2話 お風呂は一緒に
読んでくださると幸いです
リビングで驚きの邂逅があった後、とりあえず部屋で荷ほどき等をすることになった。ちなみにこの家は新居ではなく元々白石家が住んでいた家だ。部屋訳は【灯・暁】、【母さん・義父さん】、【真莉愛】のようになっている。亜理紗さんは入口の方にある和室をしばらくの間使うようだ。
部屋は昔亜理紗さんが使っていた部屋を灯と一緒に使わせてもらうことになった。実はもう一つ部屋はあったのだが僕と灯の要望で同じ部屋にしてもらったのだ。そもそもアパート暮らしの時には個室というものがなかったため自分だけの部屋というのが落ち着かない。そのうち一人の部屋が欲しくなったら僕か灯のどちらかが移動することになっている。
(とりあえず部屋に入って落ち着けたけど...やっぱり兄さん呼びが慣れなさすぎる)
あの後部屋まで白石さんに案内してもらったけど、事あるごとに「兄さん」と呼んでくるのだ。再度呼び方について問おうとしてもとても可愛らしい笑顔で「兄さん」と言うだけだった。笑顔はあり得ないほどかわいかったがそれが問題ではない。なんとか呼び方については変えさせたいが...。
「おにーちゃん」
「ん?どうしたんだ灯」
「まりあおねーちゃん、かわいかったね」
「あ、ああうん。綺麗だよな」
「うん」
灯はそれだけ言い終わるとベッドにダイブした、どうやら話は終わりらしかった。なるほど、何が言いたいのかわからなかった。しかも亜理紗さんではなく白石さんを名指しで言うあたりなにか含みがありそうではあるが。
「べっどふかふか、ゆめみたい...」
「そうだなあ、まさかベッドがあるなんてな」
灯がベッドで幸せそうに顔をほころばせながら呟く。今まで片親だったこともあって決して裕福と言える環境でもなかったためアパート時代は家族三人川の字で寝ていた。川の字も悪くなかったがやっぱりベッドへの憧れは強い。ちなみにベッドは余っていたのがあったため灯とは別のベッドだ。まあ一応お年頃だしね。それを言うなら同じ部屋の時点でどうなんだという話は無視する。
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荷物は衣類が主だったのでそんなに時間はかからなかったため灯と一緒に夕飯の時間のため下に降りることに。今日は引っ越して初日のため白石さんが夕飯が作ってくれることのことだ。新しい家で慣れていない僕たちに気を遣って作ってくれたらしいのだが、まさかこんな形で白石さんの手料理が食べられることになるとは...。
リビングに着くと既に母さんと義父さんが既に席について仲良く談笑していた。
「兄さん、灯ちゃん、夕飯の準備はできてるので席についててくださいね。私は姉さんを呼んでくるので」
「白石さんありがとう、何か手伝えることってあるかな?」
「いえ、もう全部終わっているので大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます兄さん」
白石さんはニコッと微笑むと亜理紗さんを呼びにリビングを出て行った。なにか手伝いをしたかったがもう必要ないらしい。
白石さんが亜理紗さんを呼びに行くとのことなのでお言葉に甘えて席に着くと、テーブルにとても美味しいオムライスが用意されてあった。お店で出されているような綺麗に卵に包まれているものがあった。僕も昔から料理はしていたので、見た目だけでもそんなに簡単な作業ではないのは想像に難くなかった。横で灯も目をキラキラさせながら見つめている。
「あら~、真莉愛ちゃんのオムライス久しぶりね~。楽しみ~」
オムライスに目を奪われているといつの間にか亜理紗さんが僕の傍に来ていた。
「わ!?亜理紗さん!?!?」
「ん~?どうしたの~?」
「いや、その、少し距離が近くてびっくりしちゃって...」
「あははは!びっくりさせちゃってごめんね~」
ほぼゼロ距離に亜理紗さんが来ていたため亜理紗さんから漂う大人の色香を間近で受けたため頭がくらくらしそうだった。なんかすごいいい匂いはするし少し身体が触れてドギマギしてしまう。
「あんまり時間がなかったので少し手抜きですが、どうぞ召し上がってください」
これで手抜きだと...。料理スキルが非常に高くいらっしゃる。
「じゃあいただきましょうか」
