1話 始まりの再婚
読んでいただけると幸いです
「兄さん、お帰りなさい。今日も学校お疲れ様でした。ご飯食べますか?お風呂入りますか?お風呂なら私も一緒に入りましょうか?」
「いや、お風呂は別々で入ろうよ…。もう七時過ぎてるしご飯にしようか」
「はい!今日はお母さんもお父さんもいないので私が作った特製カレーですよ」
そうやってふふっと微笑むのは白石真莉愛。僕の妹だ。この会話の一幕だけを見れば、僕達はただの兄妹として見られるだろう。だが…………
「ねえ白石さん」
「兄さん、私は妹なのですからどうぞ真莉愛、と」
「僕達、昨日家族になったんだよ?順応力高過ぎない?それに兄さんって……同じ学校の同級生じゃないか…」
「でも私の方が誕生日は遅いですし兄さんと呼んでも何も問題はないですよ?」
「いや、そりゃあそうだけどさぁ…」
そう、僕達は昨日家族になったばかりなのだ。この白石真莉愛という女の子は正しく言うと義妹だ。そしてこの白石真莉愛という女の子は、僕が通う学校で一番の美少女と謳われている子だ。なぜ急にこのようなことになったのかはつい一日前に遡る。いや、まあ単純な話ではあるんだけどね…。
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「なあ暁よぉ。誰か女子を紹介してはくれんかね?」
「いきなり何だよ。僕に女子の知り合いが少ないの知ってるだろ?」
時間は昼休み。いつものように机を合わせ、腐れ縁の山野翔吾と僕、源暁は購買で買ったパンを食べていた。
「いやさあ、さっき廊下で『煌上四天王』の白石さんとすれ違ったんだよ。それでさぁ、俺もあんな可愛い彼女が欲しいなって思ってなー」
「それもう何回も聞いた。もういい」
「ちぇっ、毎度毎度つれねーなぁ」
『煌上四天王』とは、僕達の学校が誇る四大美少女の総称だ。勿論僕も見たことはある。元気な娘、凛としたイケメンな娘、物静かな娘、そしてさっき翔吾がすれ違った白石真莉愛。白石さんは見た者の目を釘付けにしてしまう程のお嬢様風の美少女だ。勿論僕もその一人ではある。
まあでも、あの四人と付き合いたいって思ってる人ってなかなかいないんじゃないかな?高嶺の花過ぎて自分じゃ釣り合わないって思うのが普通だし。
「そういや今日だっけ?恵さんの再婚相手の家族と会うの」
「うん、今日の放課後にね。もう引っ越しの準備も済ませてあるらしくて今日会ってそのまま同居になるんだとさ。いつの間にか話が進んでて昨日は荷造りで大変だったよ...。」
「おお…何か怒涛の一日だな」
「いやほんとに大変だよ」
母さんが再婚したいと言ってきたのは一週間前。僕が三歳の頃に父さんを病気で亡くして十三年。やっと再婚したい相手が見つかったらしい。正直僕からしたら早く再婚して楽させてあげたかったので嬉しかった。女手一つで僕と妹を育てるのは辛かっただろうし負担が減るならウェルカムだ。それに再婚相手の家族には会ったことないが再婚相手の男、僕のお義父さんになる人とは会ったことがある。とてもいい相手だと思った。常に気配りが出来て相手のことを思いやれる人だ。あの人なら大丈夫だろう。あと娘が二人いるって言ってたから僕に妹か姉、もしくは両方が出来ることになる。僕が心配しているのはそこだけだ。今までは妹と二人だったわけだけど急に四人兄弟の中になって尚且つ男一人だし。まあそこは会ってみてからじゃないと分からないから仕方ないけどさ。
「今度その兄妹になる女の子紹介してくれよな!」
「翔吾はぶれないなぁ…」
まだ会ったことない人を紹介しろと言われてもなあ。可愛いかどうかも決まってないのにな。まあ別に可愛さはどうでもいいけど。家族になるわけだし。
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いつも通りに授業をこなして夕日が姿を見せ始めた頃、僕は母さんと合流するため翔吾と一緒に最寄りの駅に向かっていた。翔吾とは小さい頃からの付き合いで母さんとも顔見知りだから挨拶をしておきたいらしい。翔吾曰く「優しいもう1人の母さん」らしい。実際、翔吾とは幼稚園時代からの付き合いで家族ぐるみの付き合いをしていた。母さんの仕事が忙しいときは翔吾の家に妹と二人でお世話になることも多かったしその逆も然り。妹は「翔吾お兄ちゃん」などと呼んでいるし翔吾も本当の妹のように扱っている。ちなみにわざわざ「優しいお母さん」と称するように翔吾のお母さんは少し気難しい性格をしていて、僕たち兄妹にはすごい優しいのだけれど翔吾に対しては少し厳しい面がある。まあよその子と自分の子では扱いに差が出るのは当たり前ではあるけど。僕にとっても翔吾のお母さんはもう一人のお母さんと言っても過言ではない。
