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討伐

 スキーネとルッカは、徐々に強く地面に踏み込まれている足跡に興奮しながら進んでいた。


「見て。まだ新しい足跡よ。このすぐ近くにいるみたい」


「しー。あまり話し声が過ぎると気付かれてしまいますよ」


 二人は足跡を辿って一際大きいフワの木を回り込む。が、足跡は木の根元近くで途絶えていた。


「あれ? おかし…」


 ルッカが気配に気付いて樹上を見上げたのと、木の幹の上で二人を見下ろしていた角熊(つのぐま)がグルルと唸ったのはほぼ同時だった。

 待ち伏せされた!

 二人が後ろへ飛び退くのにあわせて熊が樹上から降りてくる。運悪く、ルッカが飛びのいた背後には木があり、ルッカは逃げ道を失った。

 仁王立ちした角熊の強烈な一撃がルッカに向かって振り下ろされる。


「大変だ!」


 偶然、襲撃の場面を見ていたナナトはすぐさま銃口を崖下へ向けた。角熊までの距離はおよそ五十メートル。木の葉が多少邪魔だが十分当てられる。


「待った」


 狙いを定めようとしたそのとき、ツアムが急に手で銃を下ろさせた。抗議のために目を向けると、ツアムも角熊の襲撃を見ながら言う。


「ルッカなら大丈夫。下手に撃つとかえって二人が危険だ」


 大丈夫? 今まさに熊の一振りを頭上に食らったのに? 


 焦ってナナトが崖下へ目を転じると、ルッカはなんと熊の一撃をトンファーで受け止めていた。しかも片手で。

 ナナト以上に驚愕したのは角熊自身のようだ。これまで山の王者として数々の獲物を屠ってきた自分の爪と腕力が、自分の体の半分しかない小さな人間に受け止められている。

 ルッカは受け止めた熊の一撃をそのまま横にいなすと、飛び上がって角熊のアゴに下から蹴りを入れた。一瞬、熊の顔が空へ向くほどの威力。しかしそれでも倒れない角熊に対して、ルッカはもう一つ腰に差していたトンファーを引き抜き、両手を使ったトンファーで熊に連続で殴打し始めた。

 銃口を突きつけトリガーボタンを押したいものの、彼我(ひが)の距離が二歩分しかない今の状態ではトンファーが長すぎて叶わない。ならばとルッカは目にも止まらぬ波状攻撃で熊の至るところを叩く! 殴る! 壊す!

 負けじと角熊も腕でなぎ払うも、ルッカはしゃがみ込んでそれをかわした。そこから再び熊の顔に強烈なトンファーの一撃を叩き込む。堪らず二本足のまま後ずさりした熊の腹に向けてルッカは二つのトンファーの銃口を向けた。


 バン! バン!


 火炎弾が火を噴くと同時に角熊は仰向けに倒れこむ。致命傷を受け、やがて熊は事切れた。顛末てんまつを見届けて、角熊の後ろから援護射撃を用意していたスキーネも銃を下ろした。


「ルッカ、怪我は?」


「かすり傷一つありません」


「さすが」


 崖の上から一部始終を見ていたナナトは呆然だ。


「ど、どうして熊と殴り合いで勝てるの?」


「ルッカならできるんだよ」


 ツアムもほっとした様子でナナトの肩に手を置いた。


「すごい。人間じゃないみたいだ」


「そりゃ人間じゃないからな」


 キョトンとした顔のナナトを見て、逆にツアムが不思議そうに見つめ返す。


「あのメッシュの髪を見ればわかるだろう? ルッカは、は…」


 そのとき、グオオオっという唸り声と共に近くの茂みの中からもう一頭の角熊がツアムたち目掛けて突進してきた。姿を見せた時点で距離は十メートルを切っている。油断しきって銃口を下げていたナナトは迎撃しようという意思さえわかず、涎にまみれた牙を向けて迫ってくる角熊を眺めることしかできなかった。

 突然、ナナトの視界にツアムの伸ばした手が入ってくる。そして。


 バン!


 銃声が鳴り響き、ツアムの手に持っていた自動拳銃が先から煙を上げた。七メートルの距離にまで迫っていた角熊は勢いそのまま前のめりに倒れこみ、そのままピクリとも動かなくなる。


「退治完了だな」


 ツアムが素っ気無く言いながら拳銃をケープの下に仕舞い込んだ。崖下からスキーネの声が響いてくる。


「ツア(ねえ)! 上にいるの?」


 ツアムが崖に近づいて手を振る。


「ああ。こっちも一頭仕留めた。今から下りるから村へ帰ろう」


 行こうか、と言って歩き出すツアム。ナナトはその後姿を見ながら声も出せずただ頷いた。

 心臓はまだ早鐘を打っている。見間違いでなければ、今しがた角熊を撃ったとき、ツアムの顔は自分に向けられたままだったはずだ。まるで拳銃が自動的に敵に反応して弾を発射したような撃ち方だった。ナナトは小走りで追いかけながら思う。


 この人たちは、一体なんなんだろう?


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