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襲撃

 十二月だというのに周囲の空気は熱気で包まれていた。


 不用意に口を開ければ喉の奥が焼かれてしまいそうだ。

 

 ポピルは二歳下の弟と一緒に近所に住む大人たちに連れられて燃え広がる村の中を必死で駆けた。慣れ親しんだ村は今や炎の渦が巻く地獄絵図と化している。家は焼かれ、そこかしこから混乱と悲鳴と助けを求める声が上がり、村の遠くからは盗賊たちのときの声と、激しい銃声がやむことなく聞こえてくる。


 ポピルと弟は、村から少し出た森の中で逃げ出した村人たちと合流した。村人たちいっても三十人ほどしかおらず、まだ多くの人は村に取り残されたままだ。ポピルは弟とはぐれないよう強く手を握りしめてじっと立っていると、馬に乗った保安隊十人が追いついてきた。その中にはポピルの両親の姿もある。


「父上!」


「ポピル! パピフも無事だな!」


 ポピルの父親、ゴラスは馬を降りてライフルを近くの木に立てかけると、息子たちを抱きしめた。ポピルの胸元に生暖かい血が広がる。父は、肩を負傷していた。


「ゴラス!」


 そこへ別の保安官二人が馬でやって来た。


「村長が、村長が奴らに連れて行かれた!」


「何だと!」


「奴らと何か交渉するつもりのようだ! 南を守っていたやつらは…全員やられた…」


「すぐに村へ戻ろう。まだ助かる命はたくさんある」


「ああ」


 一方でポピルの母親、レドナは馬に乗ったまま村人たちに向かって指示を飛ばしていた。


「滝まで逃げなさい! ここもすぐに奴らに見つかってしまう! 怪我をして動けない者がいたら誰か手を貸して!」


「レドナ!」


 ゴラスが手を挙げて呼んだ。レドナを乗せた馬がやって来る。


「村長が奴らに連れいかれたらしい。なんとか助け出すぞ。君の銃は?」


「もう十発しか残っていない。ホワーズ、あなたの弾を私に頂戴。あなたはこの人たちを滝まで案内して」


 ホワーズと呼ばれた保安官が承諾して弾をレドナに差し出した。


「レドナ…」


 ゴラスが馬上のレドナの手を握った。


「君もポピルたちを連れて滝まで逃げてくれと言ったところで、聞き入れてはくれないだろうな?」


「当たり前でしょう。あたしの夢は言ったわよね?」


 レドナは無理に笑ってみせた。


「娘を生んで、あたしと二人してあなたを取り合いっこすることなんだから。あなたをここで死なせるもんですか」


 ゴラスとレドナは一瞬見つめ合い、目で会話をした。やがてゴラスが覚悟を決めたように告げる。


「行こう。だが約束してくれ。決して無茶はするな」


「あなたが同じ約束を守ってくれるなら、あたしもそうする」


 ゴラスは自分の馬に跨り、何かに気が付いて周囲を見回した。


「誰か! 誰か俺の銃を知らないか!」


 はっと気が付いたポピルは、木に立てかけてあった銃を持って、銃床を父親に向けて差し出した。ゴラスはそれに気付き、ポピルからライフルを受け取る。ふとポピルを見下ろすと、ポピルの両手がブルブルと震えていた。


「怖いか、ポピル?」


 父親に訊かれて、思わずポピルは頷いた。


「俺もだ……パピフと仲良くな」


 ゴラスは静かにそう言うと、馬の横腹を蹴って燃え盛る村へと戻っていった。両親の名を叫ぼうとしたポピルはぐっと堪え、二人の後ろ姿が見えなくなるまで見つめた。



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