みんなで「いただきます」をして早速オムライスを口に運ぶ。口に入れた瞬間卵のふわとろっとした食感が口の中に広がりオーソドックスではあるが、しっかりと美味しいチキンライスと相まって極上の美味しさとなっていた。
「ん~~~美味しい~~~!!真莉愛ちゃんとってもお料理上手なのね」
「ふわ、とろ!してておいしい!」
「全然手抜きのレベルじゃないよねこれ、ほんとにすごく美味しいよ白石さん」
「ふふ、ありがとうございます。とても嬉しいです」
白石さんの手料理を初めて食べる源家の面々が口々に白石さんの手料理を褒めていく。珍しく灯もテンション高めだ。白石さんは嬉しそうに顔をほころばせて花のような笑顔を咲かせる。ほんとに美味しいのでみんな手が止まることなくすぐに食べ終わってしまった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「あ、皿洗いぐらいなら僕がやるよ」
そう言うと白石さんはすぐに全員分の食器を片付けようとしていたため、流石に申し訳なく思い手伝いを申し出た。
「いえ、兄さんはゆっくりしていただいて大丈夫ですよ。まだ不慣れな家でしょうし」
「いやいや、流石に何から何までやってもらうのは申し訳ないよ」
「そんなに気にしないでください。もう家族になるんですから」
家族。確かに今こうして親同士が再婚したため家族であるのだが、高嶺の花の白石さんが相手ということもあって家族という意識が薄れてたのかもしれない。今の白石さんの言葉でハッとさせられた気がした。
「それなら一緒にお片付けしたらいいんじゃな~い?」
亜理紗さんが微笑ましいものを見る眼差しでそう提案する。確かにそれなら二人にとってもいい落としどころになるし、なんとなく家族っぽい気がする。分からないけど。
「まあそれなら...」
「むぅ、まあそれなら」
なぜか白石さんが不服そうな顔をしていたが結局二人と洗い物をすることになった。
洗い物をしてる最中、白石さんに目を向けると先程までは不服そうな表情をしていたが、今は一転嬉しそうな表情をしている。
「白石さん、嬉しそうだけど何かあった?」
「え?いえ、何でもないですよ」
白石さんは一瞬きょとんとした後、また嬉しそうな表情をして洗い物を再開した。むぅ、どういうことなのかよくわからない。こういうところも、これから先家族として暮らすうちに分かるようになるのだろうか。
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「暁おっはよーっす。昨日はどうだったんだ?」
色々起きた日の翌日、いつも通りに登校し席で突っ伏していたところ、同じく登校してきた翔吾に僕のもとにやってきた。
「ああ、おはよ翔吾。あー...昨日の話ね」
「ん?どうしたんだ、そんな言いづらそうな雰囲気は」
なにせ再婚した家族が『煌上四天王』の一人の白石さんだったのだ。こんなクラスのみんながいる中で「白石さんと家族になった」などと言ってしまえば大混乱になることは間違いない。
「翔吾、気になるのは分かるけどその話は放課後帰りながらでも大丈夫か?」
「?まあいいけどよ」
翔吾は怪訝そうな顔をしながらもなんとか了承してくれた。さて、どう話そうか...。いやまあ全部話すのは話すけど。
「はあ!?白石さんと家族になったぁ!??!?」
「まあ、平たく言うとそいうことになるかなぁ」
放課後、翔吾と一緒に帰る道中、地元の公園のベンチに二人で座り昨日の顛末を話していた。
「いや、それってどんな偶然だよ。ここはリアルだぞ?」
「僕もそう思ってたんだけどなぁ」
翔吾が信じられないといった顔をし僕は乾いた笑いを浮かべる。ほんとにどういうことなのか。
「しかも美人のお姉さんもいるなんて...。お前どんな幸運持ってるんだよ」
「幸運なのかなんなのかよく分からないけどなぁ」
無論嫌なわけではないのだが、自分でも未だに家族になったという実感が湧かないのだ。勿論月日が経てば慣れるとは思うし、昨日家族になる、と亜理紗さんに言われて少しは実感できた気はしたのだが、今はまだ慣れない。同居が始まってまだ一日しか経っていないのだから仕方ないとさせてほしい。
「なんていうか、頭がパンクしてそうだな」
「ほんとにね」
翔吾がすごいものを見る眼差しを送ってくる。
「まあ、色々大変そうだけどなにかあったらまた話せよな」
「うん、そうしてもらえると助かる」
