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バエント

 バエントと名乗る男は、自らをクインリーが所属する劇団の支配人だと自己紹介してから、手ごろな小遣い稼ぎになるクエストはないかと探していたツアムたち三人に近寄ってきた。


 いわく、劇団の警護について頼みたいクエストがあるのだという。


 ツアムが概要だけでも説明してほしいと求めると、演劇史上最高の演技力を持つと言われる女優、クインリーの身辺警護に関する依頼であり、詳細は劇団の一室に招いて説明したいと申し出てきた。


 憧れの人物の警護に当たるというクエストに目を輝かせたのはもちろんルッカだ。スキーネとツアムも同意し、三人はナナトとポピルを招き寄せて、バエントに先導されながら劇団へと向かうことになった。

 十五分前に見上げた豪奢ごうしゃな神殿作りの劇場の中へ一行は入っていく。バエントが入口の警備に立っていた人に軽く手を振ると、警備人は厳かに頭を下げて道を譲り、五人は劇場のエントランスへと通った。


 劇場はどうやら新築らしく、一つのホコリもない絢爛豪華な内装の施された廊下を進み、客間と思われる一室へと案内された五人は、バエントに椅子に座るよう促されると、しばらく待ってほしいと言われ、バエントは退出した。


 小さな客間とはいえ、綺麗に清掃、整頓された部屋で、削りたての大理石の匂いを感じる。ルッカは、今ここにいるのが信じられないといった面持ちで部屋をうろうろと回り始めた。


「信じられません! あのクインリー様の身辺警護につけるなんて…。私、たとえ無給でも頑張ります!」


「報酬が出ないのは困るな」


 ツアムは羽織っていた防弾ケープを脱ぐと、髪を梳いた。


「しかしまた、どうしてあたしたちに依頼してきたんだろうな? 通常、こういった著名人の警護を任される仕事は、身元を徹底的に洗って、背後に影がなく実力も確かである者が適任者として選出されるのに。誰かのコネでもあれば別だが」


 ツアムがチラと横に座ったスキーネを見やると、スキーネが笑いながらかぶりを振る。


「残念だけど、私じゃないわ。私ができるのはせいぜいお父様にお願いして劇場の一番いい席を買ってもらうことぐらいよ。さすがに他所の国の有名人の警護の仕事を回してもらうのはお父様だって無理があると思うわ」


「そうか」


「いいじゃない。選ばれた理由なんて。きっと私たちが女だからクインリーの警護に支障ないと思われたのよ」


 スキーネがそう言ったとき、部屋にバエントが入ってきた。クエスト斡旋所の隅に居ても目を引かれることのない、ありきたりな服装をしていた格好を着替え、今は仕立てのいいシャツに一目で高価とわかる皮ズボンを履いている。


「失礼。正式な依頼をするにあたって身なりも整えようと思ってね。飲み物を持ってこさせよう。ハーブティーでいいかね?」


 五人が頷くと、バエントは入口の外に立っていた事務員らしき人に飲み物を注文して取りに行かせた。


「さてと。仕事の内容だが、君たちには週末に行われる公演までの間、うちの看板女優の警護を務めてもらいたい。斡旋所でも言ったが、クインリー・カースティの身辺警護だ」


 言葉を切り、バエントは続けた。


「実は、彼女をつけ狙うストーカーがいるのだ」


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