旧劇場の戦い1
先陣を切ったのはツアムだ。
揺れる松明の灯かり二つに向けてオートマチック拳銃を二発撃ちながら、劇場ホールから駆け出して階段の陰へと隠れた。ツアムが移動を終えたと同時に、松明を持っていた二人が地面に倒れる音がする。ツアムの放った電撃弾“青”を受け、体が痺れて動けなくなったのだ。
「野郎! 撃ってきやがった!」
男たちの方から声がする。犬の獣人が吠えた。
「松明は拾うな! 暗闇なら俺の独壇場だ。全員、散らばってゆっくり包囲を狭めろ!」
「はい!」
階段の陰に隠れていたツアムは冷静に独り言ちた。
「返事はするなよ。声で居場所がバレるだろ」
言下にツアムは入口の方へ向かって走りながら三発撃ち、今度は斜め前にあった柱の裏に隠れた。男たちの方から三度、ドサリと倒れる音が聞こえる。
クインリーとデシラはスキーネとルッカに守られながら、先ほどツアムが身を潜めていた階段の陰へと移動した。クインリーがツアムの後ろ姿を見ながら驚きの声を上げる。
「あの人、今走りながら銃を撃ったわよね? しかも撃つ方向を見ていなかったけど?」
「ツア姐はノールックショットが得意なんです。前にやり方を訊いたら、音のする方向に見当をつけて撃ってるって言ってました」
スキーネの答えにクインリーは益々驚いた。
「嘘でしょう? あれでただのヒトなの?」
「世の中って広いのね」
デシラもただ驚くばかりだ。
劇場ホールでは、コッキングを終えたナナトがポピルと共に観客席の隙間に隠れてステージ上を窺っていた。内幕から出たホーパーが劇場ホールの様子を見ながらステージから下りようとしている。ナナトがポピルの顔を見て言った。
「ポピル、チャージ・ライフルで舞台の左側を撃って牽制してくれる? 僕はその間、右から回り込んで近付くから」
「任せろ!」
ポピルはチャージ2に力を溜めると、狙いを定めるために立ち上がってステージ横に銃口を向けた。折り悪く、たまたまポピルの方向を見ていたホーパーがいち早く気付いて、リボルバー拳銃を一発放つ。ポピルの放った弾はホーパーの横の壁に当たって破片をまき散らし、ホーパーが撃った銃はポピルの脇腹に直撃した。
「ポピル!」
ポピルはその場に仰向けで倒れ込んだ。
「ぐ…ぎ…ぎ…だ、大丈夫だ。防弾ポンチョの上からだった。ちょっとの間、体が痺れているだけだ」
ナナトはポピルの具合を見た。なるほど、確かにポピルが着ていた防弾ポンチョの脇腹あたりに黒い焦げがある。出血はしておらず、大事に至る怪我ではないようだ。
「ここでじっとしてて」
ナナトがこっそりステージ上を見ると、ホーパーがステージから下りたところだった。さらにステージの上では、内幕の中からウドナットが現れる。
「ホーパー! クインリーをどこへやった!」
ウドナットはライフルを構えてステージの上からホーパーを狙い撃ち、ホーパーは身を屈めて観客席の後ろへ避難して躱した。ナナトはポピルから離れ、観客席の隙間を移動して右側からステージ方面へ回り込む。
「クインリーは僕がもらう! 誰にも渡すものか!」
ウドナットは闇雲に銃を連射し、ホーパーが潜んだ周辺の観客席を撃ち抜いた。弾丸が当たった箇所が大きく破損する。ナナトはその威力を見て電撃弾“赤”だと確信した。対亜獣用の高威力弾丸をヒト種に対して放つのはどの国でも大罪だ。さらにウドナットは冷静さを欠いて盲滅法撃っている。ナナトはウドナットが現状最も危険だと判断して銃を構え、狙いをすました。
ダン!
ナナトの放った弾丸がホーパーの太ももに直撃した。電撃によって体が痺れたホーパーはその場に倒れ込む。ずっと続いていた銃声が止み、劇場ホールに一瞬静けさが戻った。
沈黙を破ったのはステージの上にいたカッシュだ。内幕を破り裂いて顔だけ出すと、ステージから飛び降りて真ん中通路を駆けだした。