僕自身こうやって話すことで少し楽になったような気もする。家に帰ったら白石さんがいるという慣れない状況だが、時間が解決してくれることを信じて生活するしかない。
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そんな感じで翔吾と別れ帰宅して今に至る。なぜお風呂に一緒に入ろうとするのかとかほんとにずっと兄さん呼びなのかとか言いたいことが山ほどあるが、言いたいことが多すぎて疲れてなにも言えなくなりそうだ。
「むぅ、どうして兄さんはそんなに頑ななのですか?私は不服です」
少しほっぺたを膨らませて「私不服です」という感情を余すことなく表現している。
「いやぁ、頑なというか何というか。気恥ずかしさが抜けないんだよ。逆になんで白石さんはそんなに平然としていられるの?」
「??だって兄妹ですもん。同級生とかそれ以前に兄妹ですし。恥ずかしがる理由なくないですか?」
........。つまり、同級生として認識する前に家族、兄妹として認識していたから問題ないと。確かに白石さんに関しては僕が一方的に知っていたので、ただ同級生と家族になっただけ。それだけなのだろう。いや、それにしても...。
「兄妹と言ってもお風呂を一緒は流石にないんじゃないかなぁ...って」
「え...?兄妹って一緒にお風呂に入るものなんじゃないですか?」
「え?」
「え?」
え?もしかしてこれ本気で言ってる?白石さんの顔は真面目そのものでふざけてる様子は見えない。ほんとに兄妹は一緒にお風呂入るものだと思っている?そんなまさか。
「いや...兄妹は普通一緒には入らないと思うよ...。入るにしても小学校低学年までじゃないかな...」
「え...?そうなんですか?私、姉さんとずっと一緒に入ってましたよ?」
「それはかなり変わってるし、同性と異性でそのあたりは変わりそうだけどね」
「そんな...」
白石さんはショックを受けたように崩れ落ちる。まじか...。
「まあいいです。後でお風呂一緒に入りましょう」
「話聞いてた!?!?」
「はい、開き直りました。一緒に入りましょう」
「立ち直るの早すぎでしょ!」
「私と一緒に入るの、嫌ですか?」
「っ!」
僕より少し背の低い白石さんが自然と上目遣いになって問いかけてくる。白石さんと一緒にお風呂。そんな夢みたいな体験、嫌がる男がいるはずがない。
「いやいやダメだって!とりあえずお風呂は別!これは決定で!」
白石さんとお風呂だなんて夢のようだが流石にダメだ、絶対によくない。
「むーーーーー。じゃあ、お風呂は諦めます。その代わりにお願いを一つ聞いてくれませんか?」
「...内容によるけどとりあえず聞かせてもらっていい?」
「白石さん、ではなく真莉愛、と呼んでください。そもそも戸籍上は兄さんも白石になるんですから」
「...まあそれは確かに」
確かにこれは白石さんの言うことに一理ある。実はまだ籍は入れていないが今後婚姻届を母さんたちが出す予定になってるので、白石暁となるのだ。白石さんと呼ぶのは流石に不自然だろう。
「せめて真莉愛さんじゃダメかな?」
「ダメです、ここは絶対に譲りません。私もお風呂を諦めたので兄さんも譲歩してください」
うーむ。やっぱりダメらしい。お風呂の時は譲ってくれそうな気配があったけど今回は譲ってくれそうな雰囲気はない。呼び捨ては恥ずかしいけど流石に仕方ないか。
「分かったよ、真莉愛。これでいい?」
「はい!最高です!」
白石さん...もとい真莉愛が満面の笑みを浮かべる。学園一の美少女と言われるだけあってその笑顔の破壊力は凄まじい。その笑顔は反則だ...。
その後大人しく席に着いて待ってた灯が「おなかすいた」と声をかけてきたので真莉愛の特製カレーをいただくことになった。
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そして翌日、事件は起こった。
「兄さん、一緒にお昼ご飯食べましょう♪」
上機嫌な真莉愛が僕のクラスに来てそんなことを言ったため、クラスに激震が走ったのは言うまでもない。
読んでいただきありがとうございます
兄さん、兄様、お兄様、お兄ちゃん。色んな呼び方があっていいですよね
みなさんは妹がいたらどう呼ばれたいですか?
ちなみに作者は兄様と兄さんが好きです。
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