表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/143

 自宅へと帰宅したウドナットは、家の奥のクローゼットへ向かって直進した。


 扉を開け、クローゼットの横に立てかけておいた一丁のボルトアクション式ライフルを手に取り、ついでに上段の帽子置き場から弾も取り出す。若い頃から狩猟が趣味だったウドナットだが、クインリーと出会ってからはめっきり回数が減ってしまい、この銃もここ数年、手入れしていない。整備が必要だと思ったウドナットはリビングへ行くと、吊り下げられたランプに火を灯して椅子に腰かけ、テーブルに銃を置いて、筒や引き金、ボルトの動作などを簡単にチェックしていく。


 ランプ内の蝋が残り少ないため、灯かりがチラチラと明滅して部屋内に出来る影を弄んだ。妻と別れてからは一人で家事をこなしている為に、こういった日用品関係の雑事はついつい後回しにしてしまう。ウドナットは手元が不定期に暗くなることに歯噛みしながらも新しい蝋に差し替える時間と手間が惜しくて、一心に銃の手入れを続けた。


 おそらく、クインリー・カースティは今、旧劇場に向かっている。


 一昨日の昼間、いつものように昼食休憩をクインリーの控室を覗いていたとき、彼女がカッシュに旧劇場に入る方法を尋ねていた。あのときはわからなかったが、もしかすると暗に僕へ行き先を伝えていたのかもしれない。何らかの事情で他言できなかったクインリーだが、もしかすると覗き部屋越しに僕へ助けを求めていたのではないだろうか。


 大事な公演の二日前。羽目を外したくて火災騒ぎまで起こし劇団を抜け出したというのは考えづらい。おそらくクインリーにとって大切な何かが今日、旧劇場で起こる。そして誰かがそれを邪魔しているのだ。クインリーがゴロツキに絡まれて怪我を負った聞いたときは頭に血が上った。僕がそいつらを殺してやる! ウドナットは本気でそう思い、こうして自宅へ銃を取りに来た。


 直感だが、クインリーが今日抜け出し、そしておそらく旧劇場へ向かっているのは、この一か月昼食時に読んでいた手紙と何か関係がある。一体旧劇場に何が、誰が待っているのかわからないが、彼女の危機はなんとしても救い出さねばならない。


 ウドナットは妄想を膨らませた。助けを求めるクインリーの元へ駆けつけ、ならず者どもを銃で撃退し、彼女を強く抱きしめる。演劇でよく見る勧善懲悪の物語だが、今日の主人公は自分でヒロインはクインリー、そして舞台は旧劇場となるようだ。


 狩猟の弾は対亜獣用の電撃弾“赤”だったがウドナットは気にも留めなかった。クインリーに危害を与える人間がどうなろうと知ったことではない。銃の整備を終え、弾を込めてから椅子から立ち上がる。そのまま部屋の隅に置いてある小道具入れ箱の中から旧劇場の正面入り口の鍵を取り出した。


 現在、旧劇場の正面入り口の鍵を持っているのは劇団支配人のバエントと、旧劇場の建築に携わった自分の二人だけだ。この鍵さえあれば、難なく旧劇場に侵入できる。鍵を胸ポケットの内側に放り込み、ランプの灯かりを一息で消したウドナットは、銃を担いで自宅を出た。


 待っていてくれクインリー。僕が助けに行くぞ!  


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