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武器確認

 ナナトは申請書上段のある箇所を指差してスキーネに尋ねた。


「この第五級クエストっていうのは何?」


「クエストの難易度を表す等式表の番号よ。五級が一番下で、基本的に狩りの対象となる獲物が危険であればあるほど四級、三級って上がっていくの。今回の角熊(つのぐま)っていうのは…」


 スキーネはケープの裏から『最新版クエスト等式表』と題された小さな冊子を取り出してパラパラとページをめくり、途中のページを見開いてナナトに見せた。中を見てみると、そこには角熊のイラストと共に大きさと簡単な生態の説明が書かれていて、狩りレベルが五級ともある。


「これね。熊の亜獣(あじゅう)。獣と亜獣の違いについては知っているわよね?」


「獣は背骨が一本からなる哺乳類で、亜獣は背骨とは別にもう一つ、腹中骨(ふくちゅうこつ)っていう大きな骨がお腹側にある種類のことをいうんでしょ? 総じて獣より亜獣の方が大きくて性格も凶暴だから、ヒトへの危害を与えやすいんだ」


「よろしい。当然、難易度が高いクエストほど貰える報酬も多い代わりに怪我人が出る可能性も上がるわ。場合によっては逆に獲物に襲われて命を落とすことだってある。まあ、一級とか特級クエストにでもなると名の知れたチームに直接依頼が向かうから、そのあたりの斡旋所に(たむろ)しているチームなんかじゃ話を聞くことさえできないんだけどね」

 ナナトは感心して頷いた。


 出来上がった書類は斡旋所の支配人である老人に手渡す。支配人が捺印して写しを作り、それを受け取ってクエスト準備は完了だ。


「かなり面倒なんだね。頼まれたから退治してくる、じゃ駄目なの?」


「駄目よ」

 スキーネが即答した。


「いいこと? 昨日の晩も言ったけど口約束したからといって相手がちゃんと代金を払ってくれるとは限らないの。それに私達ギルダーの中でも悪質な輩が獲物を倒してから報奨金を吹っかけることだってある。今回の獲物はとても大きかったから割り増しにしろとか、弾の費用が予定より多くかかったんでその代金もそっちが払えっていう具合でね。そういった諸々の行き違いや言いがかりで後々揉めないようにきちんと前もって話をつけておく。そしてできた契約を保証するのがギルドの役割なの。万が一、契約不履行が発覚した場合、当事者は二度とクエスト発行も受注もできなくなる。その信頼があるために大勢の人がギルドを介するのよ」


「話を(さえぎ)って悪いがの、角熊があと二頭というのは間違いないのかね?」


 老人が契約書の写しをツアムに渡しながら尋ねてきた。「うん」と答えたのはナナトだ。


「実際に僕が見たのは二頭だけだけど、足跡や糞の量、縄張りを示す木についた爪痕から少なくとも三頭は絶対にいるんだ」


 昨日の狩りでは、熊を見つけたナナトが風下から近づいて銃弾を撃ち込もうとした瞬間、突如横から来た熊に見つかり、結果として追いかけられる逃亡戦になってしまったのだ。


「よし。写しはもらったから銃の確認をしよう」


 そう言ってツアムはケープの下から自身の銃を取り出してテーブルに置いた。他の三人もそれに倣い、銃を出して不備がないかどうか、弾数は揃っているかを確認する。


「ナナト。よければその銃を見せてくれないか?」


 ツアムがナナトに声をかけると、いいよと快諾してナナトが銃床から差し出した。


 ナナトのライフルは話に聞いていた通り、中央に一つのシリンダーのついたリボルバーの形を成していた。ツアムは持ち方を変えながら上や下から観察する。


「なるほど。シリンダーギャップの下に半円型の金属があるのか。これだけ大きいリボルバーだと撃発時に高圧のガスが指にかかるんじゃないかと思ったんだが、これで防いでいるんだな」


「そうだよ。僕のじいちゃんが作った世界に一つしかない銃なんだ。じいちゃんはずっと猟師だったんだけど、十年前の五国戦争(ごこくせんそう)に徴兵されて脚を怪我してから銃を作る職人になったんだ」


