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護衛の仕事

 大女優の身辺警護、とはいっても特別華々しい仕事ではなかった。


 肝心のクインリー・カースティは劇場にいるうちの大部分を舞台上の稽古で過ごすし、クインリーの控室も近付くものさえいないのですぐに手持ち無沙汰となる。


 結局ナナトたちは、昼以降の時間をクインリーの控室の前で立ち尽くすか、新劇場内を何周も見回りするといった味気ない行動に費やした。

 

 日が暮れ、クインリーが馬車に乗って自宅へ帰るのを見届けるときも特に何も起きなかったので、五人は街の宿屋で晩を迎える。


「うーん…あと二日も同じ仕事があるのかあ。私、今日ですっかり飽きたわ」


 女性三人の相部屋の中で、すっかりくつろいだ様子のスキーネがベッドに腰を掛けて背伸びをしながら呟いた。化粧台の前で鏡を見ながら櫛で髪を梳かしていたツアムが鏡越しにスキーネを見つめる。


「仕事とはそういうものさ。それよりあたしはルッカの訛りに驚いたよ。全然知らなかった。スキーネと出会ったときも訛ってたのか?」


「ええ、それはもうひどかったわ。私が九歳になる少し前ね。ルッカは寄宿舎とか何も通わず地元から直接うちに来たものだから、言葉もしきたりも礼儀作法もほとんど知らなったの。私はしょっちゅう訛りをからかってたわ。でも屋敷の教育と本人の努力で一年が経つ頃には普通になっちゃった」


 スキーネはベッドに跳び込むようにうつ伏せで寝そべると、頬肘をついて窓際の椅子に座っているルッカを見やった。


「私だって久しぶりに聞いたのよ。よほど感極まったのね、ルッカ」


 ルッカは熱に浮かされたような表情で夜空を眺めている。スキーネに名前を呼ばれて一拍遅れてから振り返った。


「はい…そうですね」


 ルッカは立ち上がると、フラフラと歩いて自分のベッドまで歩き、横になった。


「おやすみなさい。スキーネ様。ルッカ様」


 スキーネとツアムはお互い顔を見合わせ、思わず笑みをこぼした。


 翌日もまた、昨日と代り映えのない仕事となる。五人ともローテーションで控室の守衛に立ちながら劇場内を回り歩いたので、どの道にどの部屋があるかすっかり覚えてしまったほどだ。さすがにスキーネ、ポピル、ナナトの三人は退屈を表情から隠さなくなったものの、ルッカだけはどこにいても、何をしても少しも目を輝きが色褪いろあせなかった。


 さらにルッカにとって嬉しかったのは、昼食時、クインリーから直々に“あなたの故郷の話が聞きたい”と二人きりでの食事に誘われたことだ。これにはさすがにスキーネも嫉妬したのだが、クライアントからの要望とあれば何も言うわけにはいかず、大人しく引き下がって食後にルッカからクインリーとどんな話をしたのか根掘り葉掘り聞いてみた。


「たいしたことは話してません。私の故郷がどんなところで、家族がどんな感じなのかクインリー様に聞かれたことに答えただけです」 


 たいしたことない、と言いつつもルッカは満足げな表情だった。心なしかほんの少しだけ、スキーネに対する優越感も出している。


「ああ…。私、今日が命日になっても悔いはありません」



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