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5:運命の輪は物理で回る

「息災そうで何よりだ、ルイーズ」


「エッカルト様もお元気そうで何よりです」


 そうよね、お母様の葬儀にも顔を出さなかったんだわこの人。

 別に来てほしいと思ったことはなかったし、支えてくれる相手とも思っちゃいなかったから気にしてなかったけれど……婚約者としてはかなりマイナスなんじゃないかしら?

 あの時は一応お悔やみの手紙と私の無聊を慰めるっていう贈り物が来ていたことは覚えているわ、色々と忙しかった、申し訳ないって連ねてあった気もする。


(まあ失礼な言動は今のところないし、今日は新しい家族を紹介するだけだし……)


 物語とは違うランお姉様と会わせてどうなるのかって不安はあるけれど、会わせろって言われて拒否すると物語みたいに『ルイーズは平民出身の義姉を嫌っている』なんて噂が出てしまったら困るし。

 エッカルト様が変な正義感を持った人物で、暴走するとかそういう可能性もあるじゃない?


(……そう考えると、私も婚約者のことを何一つ知ろうとしていなかったんだわ)


 お茶会に誘ったりするのもあくまで『婚約者だから』付き合いをしないのは悪いだろうと思って、誘ってくれないなら誘えばいいじゃないっていう考えだっただけ。

 だから会話も最近のことを時折話して、天気がどうだとか庭の花がとか当たり障りない会話しかしていなかったんだわ。


(なんてこと)


 自分でもびっくりだわ!

 後妻が来るってお父様に告げられてショックからこうして前世の記憶を取り戻したけれど、それ以前の私ったらどこまで婚約者に興味がなかったのかしら!!


 それでいて相手が興味を持たないからしょうがないとか、お互い歩み寄れよとしか……。

 ランお姉様に浮気する相手だしって記憶を取り戻してからはそんな目で見ていたことは認める。


(視野狭すぎだわ、私……)


 ランお姉様がそうであるように。

 もし、エッカルト様も『物語』とは違っているならば、今からでも関係は築き直せるのかしら。そうよね、夫婦になるのだもの!


「エッカルト様、本日は私の新しい家族を紹介したいのですけれど……」


「ああ」


「あの、大変申し訳ございませんが」


「なんだ」


 眉をぴくりと跳ね上げる姿は、少し機嫌が悪い時。

 私としては彼のその癖があまり好きではないけれど、今回ばかりは彼だっていやいや訪問しているかもしれないと思うと強くは出られない。


 平民出身者が義理の家族になるのだということに、嫌悪感を抱く貴族は少なくない。


「実は父が体調を崩しておりまして」


「何、それは大丈夫なのか?」


「はい。そのため、義母は看病で長い時間はご挨拶できません。私とお姉様がおもてなしさせていただくことになるかと思いますが……」


 本来ならば、新しい家族ができた場合の紹介は一家の主である父がすべきなのだ。

 そして客人をもてなすのは女主人である義母の役目。

 そういったことができないというのは、この世界における貴族社会では失礼に当たるのだけれど……今回は許してもらいたい。


 父が伏せっている、というのは間違いではないのだけれど、要するに精神的ショックで熱を出してしまったのだ。子供か!

 義母は義母で一応責任を感じているらしく、看病を買って出てくれているので……その合間に顔を出してご挨拶をするだけに留めたいと本人からの申し出を却下するわけにもいかないでしょう?


「あの、エッカルト様」


「あ、ああ……」


 私が意を決してエッカルト様を客間に案内してすぐ声をかければ、彼はそんな私に気圧されたように眉を顰めた。

 驚かせたようで大変申し訳ないけれど、ここは大事なところである。


「義母と義姉はまだ礼儀作法には不慣れです。ですから、おおらかなお気持ちで接していただきたく」


「なんだ。そのくらい、問題ない。……もしや新しい家族が平民出身ということで、僕が忌避すると思ったのか?」


「申し訳ございません。バイカルト家でどのように受け取られているのか、判断がつかなくて」


「いや……そうだな。そういう風に受け取る貴族も多いと聞くが、僕は騎士学校で平民の友人も多く居る。だから気にすることはない」


「そうでしたか……ありがとうございます」


 ほっと胸をなで下ろす。

 そうだよね、私もエッカルト様も会話が足りてないんだわ。それも圧倒的に。


 これから夫婦になろうという関係なのに、お互いの価値観すらしらないだなんておかしな話だったんだわ!


 でも今、彼の考え方を僅かでも知れてこれからのことに希望が持てた気がする。

 恋愛感情はこれから芽生えるかも知れないし、情が生まれれば今後の関係だっていくらでもよいように変化させられるはずだわ。


 私はエッカルト様ににっこりと笑いかけてお辞儀をした。


「それでは、今二人を呼んで参り――」


「ちょっとおおおおおおエシャレットちゃんだめだってええええええ!」


 バァンと派手な音を立てて、我が家の番犬の一匹であるエシャレット(ランお姉様命名、本当の名前は犬番が知っているはず)が飛び込んできた。


 私とエッカルト様は、思わず呆然とそれをゆっくりとした動作で見て、同じようにお姉様もこちらに気がついてギギギという音が聞こえてきそうな動きでこちらを見上げて歪な笑みを浮かべる。


「チョ、チョリーッス……?」


 お姉様、だめです。それアウトですからね!!


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