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舞台袖

 ナナトは銃を構え直すと、クインリーをその場に置いてかがんだまま駆け出した。


 一瞬だけ観客席から頭を上げて前を見る。

 ウドナットとカッシュがお互い戦っているところだった。


 二人の隙をつくようにして、ナナトはステージへ向けて直進する。途中カッシュが投げた椅子が頭上を通って壁に当たったが、戦闘中の二人には気付かれていないようだ。ナナトはひるまず前進し、飛び上がってステージに上がった。流れ弾を恐れたのか、ステージ上にデシラの姿はない。ナナトが耳を澄ますと、舞台袖の奥から悪戦苦闘する声が聞こえてきた。ナナトは銃で警戒しながら舞台袖へと入っていく。


「この! 外れなさいよ!」


 見ると、デシラは懸命にローブを歯で噛み千切ろうとしているところだった。ロープの長さはざっと十メートルはあり、デシラの腰に括りつけられるロープのもう片方には、大きな金属製の柵に繋がっている。決してほどけないような固い結び目で、ナナトは一目見て手でほどくのは不可能だと悟った。


「デシラさん!」


 ナナトが横から声を掛けると、リスの獣人デシラは悲鳴を上げてこちらを向いた。


「誰? あなた」


「クインリーさんの護衛です。あなたを助けに来ました!」


 ナナトはデシラの傍によってロープを手に持ってみた。つる植物の中で最も強度の強いリボザのツルだ。ナナトも行商人から仕入れて籠を編んだことがある。水を染み込ませた状態なら容易く変形できるが、一度乾ききれば大人二十人を吊るすことができる強靭さを発揮し、しかもデシラを縛っているロープは、ツルが十本は編み込まれて作られていた。


「あの藪医者に結ばれたのっ! 感染を防ぐために絶対に劇場の外へ出す訳にはいかないからって…」


「銃で撃つから耳を塞いで!」


 ナナトが銃口をロープに向けたそのとき。


「驚いたな、君も来てたのか」


 ナナトが声のした方向を向くと、ホーパーが舞台袖の幕の隙間から銃を突き付けていた。物陰に潜み、デシラに近付く者を待ち伏せしていたようだ。ホーパーはナナトに銃口を向けたまま、幕の隙間から体を出した。


「聞きたいことも言いたいこともあるが、まずはその銃を渡してもらおう。奴らを無力化させるのが先だ。さあ」


 ナナトが所持しているライフルの銃口はデシラを縛っているロープに向けられ、ホーパーの持つリボルバー拳銃はナナトを向いている。両者の距離は三メートル。敵意を出せば相撃ちにすらならずナナトが床に倒れるだろう。だがナナトが行動を起こす前に、ホーパーのすぐ後ろに巨漢の影が差した。


「見つけたぜ…ホーパー」


 熊の獣人カッシュだった。息が荒れ、両手には観客席を引っ張り剥がした椅子を左右一つずつ持っている。ホーパーが振り向くと同時に、カッシュが右手に持っていた椅子を投げつけた。ホーパーは咄嗟にそれを躱し、投げられた椅子はナナトたちに飛んでくる。瞬間、ナナトが椅子に向かって銃を放ち、着弾した椅子は空中で向きを変えてナナトのすぐ傍を通っていった。


 ホーパーがリボルバー拳銃を後ろに向けて一発、発射したが、カッシュが左手に持っていた椅子を胸の前まで持ってきたときに偶然当たり、椅子で弾を防いだ形となったカッシュが叫びながらホーパーに向かってその椅子を振り下ろした。間一髪で避けたホーパーだったが体勢を崩して床に転倒する。


 トドメとばかりにカッシュがもう一度椅子を振り上げると、カッシュの五メートル後方でウドナットもステージに上がって持っていたライフルの銃口をカッシュに向けた。


 ダン!


 銃声と共にカッシュがうめき声を上げ、右腕を押さえてその場にしゃがみ込んだ。ナナトにも見えたが、カッシュの腕を銃弾がかすったのだ。ウドナットは慎重にライフルを構えながらカッシュに近付いていく。


 ステージの舞台袖で、ナナトたちと三人のストーカーが五メートル圏内に揃った形になった。


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