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ボディーガード

 ナナトが思わず聞き返した。


「嘘?」


「そう。私はすぐにデシラ宛の手紙にそのことを書いて事情を訊いたわ。しばらくして返事がきた。そこには実家に帰ったというのは嘘で、とある理由から皆と離れて暮らさなくちゃならなくったって書いてあったの。私には訳が分からなかった。もちろんその理由と、そして今デシラがどこにいるのかを教えてと書いて手紙を出したわ。そしたら次の手紙から、こっそり私と会う算段をつけると送ってきた。ただし、ここからの手紙は誰にも読まれないよう注意して、読み終わったらすぐに処分してほしい。もし手紙の内容が不特定多数に知られれば、周囲の皆が不幸になるって」


「どういうことだろう?」


「私もさっぱりだった。でも私はデシラの言う通りにすると約束したわ。自宅に届けられた手紙から使用人たちにバレないようデシラの分を抜き取り、わざわざ劇場の昼食時に読んで、読み終えたらバラバラにして捨てた。問題だったのは、バエントが外出の許可をくれなかったことよ。新劇場に移って初めての公演だから神経質になっているうえに、例のストーカーの件。バエントはせめて初公演が終わるまで、私に外を出歩くのはやめるよう進言した。いえ、進言っていうのは優しい言い方で誤りね。軟禁だわ。ギルダーを雇って私の自宅前に置き、外へ出ないよう監視させたの」


「バエントさんに相談しなかったの? デシラさんのことについて」


「他ならぬデシラから口止めされたのよ。誰にも口外しないように。理由は会ったときに話すって。何度かの手紙のやり取りのあと、デシラは会う日を今日に指定してきた。今日を逃すと次はいつ会えるかわからなくなるっていうの。なんとかバエントに外出できるよう頼み込んだけど時間の無駄だった。だからちょっとした騒ぎを起こして抜け出すことにしたの」


「だからって火まで起こさなくても…」


「延焼させないよう配慮したわ。あらかじめ地面と壁に水をかけた廊下の真ん中でモゾの木を燃やしただけよ。煙がすごく出るって聞いてたんだけど想像以上だったわね。そのあたりの準備と実行はカッシュに頼んだの。今頃火は消されているでしょう。お客からは見えない通路だし、バエントにもいい薬になったと思うわ。あまり俳優をペットのように扱ったら噛みつかれるってね」


 クインリーは笑ってみせた。


「じゃあクインリーさんは、これからデシラさんに会いに行くんだね。その旧劇場まで」


「そういうこと。さっきの話に戻すけど、そこまで私を守ってくれないかしら。なんだか素性の知れない連中につけ狙われているみたいだし」


 ナナトは腕を組んで考え込んだ。


「ボディーガードはいいんだけど、相手の人数によったら僕じゃ力不足かもしれない。いったん劇場に戻ってツアムさんたちを連れてきちゃ駄目?」


「駄目よ」


 クインリーが即座に否定した。


「さっき空き地であの獣人が言っていたの。部下を劇場前に配置させてたって。あなたの顔はすでに見られているのよ。蜘蛛の子を散らすように逃げていった奴らが劇場まで戻っていたとしたらどうなるか分かるでしょ? そいつらも引き連れてくることになるわ」


 再び考え込むナナトを見て、クインリーが自信ありげに肩を叩いた。


「心配しないで。我に策あり。私もあなたも変装して旧劇場まで向かえばいいのよ」


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