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私は……、美咲は小学生の時、いじめを受けていた。
きっかけはあまり覚えていないけれど、たしか家が貧乏でランドセルが買えなかったことかな。どちらにせよ大した理由じゃなかったことだけは覚えている。
そんな私を救ってくれたのは今でも大親友の雪だった。
雪には感謝しても返しきれない恩があると思っている。
いじめられていた私なんかに手を差し伸べてくれた
私なんかのためにクラスで人気者だった雪まで私と一緒にいじめられてしまった
でも雪は私なんかと違っていじめられたってへっちゃらで、いじめっ子たちも追い返して……。いじめは無くならなかったけど、雪といる時はほとんどいじめられないようになっていた
雪は私を守ってくれているのだ
私は雪に憧れている
雪は私とは真逆の人間だった
元々は友達が多かったし、家は結構裕福っぽいし、人気者で成績も良くて運動会でもリレーのアンカーだ
本来私とは住む世界が違う人。でもそれを私が私と同じ場所まで降りさせてしまったんだ。
もちろん、私と同格の人間になってしまったなんて言わない。雪は下にいてもすごい人だってことには変わりない。近いように見えて遠い、追いつくことのできない憧れなんだ。
いじめが始まったのが四年生、雪が助けてくれたのが五年生、六年生になってもいじめは続いてる。
「こんないつまでいじめをやめれない人間と同じ中学なんて行けない」
と、突然雪は言った。
そして、私立に行こうと私を誘った。
最初に私は無理だと思った。
だってそうだ
私は頭が良くないし、家も貧乏だから私立になんて行けやしない。でも、雪にとっては違ったんだ。
勉強を雪に教わって、特待生なら全くお金がかからない学校を探し出して無理が無理じゃなくなった。
これが私と雪の違いなんだと思った。
きっと、雪は私と同じ立場で私と同じくらいの頭の良さでも同じことができたんだろうって。雪なら頭が悪いを言い訳にせずいっぱい勉強して学校だって必死に探して見つけてきて一人で私立に行ったはずだ。
しかも、雪は私と同じ学校に来てくれるって言った。私は反対した。
雪の家は裕福だから特待生になる意味もない。それなら私なんかに合わせるより雪に合った賢い学校に行った方がいいに決まってる。
「でも美咲、私なしで特待生の成績維持できる? 私なしで一人ぼっちになっちゃわない?」
そう言われたら私は何も言えなくなった。
出来ないからじゃない、雪がいなくてもやり切ろうって思えなかったからだ。私はとても弱いんだって気付かされた。
弱い私のためにまた雪を付き合わせてしまったんだって。
雪が一緒に来てくれた中学生活はとても楽しかった。いじめも無くなった。
雪は特待生をいじめられるもんかって言ったけど、私一人だったらやっぱりいじめられてたって思う。
特待生を維持するための勉強は雪に見てもらってる。私立の勉強は難しくて毎日のように雪の補習を受けてるおかげで成績はいつも私も雪で1、2位を独占してることが多い。
不動の1位の雪と違って私は10番まで落ちちゃったりするけど……。
私は雪に対する返しきれない恩がある。雪に言ったってそんな事はないって笑った返されたけれども、私はどうにかその恩を少しでも返したいってずっと思ってる。
でも、私には何も返せそうもない。なにせ私は雪に勝てることが何一つない。
プレゼントをしようにも雪はお金持ちで私の家は貧乏だ。
日頃の感謝ってジュースを奢ってあげたら、逆にそのお礼と言って家に呼ばれて高級そうなお菓子やフルーツを頂いてしまった。
プラスマイナスで言ったらマイナスになってしまう。
結局私は一人じゃ何も出来ないみたい
だからもう……恩返しですら雪に頼ってしまって良いかなって。なんでも言うことを聞く券を100枚作って雪に渡した。私は恩の返し方すら雪に頼るのだ。情けない。
最初、私は突き返されるかもしれないと思っていた。でも、それをもらった雪は私の全く想像できない姿を見せたのだ。
「なんでもって……どんなことでもなの?」
雪は震えるような声でそう言った。とても緊張しているようで、それでどこか迷っているようだ。
迷っている……そう迷っているのだ。私は雪が迷っていることがとても意外だった。
私はとんでもないお願いをされるかもしれないって思ったけれど、それでもいいと思った。
むしろ、そうでなくては私は雪に今までしてもらったことを返しきれないからだ。
「うん、なんだって大丈夫!」
だからいつも迷ってばかりの私は、迷わずそう言った。
「どんなこと言っても引かない?」
「もちろん!」
「今まで通りの関係が崩れたり……しない?」
「もちろんそんなことないよ!」
うん、迷いなく答えた。
迷いなく答えたけど私は動揺している。
ここまで念を押されるってもしかして私は犯罪でもお願いされるのだろうか、と。
流石にないと、ないと思いたいけど。もしかすると暗殺とかお願いされたりするのだろうか。100枚渡したのは失敗だったかもしれない。
「100人分かぁ……」
「え?」
間違いなく死刑は免れないなぁ……。と思いながらついうっかりと口にしてしまった。
「なんでもないよ、どんなことでもお願いしてね」
……たとえ何をお願いされようと私は迷いなくいいよって言ってあげようと、そう強く心に誓った。
だから何をお願いされようと、大丈夫だ。
「そ、それじゃあ」
しばらく沈黙の後に、雪は重々しく口を開いた。
「お、おっぱいを触らせて」
私はそれに、迷いなく答えることが出来なかった。