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第十一話 そうだ、王女様を調査しよう! その一

※今回はアレンの「ふええええ!」や「ぎゃあああ!」いった言葉は聞こえてきません。

 王城に呼び出された後のこと。

 自分の部屋にて、ひとり椅子に座る俺は……。


「はぁ~~~~~~~~~~~」


 深すぎるため息をはいていた。

 王妃様からの手紙を受け、歴代最高記録で王都まで走破してきた両親によって、謎の胴上げをされ、鼻息の荒いまま、「よくやった!」「おまえは誇りだ!」「素晴らしい!」などと褒め称えられた俺は、心底疲労していた。


 古くから国に仕えているオーブリー家。


 祖父の頃に鉱山が枯れ、落ちぶれていた家だったが、歴史だけは四百年以上とこの国のかなりの古参である。

 そんな歴史はあれど、ぱっとしないオーブリー家に突如として湧いて出た王女様との婚約話。


 最上を超えた、もはや花の精霊様からの祝福ともいえる出来事に両親は大喜び。

 事情を説明して、婚約を無かったことにしてもらおうと考えていた俺の言葉は、一切取り合われることなく聞き流された。



 十時間にも及ぶ説得の末、終盤に入れられたリラックス効果のあるハーブティーを飲み、うとうとし始めたのが俺の敗因だった。

 そのわずかな隙をつき、俺の拇印を奪いとり、


 ーーしまった!?


 と思ったときには、既に遅し。


 王城に向かうために馬に飛び乗った母と、まるで最初から示し合わせていたかのように、父親の壁。と、使用人がわらわらと登場し、周囲を固めた。


 一か八か、布陣の隙間を狙って飛び込んでみたが……。


『危うく取り逃がしてしまうところだった……』


 勝敗を決定づけた父の言葉だった。


 こうして、()強制的に両家の確認が取れたことにより、婚約がいよいよ現実味を増してしまった。

 今はまだ大体的に報道されていないため、普通の学園生活を送れているが、内心ではいつどこで情報が漏れるのか怖いったらありゃしない。

 バレたら最後、俺の平穏は完全に潰えることだろう。


「……なんでこんなことになった……」


 思えばモテようなんてことを考えたから、こうなってしまったのだろうか?

 モテたいと思わなければ、勉強を頑張ることもなかったし、あの生誕祭までは何事もなく平和だったというのに……。

 ここ最近、いろんな事が重なり過ぎて、完全にキャパオーバであった。


 何かを考えることすら嫌になってきて、空を眺めることが唯一の癒やしになっていることが自分でもまずいと思う。

 ちゅんちゅんと鳴く鳥の声を聞きながら、空を泳ぐ雲になりたいと願ってしまう俺は、きっと心が病んでいるに違いない。

 やはり、早急に現状を変える必要があるようだ。


(婚約破棄がしたい……)


 心の中でそう呟く。

 今から王妃様の元に行き、この胸の内をぶちまけることができたらどれほど楽か……。


 しかし、現実はそんなに甘くない。


 大した理由もなく婚約破棄をすることはもちろん無理だ。


 さらに言えば破棄した場合、王女様は貴族社会では傷物として扱われることになる。これはなにも身体の話ではない。

 子爵家とはいえ、家同士が認めた婚約を破棄するということは、どちらかに何かしらの問題点を含んでいると周囲に発表することになる。

 ましてや相手は王家だ。


 その王家が認めたにもかかわらず、婚約破棄を行うということは双方にとって大きな傷になりかねないのが現実だ。


 そして、その傷を入れる原因となったオーブリー家は、家臣、ひいてはその領地に住む民たちからも避難を浴びることになる。

 人の世界は無情だ。


 一度嫌われていると判断されれば、人は近付こうとはしないのだ。

 それが王家の、それも国の宝と名高い王女様を振ったとなれば、一体どうなることか――


「そうなったら最後、『一家断絶家』になるな」


 俺はそうひとり呟いた。

 オーブリー家は古くから国に仕える家だ。王家に忠誠を誓い、これまで幾度となく訪れた危機にも必ず王家の味方をしてきた一族なのだ。


 それを「嫌だから」という理由で断ったと知られたら、


『一族もろとも皆殺し』

 ――なんてことに、ごく当たり前になる。


 それだけは必ず避けなければならない。俺の我儘に家族や親戚を巻き込むのだけは、絶対に阻止しなくてはならない。


 しかし、このまま結婚までしたいかと言われると、それもまた、嫌なのであった。


 ……病弱でも装うか? いや、これまで健康そのものだった俺が突然そんなことを言い出したら医者監修の元、精密な観察が行われて絶対にバレる。却下だ。


 果たして俺は、どうするべきなのだろうか。


 そのとき、俺の中にとある一つの光景が蘇った。


 あの蔵書塔での一幕、偶然開いてしまったもう一つの部屋と王女様の姿。


「まてよ? 俺のことをつけ回していたなら、あの日ももしかして俺のことを見ていたのではないか?」


 そうなると王女様はあの時、俺が見ていることを知った上で『あえて』ああいう態度を取ったということになる。


 すると、なぜそのようなことをしたのか? その姿さえ見せなければ、俺もこの婚約に喜んで賛成したというのに、見せるメリットがまるでない。


 これはあくまでも可能性の話だ。

 だが、どうしてなかなか馬鹿にできない可能性がある。


「もしかして、王女様は、誰とも婚約したくない?」


 そうだ、考えれば考えるほどに、違和感しかない。


 ……もう一度、この目で王女様のことを判断するべきなのではないか? 今度はこの偏見のない目で。


「決めた!!」


 俺は勢いよく立ち上がるとこぶしをガッと握りしめた。


「王女様を調査しよう!」


 そうと決まれば、明日からの行動も自ずと決まってくる。

 俺は気合を新たに、行動に移すのであった。


 ひとまずは、ストーカーでもしてみようかな?


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