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炎の記憶

 怪訝な顔だったスキーネが、一口食べて固まった。


「肉が固い。ズッキーニがしょっぱい。本当にこれがあなたの故郷の味?」


 スキーネに指摘されてポピルが当惑した。


「そういえば食材は味見してなかったな。まあスープの味はいいから…」


 言いながらポピルは数口、自分の作った料理を口に運ぶ。


「う……不味い」


「不味いってどういうこと! あなたが作ったんでしょう!」


「おかしいな。スープは良かったんだが」


「良かったと言いますけどヤギ乳の味が強すぎませんか?」


 ルッカも眉を寄せながらスプーンですくったスープを見つめた。


「それは隠し味なんだ」


「全然隠れてませんが」


 ポピルを不憫に思ったナナトが明るい声を出した


「で、でも食べたことのない新鮮な味だよ。僕は美味しいと思うな」


「ナナト。過剰な優しさは相手の為にならないし、余計に傷つけると知りなさい」


 スキーネがぴしゃりと言うと、ナナトは黙るほかなかった。ツアムだけはよく味わうようにして黙々と食べている。


「私はもういいわ。お代わりもいらない」


 一応自分の分を食べきったスキーネが皿を置いて口をナプキンでぬぐった。


「まったく。スープよりも口直しの水の方を多く飲んだぐらいよ。こんなことならツアねえに作ってもらえばよかった」


「うーむ…言い訳できん」


 ポピルは気落ちした様子でさらに一口食べる。


「宣言した通り、皿洗いはあなたが担当してね」


「僕はお代わりもらうから」


 ナナトは急いで自分の分をもう一杯よそった。スキーネが焚き火の対面に座っているポピルへ追い打ちをかけようとする。


「普段作ってもないのによくもまあ自信満々に言えたわね。あなたのご両親にお会いしたら、ぜひ教育方針を聞いてみたいものだわ」


「…俺の親はもういない。盗賊の襲撃に遭って殺された」


 ポピルが静かに言った。“えっ”とスキーネが息を呑む。全員が黙り込み、パチパチと焚き火の中の木が爆ぜる音が周囲に響いた。


「十か月前のことだ」


 それを聞いたツアムは、ポピルが西の国アトラマス出身ということを思い出した。


「まさか…ベネアード一派に?」


「そうだ」


 ポピルが初めて見せる暗い表情で焚き火の炎を見つめ、続ける。


「ベネアード。もともとはアトラマスの端の山賊の頭領だったそうだ。だが暴力に酔いしれたそいつは次第に勢力を大きくし、近隣の村や街を次々に略奪、支配下に置いていった。奴らの襲撃にあったところはイナゴの群れに襲われたように何もかも奪われてしまう。いや、イナゴの群れの方がまだマシだろう。畑の作物を食い荒らすだけのイナゴと違って、ベネアード一派はそこに住む人の命も簡単に、そのときの気分次第で奪うからな。奴らの勢力が拡大していることは噂で聞いていたが、ある晩、突如として俺の住む村も襲撃された」


 ポピルは一度、天空の星空を見上げてから再び焚き火に目を落とした。


「俺の両親は…父上も母上も村の保安官だった。悪人を捕まえるのが仕事さ。二人とも正義感に溢れ、仕事に誇りを持っていた。こうして燃え盛る炎を見るとあの夜のことを思い出す」


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