芝居
新劇場では火災が鎮火されたとして、劇場外に出ていたスタッフ全員がエントランスに集められているところだった。一方でクインリーの控室の前ではツアムたちがじっと立ち尽くしている。控室のドアが開き、中からバエントが現れた。頭から湯気が立ち上ってみえるほど怒気を発している。
「争った形跡はない。が、拉致されていないとは断言できない。不意を突いて拘束された可能性だってある」
「面目ありません」
スキーネが意気消沈した様子で項垂れると、バエントが吐き捨てるように言った。
「謝られても手遅れだ。君たちには失望した。こんな事態にならないよう仕事を依頼したのだ」
「支配人!」
劇団スタッフの一人が劇場の入口側から慌てた様子で駆けてきた。
「外でクインリーの姿を見た者がいたそうです。ここから百メートルほど離れた空き地から、ライフルを背負った少年と一緒に街の中心へ走って行くところが目撃されました」
スキーネとルッカが顔を見合わせる。
「ナナト!」
「それから…」
スタッフが伏し目がちになり、言いにくそうに報告する。
「同じ空き地で二発、銃声がしたそうです。銃声のすぐあとに空き地から慌てた様子で五、六人のゴロツキが飛び出してきて、その後クインリーと少年もそこから走って行ったと」
「彼女の行方は…わかっていないんだな?」
「…はい」
バエントは大きくため息をついた。
「どうやら彼女自ら劇場を逃げ出したようだ。なにかしらトラブルに遭って解放されたのだとしたら真っ直ぐ劇場へ帰ってくるはず。おそらく火災も彼女の計画だろう。くそっ!」
バエントは壁を殴りつけた。
「過密なスケジュールを嫌って稽古から抜け出したのはこれまでも何度かあるが、公演日は明後日だぞ! 悪質なストーカーにも狙われているというのに!」
「…支配人、スタッフたちが説明を求めています。公演はどうなるのかと…」
「わかってる。全員をいったん劇場内へ集めてくれ。全員だ。内装作業者も含めて。私の口から説明する」
了解したスタッフがエントランスへ走っていく。バエントは劇場へ向かおうとして足を止め、スキーネたちを振り返った。
「君たちはクビだ。即刻ここから出て行ってくれ」
バエントは踵を返して歩き去っていった。残されたスキーネ、ルッカ、ポピル、ツアムはただじっと立ち尽くす。
「うぢの責任ですっ!」
スキーネが泣きそうになりながら両手で顔を覆った。
「うぢが一人だけでも残っていればこんなごどには…! ああっ! おっどうとおっがあになんて言うがさっ! クインリー様に出会って舞い上がって仕事ほっぽりだして! もしクインリー様に何がさあったらうぢは…」
スキーネが優しくルッカの肩に手を置いた。
「ルッカ、悪い方向ばかりに考えては駄目。キリがないわ。ナナトが一緒なんだもの。きっと大丈夫よ」
ポピルがライフルを背負い直しながらスキーネに訊いた。
「それでどうする? 俺たちも街へ出て探すか?」
「街は広いのよ? 闇雲に探したって埒が明かない」
「そんなことはわかってる。けど宿でじっとしてるなんて俺は嫌だぜ!」
「…そうね、私も耐えられない。ツア姐はどう思う?」
スキーネがツアムに尋ねた。ツアムはずっとバエントが歩き去った廊下の奥を見つめていたが、落ち着いた様子で三人に向き直った。
「そうだな。芝居でもしてみるか」




