情報板
ナナトは情報板を上から下までつぶさに読み、欲しい情報がないことを確認してほっとため息をついた。そこへ、斡旋所の運営スタッフらしき正装をした男性が、なにやら慌ただしい様子で情報板へ駆け寄ってくる。スタッフの手には、手紙が握りしめられていた。
「ちょっと通して。ちょっと。緊急ニュースだ」
運営スタッフは情報板の一番目立つ箇所の前に陣取ると、カドキアでの干ばつのニュースを消して、新たにチョークで新情報を書き始めた。
【アトラマスの首都にベネアード一派が侵攻し、正規軍と交戦。リシカルフ国王は非常事態宣言を発令。アトラマスの国境は全て封鎖】
情報板の一番前にいたナナトの後ろに、続々とギルダーたちがやってくる。
「おい、これは本当なのか? ベネアードがついに首都まで?」
髭を生やした強面の男が尋ねると、スタッフが戦慄した表情で頷いた。
「今朝一番に早文で届いたニュースです。正真正銘、戦争状態にあるらしいですよ。アトラマス側の兵士の犠牲者もすでに千人にのぼっているとのことです」
運営人が答えたのを皮切りに、あちこちから矢継ぎ早に質問が飛び交った。
「情勢はどうなっているんだ? アトラマス軍が優勢なのか?」
「ヴァンドリアは何をしてる? 以前よりベネアード一派鎮圧のために兵を送ると言っていたはずだ」
「国境封鎖はいつまで続くんだ?」
「ギルドの判断は? 戦争にかかわるクエストはなにか出ないのか?」
いつの間にか三十人前後が情報板の前に集まり、熱を帯びてスタッフに対し質問を浴びせたものの、スタッフはほとんど“わからない”の一点張りだった。
「夕方には早馬が着く予定です。詳細な情報はそのときに改めてお知らせします」
進展がないまま騒がしくなってきたので、ナナトは屈みながら集団を抜け出した。
ナナトは世の中の情勢について疎いものの、どうやらヴァンドリアより西の国、アトラマスで戦争が起こったらしいことは飲み込めた。アトラマスといえばポピルの出身国だ。どういうことなのかポピルに聞いてみようと思い立ったナナトは、ポピルがいる雑誌コーナーに目を向けた。
しかしすでに、ポピルは雑誌コーナーから情報板の方へ移動していた。ガヤガヤと騒ぐ集団の一番後ろで、ナナトが見たことのない表情をして話を聞き入っている。怒っているような悲しんでいるような…、いや、やっぱりとても怒っている顔だ。
「ナナト」
そのとき、ナナトの後ろからスキーネの声が聞こえてきたので振り返った。そこには、興奮気味のスキーネにルッカにツアム。そして見慣れない小太りの男が立っている。スキーネが上気した顔で近づくと、ナナトの耳元に囁いた。
「大ニュースよ! 私たち、女優クインリーの警護につけるかもしれないわ!」




