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 クインリーが旧劇場の中へ入ろうと二階の扉を開けた頃、丘のふもとから熊の獣人カッシュが坂を上ってきた。本当にここにクインリーは居るのか。もしいなければ他に思いつくところはない。


 カッシュは旧劇場の正面入り口の前へ来ると、念のため鍵が開いているかどうかを確かめるために扉を押してみた。びくともしない。クインリーはまだ来ていないのだろうか。もともと中へ入るのに正面入り口は当てにしていなかったので、カッシュはすぐさま搬入口へ向かった。搬入口は旧劇場の北東側にあり、かつてここで働いていたときは大道具に必要な資材を運び入れていたものだ。


 カッシュは搬入口となる大きな両面扉を押してみた。ここもやはり扉は動かない。扉の内側では太い丸太のかんぬきが開閉を封じているのだ。閂を設置したのは他ならぬカッシュ自身だった。旧劇場を封鎖するとき、持ち前の怪力を活かして一人で丸太を持ち上げたことを覚えている。あの太い閂を壊すのは多少骨が折れるが仕方ない。


 カッシュは扉から数歩下がり、ふん、と声を上げて扉の中央を思い切り蹴り上げた。何か細い枝が折れるような音がしたと同時に、搬入口の両面扉が内側へ開く。

 あまりにもあっけなく開いたのでカッシュは面食らった。閂が腐っていたのだろうか?


 随分簡単に開いたな。二十発は蹴らねえと無理だと思ってたが……ん?


 中へ足を踏み入れたカッシュがふとあるものに目を留めた。扉の内側で、閂の役割を果たしていたはずの太い丸太が無造作に横たわっている。しかも丸太は真ん中から二つに切断されていた。切り口から見てノコギリか何か鋭利なもので切られたようだ。


 不審に思ったカッシュは、しゃがみ込んで扉付近の地面を目で探してみた。すると案の定、手首の太さぐらいをした小さな木の棒が折れた状態で転がっている。それを見てカッシュは察した。


 誰かが搬入口から旧劇場の中へ侵入したんだ。両面扉が合わさる正面の隙間からノコギリかなにかの刃物を刺し入れて太い丸太の閂を切断して扉を開け、さらに他の者が入ってこれないよう代わりの閂となるこの細い棒を使って扉を閉じていた。

 だが一体誰が?


 クインリーが真っ先に頭に浮かんだが、カッシュはすぐに考慮から外した。いくらヒト種より力の強い獣人とはいえ、女の腕でこの太い丸太の閂を切断するにはかなりの時間を要する。まともに切ろうすれば最低でも半日はかかるはずだ。それにこの切断面にはホコリが被ってある。切られてからかなりの月日が経っているに違いない。


 誰かいる。クーリン以外に誰かが。


 カッシュの表情が険しくなり、ここから先は音を消して歩くことに決めた。そして少し考えた後、搬入口の両面扉を閉じて、内側から切断された太い丸太を閂として役割を果たすように扉の中央へ置き直す。他の誰かが自分と同じようにここから入ってくるのを阻止するために。半分に切られたとはいえ、太い閂は推定で六十キロはある。他種族では扉を開けるのに苦労するだろう。それに劇場の中からこの扉を使って外へ出るのにも自分の腕力が必要だ。これから先、何が起こるかわからないので、一つでも交渉の材料は持っていた方がいい。


 カッシュは暗闇の中を進み始めた。

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