閑話休題。
「お、あそこにいるの恵さんじゃないか?」
「あ、ほんとだ母さんだ」
最寄りの駅付近の人気のケーキ屋に母さん、源恵美がスマホを片手に並んでいた。栗色の髪をストレートに伸ばし、不健康かと見紛う程の白い肌。一見病弱そうな感じがするがどこか"できる"雰囲気を漂わせている。身内贔屓を抜きにしてもこの年齢の女性の美しさではないと思う。
「あら?暁と翔吾くんじゃない。学校終わるの早かったのね」
「翔吾が少し母さんに挨拶しときたいって言ったから少し早めに来たんだ」
「恵さんどもっす」
「一週間ぶりね~」
「そっすね、まさかこの一週間で再婚から同居の流れが進んでるとは思いもみなかったですよ」
「ふふ、驚かせてごめんね。びっくりさせたくて」
翔吾が苦笑しながら話すと母さんが悪戯が成功した子供のように笑って答える。できれば息子にはそういう大事なことは早めに話してほしかったけどね。なんなら妹の灯は一か月前ぐらいから知ってたらしいし僕に話した時には既に義父さんと会っていたという。なんでだ....。
「それじゃあ俺は今日はこの辺で失礼します。こっからは新しい家族との時間ですしね」
僕が謎の疎外感を感じてる間に一通り話を終えたらしい翔吾が帰宅しようとしていた。
「ええ、またね翔吾くん。新しい家にもまた遊びに来てね、いつでも待ってるから」
「じゃあまた明日学校で」
「おう、また明日話聞かせろよな」
「はいはい」
翔吾を見送った後ケーキを買った僕と母さんは新しい家に向かって歩いていた。ちなみに源家では記念日にはここのケーキ屋のケーキを買うので今日は記念日扱いのようだ。いつもは全員同じ味しか食べないのだが今日はそれに加えて何種類か違うケーキも買っていた。恐らく義父さんとまだ見ぬ姉か妹たちのためだろう。
「そういえば母さん、なんかこの前は教えてくれなかったけどそろそろ向こうのお子さんの話聞かせてよ」
そう、先日流石に気になったので兄妹(姉?)になる人たちについて聞こうと思ったのだが、「今は内緒」と言われはぐらかされたのだ。まあ後になれば分かることではあるんだけど女姉妹が増えるわけだからそれなりの心構えがね、うん。
「ああ、そういえば言ってなかったわね。同い年の女の子と暁より8個上の子よ。あと同い年の子はあなたと同じ高校に通っているらしいわよ」
「同い年と8個上!?」
「あはは、やっぱり面白い反応するわね~」
同い年でしかも同じ高校だけでもびっくりなのに8も年上の姉ができると聞かされたのだ。驚きもする。というか母さんの性格上反応が見たいがために黙っていたのだろう。灯はあまり表情が変わらないものだからこういう悪戯は大体僕に回ってくる。驚かされるこちらの身にもなってほしい。母さんは見た目に反して意外に明るい性格をしているしかなりの悪戯好きだ。元々の性格もあるだろうし、片親の僕たちに悲しませないようにという心配りもある...と思う。
「まあでも安心しなさい。お姉さんの方はもう一人暮らししてるらしいしそんなに身構えなくても大丈夫よ。妹さんの方もすごいいい子でかわいかったし。清楚ってああいう子のことを言うのね~」
「いやいやいやいや、だとしてもびっくりするよ」
それにお姉さんの方に気を取られていたが、同い年の女の子は嫌な予感がする。義父さんと会った時に自己紹介をしてもらったのだが確か名前が白石光太....同じ高校の同い年で白石、しかも母さん曰く清楚でかわいいとのこと。否が応でもあの白石さんが脳裏に浮かぶ。あまり他のクラスのことは詳しくないから勿論別の白石さんという可能性もあるが...。
(あの白石さんが家族になるかもしれない...?いやいや意味わかんないだろ。違うよな?どんなフィクションだ?)
