そっか、アレンは知らないんだったね」

「知らないってなんのことだ?」


 そして、シェルは何でもないような口調で爆弾を落とす。


「貴族科のクラスの間では既に噂になってるよ? アレンがディアナちゃんの正当な『婚約者』になったって」

「……ごめん、俺の耳、腐ったかも。もう一回」

「あ、ちなみに僕はそんなアレンのライバルにして、敗北した可哀想な元婚約者候補ってことになってるよ」

「より特大のネタを落としてきやがった!」


 うっそだろ、俺は盛大にシェルを疑う。


「残念なことに現実だよ」

「……は? じゃあなに? 俺が護衛していた時、睨み殺されるほどの視線を浴びたのは?」

「いや、その時はまだ噂は立っていなかったから、別だね」

「それじゃあ、噂が立ったこれからは?」

「……」

「おい、目を逸らすな。こっちを見ろ」


 正直、ディアナに近づいただけで、殺されそうになったぐらいだ。それが、婚約者になったと噂が広がったらどうなることか。

 控えめにいって、汗が止まらない。

 シェルは申し訳なさそうに頬をかく。


「ごめんね。実際のところ、僕も、婚約者候補の一人だったから強く否定できなくてね」

「……ちょっと待て、お前さっきの話はマジだったのか?」

「聞きたいかい?」

「……もったいぶるな」


 面白がって聞いてくるシェルにそっぽを向く。

 聞きたいけど聞きにくい、プライベートな部分に踏み込むのが気まずい俺の気持ちを察したのか、シェルが歩きながら言った。


「そう『だった』のさ。まあ、お互い乗り気じゃないのは明らかだったけどね。親同士が仲いいからって理由で、小さい頃とかは遊びって名目で、いろいろとセッティングされたけど、全く盛り上がらなかったしね」

「……それはちょっと意外だな。てっきり、仲がいいのかと思ってた」

「なに? 興味あるの?」


 そう言って、からかうような視線を向けてくるシェル。

 俺はその視線から逃れるようにして、正面を向くと、ぽつりと言った。


「まぁ、ないと言えば嘘になるけど」

「へぇ、今日のアレンは珍しいくらいに素直だね」

「ほっとけ」


 くすくすと笑うシェル。

 俺は、そんな様子を見ながらも、シェルの子どもっぽい言動の数々は、もしかすると抑圧された生活への反発なのかもしれないと思った。

 乗り気じゃない、やりたくないことでもやらされる。そういった家に生まれたというのもありそうだが、人の気持ちは複雑だ。

 とはいえ、そこに踏み込むつもりはない。誰にだって過去はあるし、話したくないこともあるだろうから。

 シェルが話しを続ける。


「そうだね、僕らが仲良くなれたのは……そう、ちょうど六の歳になる頃だったかな。初恋を知ったディアナちゃんが、僕に恋愛相談をしてくるようになってね。それからは仲良しかな?」

「なにそれ詳しく!」

「あはは! いい食いつきっぷりだね」


 シェルのいじりにも反応を示さず、じっと返事を待つ。

 シェルはそんな俺を横目に、「どこまで話そうかな~」と口元に手を寄せて、楽しそうにしている。


「じゃあヒントを教えよう――『表門の小さな花壇』」

「表門? ……おい、なんだそれは? 俺は王女様の初恋の相手について聞いたんだぞ?」

「さあ? なんでだろうね?」


 ひらひらとはぐらかすシェル。


『表門の小さな花壇』って……。

 表門――正門のことだよな?

 場所を示しているってことでいいのだろうか? 仮に場所を示しているとして、正門の前にある小さな花壇なんてまずもって俺は聞いたことも見たこともない。


 つまり、初恋の相手は俺ではないということになるのだろうか? そのうえで、その場所を知っている人物が、王女様の本当の初恋相手ということになると見ていい、のかな?


「分からなすぎて……むしろ混乱してきたんだけど……」

「ふふ、まあ、あんまり深く考えるとドツボにハマるよ?」

「おい、シェル、これは本当にヒントなのか?」

「さあね」

「さあねってお前……おい、話しはまだ終わってないぞ!」


 しかし、もう取り合うつもりがないのか、今度こそシェルは何も言わず、俺の前を歩いて行った。

 あの後、何度たずねても教えてくれないことから、俺は諦めもんもんとした思いを抱えることになる。

 現時点ではなにも分からずじまい。だが、王女様の初恋の相手という重要なキーワードが出てきたことは、確実に進展だ。その初恋の相手を見つけ、王女様の元に届けたら、もしかすると俺は自由になれるかもしれない。

 優先順位の上位に置いて、まずは情報を集めるようにしよう。

 そうして、区切りをつけ、シェルとたわいもない会話をする。


 王女様の初恋相手のことついて、さりげなく聞こうとするのは、もちろんした。

 こういうのは諦めないことが肝心だと俺は思うのである。

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