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「うおおおっ! 急げナナト!」


 ポピルが全速力で階段を駆け上がり、ナナトもそれに付いていく。二人とも“火事だ”と聞いてしばらくその場で様子を見ていると、次々に劇場のスタッフたちが入口へと逃げてくるので、ポピルが現場に向かおうと提案したのだ。


「逃げ遅れている人がいるかもしれない。俺たちで助けるぞ!」


「うん!」


 ナナトとポピルは、逃げる人の流れに逆らうようにしてもと来た道を戻り始めた。ナナトは走りながら、火事の様子をうかがうために避難している人の会話に耳を傾ける。


「火の手は二階東側の通路であがっているらしい!」


「東側から逃げるのは駄目だ。煙がひどい。奥にいる作業者たちは全員西側の廊下へ向かうんだ!」


 そんな声が聞こえてくるが、スタッフたちはパニックになっている様子はなく、誰もかれも逃げろと伝聞されて、半信半疑ながら小走りで避難しているといった感じだ。


 二階へ上がると、廊下全体が白っぽい煙に包まれていた。霧ほど濃くはないないものの、何かが焦げているような匂いもする。


「急げ! こっちだ!」


 ポピルの後を追うと、前から二十名ほどのスタッフの集団が早歩きでやって来た。全員が作業服を着ていることから、内装作業者だ。何人かは防災頭巾のように頭からフードを被り、煙を吸い込まないよう布切れを口に当てていたので、ナナトもそれを見習ってシャツの裾で鼻をふさぎ、ポピルと共に廊下の端に立ち止まって避難者を優先して先に通した。


 一団が通り過ぎたとき、ふと、ナナトは違和感を覚えた。

 おかしい。

 そう思って入口へと避難していった作業者たちの後ろ姿を目で追いかける。


「ポピル! 待っ…」


 ナナトがポピルに相談しようと振り返ってみると、すでにポピルは廊下の奥へと走り去り、曲がり角の先へ消えていくところだった。


 どうしよう。


 一瞬考えた後、ナナトはポピルに背を向け、入口に向かって駆け出した。


「助けに来たぞ! 大丈夫か!」


 懸命なバケツリレーで消火にあたる現場へとやって来たポピルは大声を上げ、すぐに煙でむせこんだ。


「ポピル?」


姐御あねごか!」


 ポピルは等間隔で並んだ列からツアムを見つけて近付いていく。ツアムは口元に覆っていたシャツを外して話し始めた。


「心配ない。火はじきに消し止められる。ここはいいから、クインリーの控室へ行って伝えてきてくれないか。火災はたいしたことないから慌てず落ち着くようにと」


「心得た」


 ポピルはまた走り出した。


 クインリーの控室まで来たポピルは殴りつけるように扉をノックし、大事な雇人だと思い出して続けざまに今度は静かなノックして声を張り上げた。


「クインリーさん? 護衛のポピルです! 火はじきに消せるそうです! 慌てず落ち着いてください」


 返事はない。


「クインリーさん? 入っていいですか? 入りますよ?」


 ポピルは扉を開けて控室の中へと入った。部屋の中には誰も見当たらない。

 嫌な予感がしたポピルは衝立の裏の着替え場や部屋のカーテンの後ろなど部屋の隅々まで回ってみた。だが…。


 部屋はもぬけの殻となっていた。


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