違うだろう、絶対違う、違うよね?と思いながらも気になる自分が止まらない。
「ねえ母さん、もしかしてその同い年の女の子って下の名前が真莉愛だったりする?」
「あら?暁、真莉愛ちゃんと知り合いだったの?」
(あ~~~~~~やっぱりそうですよね~~~~~~~~)
予感は的中してしまった。ここは現実ではなく作品の世界だったのかもしれない。学園一の美少女が家族になるだなんてどんな偶然だ?物語とかならありそうな展開だし面白いと思うけど、現実に起きてしまうだなんて想像したこともなかったしどういう感情になっているのか自分でも判別がつかなくなっている。
「いや、知り合いではないけど...白石さんはすごい有名だからね」
「ああ、あれね。学校のマドンナ的なあれね。真莉愛ちゃんかわいいものね~」
「もう驚きすぎて何が何だか分からなくなってきてるよ...」
そんな複雑な感情を抱きつつ歩いていると不意に背中に衝撃が走った。
「おにーちゃんどーん」
「おおおわぁ!?灯!?」
不意な衝撃に驚き振り返ると母親譲りの綺麗な栗色の髪を肩口に揃え、少しボーっとした風貌をした我が妹、灯が背中に飛びついていた。
「ドッキリだーいせーこー」
「いえ~い」
すぐに背中から退いた灯が母さんとハイタッチをしていた。この反応を見るに母さんはここで灯が来ることを知っていたのだろう。やはりこの母親、油断ならない。
「いきなり飛びついたら危ないだろー灯」
「おにーひゃんごめんにゃひゃーい」
灯のほっぺをむにむにいじいじ。この妹、母親譲りの綺麗な顔立ちをしているのでこんなむにむにされながらでもめちゃくちゃかわいい。今年で中2になったがクラスでも多分かなり人気なのだろう。兄としては灯が誰かと結ばれるとかは想像ができないし許しがたい気分ではあるが。
灯はずっとこうやって甘えてくるし僕も甘やかすからお互いシスコンブラコンのような感じになっている。これはもうお互い認めているし片親である母が働いている間は、翔吾の家にお世話になっているとき以外は基本的に兄妹二人きりなのだ。ずっと一緒に遊んでいるし支えて助け合ってきているので仲が良いのは当たり前だ。特に灯も僕も反抗期などは特になかったしほんとにずっと仲が良い。ちなみにこれも母親譲りのところで悪戯が大好きである。小さいころから翔吾と一緒によく悪戯をされたのはいい思い出だ。
「はいはい、仲が良いのはいいけど早く行くわよ。光太さん達もうみんなお家に着いたみたいだし私たちも急ぐわよ~。あとお家まで5分もかからないから」
「「はーい」」
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「ここが新しいお家よ~」
「立派な一軒家だ...」
「すごいりっぱ」
前までアパート暮らしだったため一軒家というものに憧れはあったがまさかこんな形で実現するとは思わなかった。翔吾の家が一軒家だったのもあって憧れは僕と灯の中で特に大きくなっている。僕と灯がぽけーっとしている中普通に母さんが鍵を開けて家の中に入ろうとしていたため僕たちも慌てて後に続く。
「ただいま~」
「なんでそんなに順応力高いんだよ母さん...」
「おかーさんはばけものだから、しかたない」
母親似の灯ではあるが母さんと違って大人しい性格のため、こんな大胆な行動ができる母さんは化け物扱いらしい。僕もそう思う。
「やあ、みんなお帰り。暁くんも灯ちゃんも学校お疲れ様」
「光太さんただいま~」
「あ、義父さん、ご無沙汰しています」
「おとーさん、ただいま、です」
実はこの1週間、ずっと灯と一緒にお義父さんと呼ぶ練習をしていたのだ。残念ながら僕たちに父親がいた記憶はほとんどないため父親という存在がよく分からないのだ。それでも母さんが選んだ相手だし僕たちも全力で寄り添っていこうと二人で決めていた。兄妹揃ってどちらかというと人見知り気質なのでかなり勇気がいることではあったが、これは頑張ろうと心に決めていた。