「とてもよくできた銃だ。ありがとう」


 ツアムはナナトに銃を返すと、今度はナナトが斜め前にいたルッカの銃について尋ねた。


「ルッカの銃も不思議な形をしてるね」


「ええ、トンファー型ライフルです」


 ルッカは二丁のトンファーをそれぞれ片手に持ち、空中で振り回してみせた。


「この短い取っ手の先端にトリガーボタンが付いているんです。銃口は長い棍棒の先。弾は棍棒の短い先から入れて、排莢するには棍棒を上下に強く振るか、トンファー自体を回転させて遠心力の原理で出します。主に屋内警護に用いる銃です」


「なんか銃っていうよりそのまま殴れる警棒みたい」


「実際、警棒も兼ねてます。射程距離が十五メートルと短い代わりに相当な力で衝撃を与えても、ものともしない耐久性を誇るので、主に体術と組み合わせた近接戦闘に適しているんです」


「ちょっとちょっと。銃の自慢するなら私も入れてよ」


 スキーネが自分の銃を肩から下ろしてナナトの前に見せた。

 スキーネの銃は、銃口が上下に二つ付いていて、下側の銃はポンプアクション式のライフルの特徴である可動式の前床があり、上の銃はボルトアクション式ライフルの特徴であるボルトハンドルが見て取れる。まさにボルトアクションの銃と、ポンプアクションの銃を一つに組み合わせた形だ。 


「トリプルアクション・ライフル。その名の通り、近距離用のポンプアクション式散弾銃と、中距離用のボルトアクション式ライフル、さらに遠距離用の狙撃銃と三段階に用途を使い分けることができるの。今見えているのは銃口が二つでしょ? 上が通常のボルト式ライフルの銃口で、下がポンプ式散弾銃の銃口。そして」


 スキーネは銃をテーブルに下すと、自分の荷物からなにやら部品を取り出した。スコープだ。そしてそのスコープをおもむろに自分の銃の上へセットした。


「どう? カッコいいでしょ? このスコープがあれば獲物を遠くから視認して狙撃することができる。ただ、あたしは長距離射撃が苦手だから、滅多に使わないんだけどね」

 スキーネはそう言って笑いながらスコープを外した。


「銃口が二つあるのにトリガーは一つしかないの?」


 ナナトが訊くと、スキーネはライフルを横にして見せながら答える。


「ええそうよ。この留め金部分のスイッチで上下の銃口を切り替えるの。両方同時に撃つことは暴発を防ぐ目的もあってできないわ。今年出たばかりの最新式。そういえば、ツア(ねえ)の銃も去年出たのよね?」


 話を向けられたツアムは、目の前のテーブルに置いていた拳銃をナナトに差し出した。ツアムの髪とよく似た銀色に輝く大きな拳銃で、横から見た全体像は「T」の形に見える。


「ボーチャードピストル。オートマチックだ」


「オートマチック?」


「発砲時に排莢と次弾の装填を同時にやる仕組みのことさ。弾はそのグリップの下から弾倉(だんそう)に入れるだけでいい。ちょうど今、弾倉に弾を詰めたところだから見せよう」


 テーブルの上で弾倉に対亜獣用の火炎弾“赤”を詰め終えたツアムは、ナナトから拳銃を返してもらうと、拳銃のグリップの下から装填し、壁に向かって銃口を向け、銃尾のトグルを続けて二回、上に引き上げた。

 一回目の引き上げで薬室に装填された弾丸が、二回目の引き上げでカチン、という音を立て、まるで跳び上がった蛙のように薬莢から出てきた。ナナトはうわあと感心する。


「実際の発砲時には空になった薬莢が出てくる」


「すごい便利だね! 僕のリボルバーは撃ち終わった後シリンダーを開けて薬莢を取り出さなきゃいけないのに!」


「八発しか装填できないことが玉に傷だがな」


 ツアムは床に落ちた弾を拾うと、銃から弾倉を取り出してもう一度中に詰めた。


 全員の装備確認が終わったところで、角熊を退治すべく斡旋所を出発する。


【五級クエスト・角熊二頭の退治】

メンバー数 四人

報奨金 二十五万リティ

弾代金 自費


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