突入
「ツア姐! 中から銃声が!」
「ああ、あたしも聞こえた」
旧劇場の中から銃声が聞こえたとき、ツアムたち四人は劇場正面入り口に前に座っていたが、音に反応してそれぞれ銃を身構える。
「どうする? 俺が撃つか?」
ポピルがツアムの判断を仰いだ。
「そうだな、中へ入ろう。銃声はここから遠いが扉の前に人がいるかもしれない。なるべく最小限の威力でドアを吹き飛ばしてくれ」
「心得た! チャージ3だ」
ポピルはレバーアクションを三度引き、チャージライフルの威力を三段階目高めて、銃口をドアへ向けた。
バーーーン!
大砲を鳴らしたような轟音と共に、劇場正面入り口のドアは木っ端みじんとなって吹き飛んだ。
「昔の人は、よく言ったもんだぜ」
ポピルが得意げに銃口を天へ向けた。
「押しても駄目なら引いてみろ。引いても駄目なら破壊しろ、てな」
スキーネとルッカがお互い顔を見合わせた。
「そんな諺なんてあったかしら?」
「使い方と使い時を間違えていますね」
ツアムがオートマチック拳銃を取り出し、破壊されたドアの中をそっと窺った。
旧劇場のエントラスはやけに明るい。天井を見上げるとドーム型にガラスが張られ、虚空に浮かぶ半月が顔を覗かせていた。その天井を支えるために石柱が六本,等間隔で横並びに建っており、石柱のさらに奥には著名な俳優か誰かの大きな銅像が置かれているが、どこにも人影は見えない。
「無闇に撃つな。お互いがフォローできる距離を保て。行くぞ」
四人は旧劇場内へ入った。
ちょうどそのとき、丘のふもとでは犬の獣人率いる、ならず者たち十名が馬で到着したところだった。
「親分、今の大砲みたいな音は!」
犬の獣人が部下に命令する。
「全員、銃を構えろ! クライアントの医者と女優以外は構わず撃て!」
馬の横腹を蹴り、男たちは丘を駆けあがった。
劇場ホールに響き渡るのは銃声、雄叫び、破壊音。目の前に見えるのは真紅の観客席、舞い上がる埃、発砲による煙。そして漂ってくる匂いは銃の硝煙。
一瞬にして破壊の場と化した劇場ホールの中、観客席の間を縫うようにしてナナトはクインリーの元へ駆け寄った。
「クインリーさん! もっと伏せて!」
「ナナト!」
その場に身を屈めていたクインリーの手を握ると、ナナトは近場の観客席の中へ引っ張って身を隠した。
「よかった。やっぱり近くにいたのね!」
「うん! デシラさんを助けるつもりで移動していたんだけど、こんな事態になっちゃった」
「悲劇と喜劇の共演よね! 面白いわ! うちの脚本家に台本を書いてもらおうかしら」
クインリーはそう言って笑ってみせたのでナナトは呆然とするほかなかった。
「笑い事じゃないよ! クインリーさんはここに居て! 僕はこれからデシラさんを助けに行く! 絶対に頭を上げちゃ駄目だからね!」
「わかったわ、ボディーガードさん」




