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音のない歌詞

残暑を食べる

作者: 渋音符


 秋が近づくと、皆は「残暑」がどうだの言い出す。

 見上げた空は、昼夜が揃い出し崩れていく。

 夕方頃に、視線を少し上に傾けたら、

 オレンジと濃い藍が重なり合っている。


 アキアカネ達が一斉に夕暮れに溶け出して。

 ヒグラシとセミが地面に落ちて。

 ギンヤンマが雲を通って薄く揺らめいてる。

 カゲロウの翅が、水溜まりを埋めていた。


 八月の残骸が、九月の破片と共に、

 じわりと残った暑さを、伸ばしてくる。


 秋が、夏の暑さを食べているんだ。

「まだおいていかないで」と叫んでいるけれど。

 追い縋る手を払って、泣いている君を、

 見ないふりした。

 見たくなかったの。


 夏が遠ざかると、皆は「残暑」がどうだの言い出す。

 見下ろした世界は、足並みを揃えずに崩れていく。

 明け方未明に、体を少し前に傾けたら、

 桃色と薄い紺が重なり合っている。

 

 十月は三回目。残りは半年もない。

 くたばりかけた暑さが、恋しかった。


 秋が、夏の暑さを食べているんだ。

「まだおいていかないで」と叫んでいるけれど。

 追い縋る手を払って、泣いている君を。

 見ないふりした。

 見たくなかったの。


 霜月の涼しさが、師走の寒さと共に、

 秋が残した食べ滓を、吹き飛ばして。


 秋が、夏の暑さを食べているんだ。

「まだおいていかないで」と叫んでいるけれど。

 追い縋る手を払って、泣いている僕を。

 見ないふりして。

 忘れてほしいの。


 見ないふりした。

 見たくなかったの。

 

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