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やっと怪物を出せた…
車を手刀でぶった切る実験を終え、薄暗くなった中意気揚々と下山している最中に妙な気配を感じた。人のそれとも動物のそれとも明らかに違う、異質な何か。何だろうと思いその気配のある方角へ進むと
全長5mほどの巨大ムカデが居た。
しかも、脚が節足動物のそれではなく、どう見ても人の腕──
「…え゛っ!?」
なん、何!?何だこれ!?ついさっき神も悪魔も居ねえって言ったばっかりなんだけど!?
なんで人の腕が側面からびっしり生えてるクソキモ巨大ムカデが居るの!?
うわ突進してきたキモッ!!しかもそこそこ速い!回避ぃぃぃぃ!?
ドンッ!!
間一髪で回避に成功し、ムカデは後ろの木に激突。木がバキバキと轟音を出して倒れるが、ムカデに激突の衝撃が効いた様子はない。ぐねりと体を動かし、頭をこちらに向けてくる。うわよく見たら人の奥歯が口にびっしり…!最悪だもう!嫌なモン見せやがって!
正直すぐにでも逃げたいが、このまま麓まで逃げたら確実に町に被害が出る。こんな化け物を町に放してみろ、たぶん死者は三桁行くぞ!?仕留めるしかねえ!
ああまた突進!でも今度はさっきより余裕だ!来ると分かっていれば問題はない!
ムカデはまたもや木に激突。今度は打ちどころが悪かったのか、少しふらついている。
そうだ、この隙に感情視認使ってみよう。──!? なんだこれ!?
全身が人間や動物の比にならないほどの(負の)感情のオーラで包まれている!?
いや、「包まれている」というよりは「満たされている」か?
まるで体が感情オーラだけで形成されているような…いや「ような」じゃない、マジでこいつの体は感情オーラによって構成されている!感情オーラが何故か物質化してこの化け物の形になったんだ!なんでだよ!?
とにかく、この要素から考察するにこいつは「人の感情から生まれた存在」ではないか?そういう設定って割と定番だし。でもなんでこんなところに?人が多く集まる場所で生まれるイメージがあるんだが。
あ、また突進。さっと避け、堅そうな外骨格を強化火エンチャ拳で全力で殴る。
最悪拳が死ぬことも覚悟していたが、思っていたよりもこれは脆かったらしく、表現しがたい轟音と共に拳は外骨格を貫通し(車よりは硬かった)、纏う炎がムカデを体内から焼く。一瞬で炭になったので、ムカデの内臓の感触を味わう羽目にならずに済んだ。体内に1538℃超えの熱源を突っ込まれたムカデは流石に即死したらしく、ピクリとも動かなくなった。倒したん、だよな?
あー、かつてない程に疲れた…。