「ははっ、ありがとうね、灯ちゃん、暁くん」
義父さんは嬉しそうに微笑んでお礼を言ってきた。灯も僕も少しむずがゆい感じになる。義父さんも新しい息子と娘ができるのだ、僕たちと似たような不安を抱えていたんだろう。新しく家族ができる経験なんて一生に一回あるかないかだろうし不安にもなるだろう、僕もすごい不安だったしね。
「さあ、リビングにおいで。娘たちとも顔合わせをしないとだしね」
ついに白石さん(?)とご対面の時が来てしまった。灯も緊張している様子だが僕の緊張は種類が違っている気がする。まあ会わない選択肢なんてないしもう腹をくくるしかないのだが。
義父さんに連れられリビングに入ると、絶世の美女と美少女と言わざるを得ない存在が椅子に座っていた。
美女の方は恐らく姉となる人なのだろう。長い黒髪を横で一つにまとめ肩に流す、サイドおさげみたいなものだろうか。目はくっきりとした二重で、大人の艶やかさを感じさせる豊満な身体つき。モデル顔負けのスタイルと美貌と言っても差し支えないだろう。少なくとも今まで生きてきた中ではこのような美女に出会ったことはない。
美少女の方は予想的中で『煌上四天王』の一人、学園一の美少女の白石真莉愛さんだ。白石さんは学校で見かけたときと同じ制服姿で何度か見た姿ではあるが、やはり間近で見ると美しい。腰まで伸びた艶やかな黒髪。スレンダーな身体つきから伸びる健康的な長い脚。そりゃ有名にもなるし憧れの的にもなる。
「初めまして~、二人のお姉ちゃんになる白石亜理紗です。今は一人暮らししてるからあんまり家にはいないけどこれからよろしくね~」
「初めまして、灯ちゃん、兄さん。白石真莉愛です。兄さんとは同じ高校に通っています、灯ちゃんにとっては姉になるのでどうか気軽に真莉愛お姉ちゃん、と」
(え、今なんて言った?)
白石さんのお姉さん、亜理紗さんが包容力のあるおっとりした声音で自己紹介をしたところまでは理解できた。綺麗な声だしすごい優しいお姉さんだなあって思ってた矢先、兄さん?兄さんって誰?いやまあ状況だけ見たら僕のことではあるのだろう。いやいや、同級生なんだが。
「えっと、初めまして、源暁です」
「源灯、です」
「うん~、二人ともよろしくね~。しばらくはここに泊まる予定だからよろしくね~」
「よろしくお願いします」
誰も触れないOK。
「あの、真莉愛、さん?その兄さんっていうのは...?」
「?ああ、いきなりすみませんでした。私、誕生日が三月なので妹になるんですよ。兄さんが12月生まれだと聞いていたので普通に兄さん、と」
「あ、ああ、そういうこと...。いやでも僕たち同じ学年だし別に兄さんって呼ばなくても」
「いえ、兄さんです」
「......」
「兄さんです」
白石さんの中では兄さんは決定事項らしい。表情をうかがうと確固たる意志を感じる、なぜそんなに頑ななのだろうか...。
「ありさおねーちゃん、まりあおねーちゃん」
沈黙になってしまった空気を灯が切り裂いて二人の名前を呼ぶ。
「灯ちゃんどうしたの~?」
「はい、どうしました?」
「えっと、あのね?」
灯がもじもじ、そして上目遣い。
「どーやったら、ふたりみたいにきれいになれる?」
「「そのままでも十分かわいいから大丈夫よ(です)」」
灯を除くその場にいる全員が激しく同意したのだった。お兄ちゃんもそう思います。
読んでいただきありがとうございます
作者のきまぐれで書くので次の投稿は未定です
感想や誤字などがありましたらお願いいたします
追記:時系列が無茶苦茶になりそうだったので少し修正しました